【42話】一方的な別れ
放課後、空き部屋の丸テーブルに座っているリヒトは、ソワソワと落ち着かない気分でいた。
「あいつ、来てくれるよな……」
昼休憩に、かなり酷いことをしてしまった。
間違ったことを言ったとは思わないが、あの行動はやりすぎだ。
頭を冷やすのに十分な時間が経った今、リヒトは深く反省していた。
とりあえず、リリーナに謝罪をしたい。
その気持ちで、頭がいっぱいになっていた。
「にしても、今日は遅いな。……やっぱ来ないのかな」
いつもならとっくに来ている時間なのに、姿が見えない。
昼休憩のことがあったせいで、顔を出しづらいのかもしれない。
となれば、このままここに居てもリリーナに会えないだろう。
そう思って、丸テーブルから立ち上がったときだった。
ドアが開き、リリーナが部屋の中に入ってくる。
リヒトはさっそく謝罪の言葉を述べようとするが、彼女はそれより早く、
「もうここには来ないから」
と口にした。
入室早々に飛んできたのは、絶縁宣言だった。
いきなりそんなことを言われたリヒトは、頭が真っ白になりそうになる。
しかし、なんとか平静を装った。
「お前もしかして、昼のこと気にしているのか? だったら――」
「違うの。それとは関係ない」
「じゃあ、どうしてだよ!」
興奮気味になってしまう。
思っていたよりも大きな声が出てしまったことに、すまない、と謝る。
「私の恋を全力で応援する――初めて会ったとき、あんたは私にそう言ったわよね」
「ああ」
「あんたが何もしなくても、私とクロードは結ばれる。もうね、そういう段階なのよ。だからもう、あんたのサポートはいらない。つまりは、お払い箱って訳。今までご苦労様」
リリーナの言う通りだ。
色々な体験を積み重ねてきたおかげで、今の二人の関係はかなり親密になっている。
このまま時間が流れていけば、何もしなくても結ばれるのは確実だ。
それこそ、リヒトはもう必要ないだろう。
そんなことは、だいぶ前から分かっていた。
「…………まだ分かんねえだろ」
でも、リヒトは認めない――いや、認めたくない。
リリーナとの時間を、まだ終わらせたくなかった。
笑い合って、時には泣くような彼女との時間を、これからもずっと続けていきたかった。
「ううん、分かるわ。凡人のあんたと違って、私は天才なんだから」
「……何だよそれ。訳分かんねえ」
「今までありがとうね。あんたには本当に感謝してるわ。だから絶対、幸せになりなさいよ」
微笑んだリリーナは、リヒトに背を向ける。
別れの挨拶は終わったといわんばかりに、ドアノブに手をかけた。
(なんだよそれ! 一方的すぎるだろ!)
あまりにも一方的な終わり方に我慢できなかったリヒトは、待てよ! と、大きめの声を上げた。
「このまま終わって、お前はそれでいいのかよ!!」
瞬間、失敗した、と後悔。
このまま終わってもいい、そう思ったからこそリリーナは終わりを告げてきたのだ。
聞かずとも、答えは分かりきっている。
それなのに言ってしまったのは、関係を終わらせたくない、とリリーナの口から聞きたかったからだ。
自分と同じことを考えていて欲しかったからだ。
そう、全てはリヒトの身勝手な願望だった。
「――!」
一瞬だけ動きを止めたリリーナは、背中を小さく震わせた。
でも、それだけだ。
振り返ることはない。
「ばいばい」
震え声で別れの挨拶を告げ、彼女は部屋を出ていってしまった。




