【38話】ダンスパーティーの夜
メルティ魔法学園の敷地内で一番大きな建造物、大ホール。
今宵はそこで、ダンスパーティーが行われていた。
「結構な人数がいるもんだな」
会場にいるリヒトは、周囲を見ながらそんなことを思う。
参加者たちは、みんな笑顔で楽しそうだ。
そんな中、リヒトは会場の隅で目立たないように立っていた。
ペアであるステラとは、この会場内で合流することになっている。
タッタッタという足音が近づいてくる。
それは、ペアであるステラのものだった。
「こんばんは、リヒトさん。お待たせしてしまい、申し訳ございません」
一瞬にして目を奪われた。
今晩のステラは、今までで最も可愛らしい姿をしていた。
フリルのついた純白のドレスを、完璧に着こなしている。
その姿を例えるなら、汚れを知らない無垢な天使だった。
頭上には、天使のわっかが見えるような気さえする。
「どうでしょうかリヒトさん。似合っていますか?」
「……」
リヒトは言葉を失っていた。
目の前にいるステラがあまりにも可愛すぎて、その衝撃で、言葉が吹っ飛んでしまったのだ。
「せっかくのパーティーなので気合を入れてきたのですが、やっぱり変でしたかね……」
「そんなことない! 今日のステラは天使だ!」
つい勢いで、思っていることをそのまま吐き出してしまった。
(天使って何だよ!)
子供じみたことを言っている、と、ステラには思われてしまっただろう。
想像力の幼稚さが悔やまれる。
恥ずかしさの濁流に、全身が飲み込まれる。
とてもじゃないが、ステラを直視できない。顔を下に向けた。
(笑われてないかな)
チラッと顔を上げてステラを見てみれば、彼女はもじもじしていた。
つるんとした頬が、綺麗な赤色に染まっている。
「ありがとうございます。リヒトさんにそう言ってもらえて、とっても嬉しいです」
えへへ、と恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。
キュン!
リヒトのハートが大きく跳ねる。
その反応はずるい。
世の中の可愛いを一挙に集めても到底敵わないような、最強の可愛さだった。
(……あぁ、来てよかった)
ダンスパーティーなんて、くだらないイベントだとばかり思っていた。
けれどリヒトは今、パーティーに来てよかったと心から感じている。
最強に可愛いステラの姿を、こうして見ることができたのだ。
それだけで、ここに来た価値があるというものだろう。
「ありがとうな、ステラ」
「いきなりお礼を言うなんて、ふふ。変なリヒトさんです」
「二人とも、パーティーを楽しんでいるようだな」
絵に描いたような美男美女の組み合わせが、こちらへやってきた。
リリーナとクロードだ。
漆黒のエンパイアドレスと、漆黒のタキシード。
二人は衣装の色をお揃いにしていた。
高級感あふれる引き締まった服装は、クールな外見をしている二人との相性が抜群。
美しさが、より一層引き立っていた。
(みんな輝いてるな……。それに比べて俺って……)
深いため息を吐く。
美形三人に囲まれているリヒトは、多大な劣等感に打ちひしがれていた。
「どうしたリヒト? いきなり落ち込んだ顔して」
「自分の平凡さを痛感して、悲しくなっていたところだ」
「よく分からんが……とりあえず元気を出せ」
心配そうな顔をしたクロードに、肩をポンと叩かれる。
本気で同情してくれているあたり、本当にいいヤツだ。
「ありがとな。それよりそのタキシード、とっても似合ってるな」
「お前褒められても嬉しくないが、一応礼は言っておこう」
「ひでえやつ。素直に喜んでおけよ」
顔を見合わせたリヒトとクロードは、同じタイミングで小さく噴き出した。
「リリーナ、お前も――」
似合っているな、そう言おうとして止めた。
ものすごい剣幕で睨まれていることに気づいたからだ。




