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【28話】夏休みが終わって


 夏季休暇の季節になった。

 

 期間は二週間。その間メルティ魔法学園は休校となり、校舎の中に立ち入ることは許されない。

 リヒトとリリーナが毎放課後使っていた旧校舎の空き部屋にも、当然ながら入ることはできない。

 

 しかし夏季休暇の間も、リリーナの恋愛相談は連日行われていた。

 

「さ、今日も始めるわよ!」

「おう」


 恋愛相談の実施場所は、シードラン子爵邸のゲストルーム。

 夏季休暇に入ってからというもの、こうしてリリーナは毎日リヒトの家を訪ねてくるのだ。

 

 家に引きこもってダラダラしていただけの昨年の夏季休暇とは打って変わり、今年は毎日せわしない。

 せっかくの長い休みだというのに、ちっとも休んでいる気がしない。

 

 しかしながら、決して嫌という訳ではなかった。

 リリーナと会って話をする日々が、なんだかんだ楽しいとリヒトは感じていたのだ。

 

 

 そんなせわしない日々はあっという間に流れていき、学園が再開した。

 

 そして、交流会が開かれる。

 交流会というのは、夏季休暇明け早々に行われるイベントだ。

『同学年の生徒同士のコミュニケーションを深める』という目的の元、毎年開催されている。


 交流会の実施場所は、王都の外れにあるベーグル山。

 A、B、C――三つのクラスから分け隔てなくランダムで選出された四人がチームを組み、魔法学園の講師から指定された物を採取してくるという内容だ。

 

 

 今日は、交流会の当日。

 ベーグル山には既に多くの生徒がおり、事前に発表されたチームで集まっている。

 

「……まさかお前らとチームになるなんてな」


 リヒトは三人のチームメンバーを見渡す。

 

「足だけは引っ張らないでよね」

「が、頑張りましょう!」

「この四人でチームを組めるとは、どうやら俺は幸運に恵まれているようだ」


 リリーナ、ステラ、クロード。

 リヒトのチームメンバーは、よく見知った友人たちだった。

 

 本当にランダムで選んだのかと、選出した人間を疑いたくもなる。

 

(知らないヤツとチームを組むより百倍マシか)


 知らない人間と行動をともにするなど、コミュ障のリヒトにとっては苦痛以外の何物でもない。

 しかしこのメンバーであれば、交流会の間も気まずい想いをすることはないだろう。

 

 チームメンバーを選出したのがどこのどいつかは知らないが、心の中で感謝を捧げる。

 

「あなたたちの目標物は、封筒の中にある手紙に記載されています」


 そう言った講師が、リヒトに一通の封筒を渡した。

 

(魔法がかけられているな)

 

 封筒には魔法で封がなされていた。

 

 講師によれば交流会の開始宣言と同時に、封筒にかけられている魔法が解けるらしい。

 

 開始宣言はこの講師とは別の、学年主任の講師がすることになっている。

 

「それでは開始してください」


 学年主任の講師が大声で、交流会の開始を宣言する。

 それと同時に、封筒にかけられていた魔法が解けた。

 

「どれどれ」


 封筒から三つ折りの手紙を取り出したリヒトは、三人にも見えるように広げる。

 

 手紙には、『ブラッディローズ』『ウマイタケ』の二つが記載されていた。

 

 ブラッディローズは、高原に花を咲かせる真っ赤な薔薇。

 ウマイタケは、切り株に生える白いキノコだ。

 

「まずはどちらを取りに行く?」


 クロードのその問いに、リヒトは首を横に振る。


「二手に分かれよう。時間制限もあるしな」


 決められた時間以内に指定された物を講師に見せることができないと、マイナス評価を受けることになる。

 期末試験と同じく、マイナス評価を受けた場合には厳しいペナルティが待っている。

 

 交流会とは名ばかり。

 実際の中身は、実技試験のようなものだ。

 

「リヒトの言う通りだな。他の二人もそれでいいか?」


 リリーナとステラは、無言でコクリと頷いた。

 

「よし。では、組み合わせを決めよう。ここは公平に――」

「それなんだけどさ」


 割り込むようにして、リヒトが声を上げた。


「俺とステラでウマイタケを取りに行きたいんだけど、いいか?」

「構わないが……なにか理由があるのか?」

「実は、俺もステラも薔薇の香りが苦手なんだ。嗅ぐと気分が悪くなっちまうんだよ」


 というのは嘘だ。

 

 薔薇の香りは好きで、嗅ぐと心地いい気分になれる。

 それに、ステラからもそんなことは聞いていない。

 

 嘘をついたのは、リリーナとクロードを二人きりにしたかったからだ。

 

 そもそも二手に分かれようと発案したのも、それが理由だった。


 もちろん、制限時間に遅れたくないからというのも嘘ではない。

 しかし、せっかくリリーナとクロードが同じチームになったのだ。

 チャンスを活かさなければもったいないではないか。

 

「そういうことなら仕方ない。ブラッディローズは任せておけ」

「悪いな。その代わり、ウマイタケは俺らがちゃんと採っておくからよ」

「頼んだぞ。……では行こうか、リリーナ」

「う、うん。頑張りましょ」


 前進していく、リリーナとクロードの背中を見送る。

 

 リリーナは緊張している様子だが、以前に比べたら大分喋れるようになってきた。

 かなり大きな進歩だ。

 

「悪いな。巻き込んじまって」

「いえ、私もリリーナさんの力になれるようなことをしたかったので嬉しいです。私に勉強を教えてくれた恩人ですから」

「そう言ってくれると助かる」


 本当に良い子だ。

 ナデナデしたくなるが、以前困られたので今回は我慢しておく。


「……それに、私としてもこの方が嬉しいので」

「何か言ったか?」


 あまりにも小さい声量だったので、まったく聞こえなかった。

 しかし聞き返してみるも、ステラは「何でもありません」と、少し慌ててそう言うだけだった。

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