【7話】作戦決行!
「ちょっと用事があるから、先にベンチに行っていてくれ」
昼休憩、ステラにそう伝えたリヒトは、二年Aクラスの教室へと向かった。
ひょいひょいっと、教室の外から手招き。
リリーナを廊下へ呼び出す。
「『私が作ったお弁当』――そう言って、これをクロードに渡せ」
手に持っている弁当箱を、リリーナへ差し出す。
弁当箱の中身は、今朝レリエルと仲良く作った料理だ。
「これがあんたの作戦って訳ね。分かったわ」
弁当箱を受け取ったリリーナは、教室へ戻っていく。
あとはクロードに弁当箱を渡せば、今回の作戦は完了だ。
(大丈夫! 絶対うまくいくはずだ!)
言い聞かせるかのように念じるリヒト。
教室の外から、リリーナの様子をじっと伺う。
黒色の髪に赤い瞳を持つ美丈夫――クロードに、リリーナが声をかける。
「クロード、少しいいかしら?」
「何の用だ。最近は静かになったと思ったのに、また逆戻りか?」
わざとらしくため息を吐いてみせたクロード。
リリーナへの好感度が、依然としてマイナスなのは明らかだ。
十日ばかしアプローチを止めただけでは、好感度は改善しなかったのだろう。
しかし、大丈夫。
この作戦が成功すれば、好感度はグンと上昇するはずだ。
「違うの! 今日はそうじゃない……。あなたに渡したいものがあるの」
リヒトから受け取った弁当箱を、クロードへ差し出す。
「これ、あなたのお弁当。私の手作りよ」
「そうか」
淡々と言ってみせたクロードは、まるで興味なさげだった。
(は!? 嘘だろ!)
ゲームのクロードは、ステラが手料理を作ってきたとき、戸惑いながらも内心では喜んでいた。
それがどうだ。
リリーナの手作り弁当(という設定)に対し、クロードはまったくの無反応。とてもじゃないが、喜んでいるとは思えない。
手作り弁当と言って差し出せば、クロードは必ず受け取ってくれる。
そう思っていただけに、これは完全なるイレギュラーな事態。
どうやら思っていた以上に、リリーナの好感度は低かったようだ。
(クソっ……! こうなったら強硬手段だ!)
腹を決めたリヒト。
大股歩きで教室に入り、リリーナとクロードの元へ向かう。
「そりゃそうだよなあ! 性悪令嬢のリリーナが作った食い物なんて、誰が食べるかよ! 毒でも入ってんじゃないのか! ハハハハハ!!」
「……貴様。誰だか知らないが、それはいくらなんでも言い過ぎだ。彼女に謝れ」
クロードの表情には変化はない。
しかし鋭く尖った声色には、静かな怒りを感じる。
彼の怒りを真正面から受けたリヒトは、それを鼻で笑った。
「やなこった! お前もそう思ったから、受け取らなかったんだろ? 俺とお前は同類だ!」
「貴様と一緒だと……。不愉快だ。俺は断じて、貴様のようなクズとは違う」
リリーナの弁当箱を、やや強引にクロードの右手がかすめ取っていった。
(よし、受け取った!)
クールで他人には興味なさげに見えるクロードだが、その実、思いやりに溢れる優しい性格をしている。
そんな彼の性格にリヒトは賭けた。
リリーナを酷く侮辱すれば、弁当箱を受け取ってくれると踏んだのだ。
賭けは見事に成功。
代償としてクロードに嫌われただろうが仕方ない。
これも惨劇を回避するためだ。
「けっ、つまんねえな!」
チンピラよろしくの捨て台詞を吐いて、リヒトは教室を出ていった。
放課後。
「あ、リリーナに言ってなかった」
リヒトの呟きが、旧校舎の空き部屋にぽつんと浮かんだ。
放課後ここへ来るように伝えるのを、すっかり忘れていたのだ。
である以上、リリーナが自ら来ることは無いだろう。
「もう家に帰ったよな。……仕方ない。また明日だ」
そのとき、ドアがバタンと開く。
ドアの向こうには、リリーナが立っていた。
顔面に浮かぶのは満面の笑み。今までに見たことないくらいご機嫌な様子だ。
スキップで部屋に入ってきたリリーナは、まっすぐリヒトの元へ向かう。
そして、ドン!
リヒトの両肩へ、興奮気味に手を乗せた。
「パーーーフェクト!!」
「え、え? なんのこと?」
「あんた、とってもやるじゃない! 見直したわ!」
弾みに弾んだ声が響く。
赤色の瞳をキラキラ光らせて言ってきたのは、熱の入った賞賛の言葉だった。
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