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【31話】……おかしいな


(……って、何を動揺してるんだ。別に問題ないだろ)

 

 告白する側とされる側。

 その立場だけが、そのままそっくり入れ替わる。

 

 しかしながら立場が入れ替わったところで、結果は変わらないだろう。

 なにせ、二人は両想いなのだから。

 

「そうか……。告白するんだな」

「えぇ。『あなたのことが好きです』って、自分の気持ちを精いっぱいぶつけてくるわ」


 リリーナの告白は、必ずや成功することだろう。

 

 これでリヒトの目的は達成される。

 友人であるリリーナの恋心も叶えられる。

 

 盛大な拍手で祝福すべき場面だ。

 口笛を鳴らして大はしゃぎする場面だ。

 

 それなのに、

 

(……あれ。おかしいな)


 リヒトはちっとも喜べなかった。

 体から溢れるのは、それとはまったく真逆の、じめっとした感情だった。

 

 デートに誘われたと聞いた時に、あんなに喜んでいたのが嘘みたいだ。

 

(…………そうか。俺は寂しいのか)


 人のことを馬鹿にしてきて、振り回してきて、不器用で、見かけより打たれ弱くて傷つきやすい。

 そんなリリーナとの時間を、リヒトは知らず知らずのうちに楽しんでいた。

 

 しかし、それはもう終わりだ。

 

 リリーナの恋をサポートするのが、リヒトの役割だった。

 目的が達成されたら、当然、サポートの必要もなくなる。

 

 放課後、旧校舎の空き部屋に行くことは、これでもうないのだろう。

 それが、思いのほか寂しいのだ。

 

 こうして終わりを告げられることで、リヒトは初めて自分の気持ちに気づいた。

 

(でも、だからってどうすんだよ……)


 今まで散々応援しておきながら、『まだ告白するな』なんて口が裂けても言えるはずがなかった。


 それになにより、リリーナの邪魔をしたくない。

 

 彼女が頑張ってきたのを、リヒトは誰よりも知っている。

 だから、報われて欲しい。幸せになって欲しい。

 

「頑張れよ」

 

 作った笑顔を浮かべて、リリーナへエールを送る。

 

(これでいい……。これでいいんだ……!)

 

 未来を救うために。

 リリーナの夢を叶えるために。

 

 これが正解だ。間違っていない――と、自分に強く言い聞かせる。

 

 寂しいなんていう気持ちは、間違いなのだ。

 間違いは口にすべきではない。とっとと捨てなければならない。

 

「それだけ? もっと他に言うことないの? あんたと恋愛相談するのは、これで最後かもしれないのよ?」

「えっと……お前なら絶対うまくいく! 自信を持て!」

「…………もういいわよ」


 失望した、と言わんばかりの視線を投げて、リヒトに背を向けるリリーナ。

 大きな足音を立てながら、振り返ることなく去っていった。

 

「俺に何て言って欲しかったんだよ……。クソっ、訳分かんね」


 正解を選んだ。間違ったことは言っていない。

 

 それなのに、どうしてこんなに苛つくのだろうか。

 やり場のない気持ちをどこへ向ければいいのか、まったく分からなかった。

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