表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/46

【36話】うそつき ※ステラ視点

 

 リヒトは綺麗に野菜スープを完食してくれた。

 

 最初から最後までずっと、美味しい、と言ってくれたことが、ステラはたまらなく嬉しかった。

 

「美少女のお見舞いと、美味しい食事……最高だ。こんな体験ができるなら、風邪を引くのも悪くないな」

「ふふふ。冗談を言う元気があれば、もう大丈夫そうですね」

「あぁ! もうすっかり元気――あ」


 リヒトの体がグラリと揺れる。

 一見元気そうだが、まだまだ本調子にはなっていないのだろう。

 

「私のことは気にせず、お休みになってください」

「……悪いな。この埋め合わせは今度するよ」


 ベッドに横になったリヒトは、ほどなくして寝息を立て始めた。

 

 無防備な寝顔をしている。

 いつもはあんなに頼りがいがあるのに、今だけはとても弱々しく感じた。

 

「ふふ、可愛い」

 

 体を乗り出したステラは、リヒトの頬にピタリと手を添える。

 

 彼の熱が全身に流れ込んでくるような気がした。

 一体感のようなものを感じる。

 

 とても幸せだ。

 

「この時間がずっと続けばいいのに」


 世界の時間を、このまま止めてしまいたい。

 今感じている幸せな瞬間を、永遠にしてしまいたい。

 

 けれど、時間の流れは止まってはくれなかった。

 

「あら、ステラも来てたのね」

「…………リリーナさん」


 部屋に入ってきたのは馴染みのある人物、リリーナ・イビルロータス。

 彼女はスタスタとこちらへ向かってくる。

 

 リヒトの頬から慌てて手を離したステラは、乗り出していた体を元に戻した。

 

 どうして来たんですか。もしかして私の邪魔をしに来たんですか。いいから、ここから早く出ていって。私の幸せを壊さないで。

 頭に浮かぶのは、そんな暗くてねばついた感情を含んだ言葉ばかりだった。

 

(ダメ!! 何考えてるのよ私!)


 リリーナは恩人だ。

 彼女が勉強を教えてくれたからこそ、ステラは期末試験を乗り越えることができた。

 

 恩人に対して黒い感情を向けることは、絶対に間違っている。

 

 それに、二人はただの友達同士だ。


(リリーナさんは友達が風邪を引いて心配だから、ここに来ただけ。きっとそう。間違っても恋愛感情なんて――あれ……?)


 そのとき、リリーナの首から下がっているものが目に入ってしまう。

 

 それは、シルバーのネックレス。

 まったく同じ物を、ステラも持っている。

 

 レーベンドフェスティバルでリヒトにプレゼントして貰った、ステラにとって大切な宝物だ。

 

(たまたま……だよね。同じものを、リリーナさんもたまたま持っているだけだよね)


 そう思ったが、この胸騒ぎはなんだろうか。

 嫌な予感がする。

 

「あの、そのネックレスって……」

「これ? ふふ、綺麗でしょ。フェスティバルのとき、リヒトに買ってもらったのよ。せっかくだから、付けてみたの。似合っているかしら?」


 ネックレスを手に持ったリリーナは、嬉しそうに、それでいて、とても愛らしそうにネックレスを眺める。

 

 熱を孕んでいるその視線に、ステラは確信する。

 

(…………そっか。リリーナさんも、私と同じなんだ)


 薄々は気づいていた。

 リヒトを見るリリーナの視線は、クロードへ向けているものとそっくりだった。

 その視線には、熱がこもっていたのだ。

 

 でも、弱々しかった。

 クロードへ向けていた視線に比べ、熱が弱く感じられた。

 

 だからステラは、深く考えなかった。

 リリーナが好きなのはクロードで、それは今後もずっと変わらない、とそう思っていた。

 

 けれど、今はどうだろうか。

 ネックレスへ向けている熱はクロードと同じくらい――いや、それ以上かもしれない。

 

「……リリーナさん。一つ、お伺いしてもよろしいですか?」

「ええ、いいわよ」

「リリーナさんとリヒトさんは、ただのお友達同士。そうですよね?」

「そんなの当たり前じゃない。……どうしてそんなこと聞くのよ?」

「いえ、これといった深い意味はありません。ありがとうございます」


 スッと立ち上がる。

 

「私、用事があるので失礼しますね」

「え、ちょっと」


 怪訝そうな顔で呼び止めるリリーナの声に、ステラはいっさい応じない。

 無言で横を通り抜けていく。

 

 扉のところで、一瞬だけ立ち止まったステラ。

 リリーナの背中へ、ちらりと視線を投げる。

 

「嘘つき」


 悲しみと怒りが含まれたその小さな呟きに、リリーナが気づくことはなかった。

読んでいただきありがとうございます!


面白い、この先どうなるんだろう……、少しでもそう思った方は、↓にある☆☆☆☆☆から評価を入れてくれると嬉しいです!

ブックマーク登録もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ