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【25話】リリーナよ、悪役令嬢らしくあれ


「明日の弁当は、これまで通り俺が作るよ」


 頑張って料理を作ったリリーナには悪いが、とても人前に出せるものじゃない。

 

 このマズさは、人体に悪影響を及ぼす可能性すらある。

 料理を食べたクロードが、体調を崩しでもしたら最悪だ。

 

 リリーナは自ら作った料理を一口食べる。

 そうすると、たちまち苦々しい顔になった。

 

「料理ってこんなに難しいのね……。知らなかったわ」

「人には向き不向きってのがあるからな。そんな気にすんなよ」

 

 軽く笑い飛ばすようにしてフォローしてみたものの、リリーナはしゅんとしている。

 フォローはむなしく、効果はほとんどない。

 

「私の手作り料理を食べて欲しかったけど、これじゃ無理そうね」

「諦めるのかよ」

「悔しいけど、私には料理の才能がないもの。仕方ないわ。全ては無駄だったのよ」

「……そんなの、お前らしくねえよ」


 二人が結ばれるという未来は、ほとんどもう確定している。

 手料理作りを諦めたところで、なんの影響も及ぼさないだろう。


 でもリヒトは、諦めて欲しくなかった。

 リリーナが一生懸命なのは、ずっと側で見てきたリヒトが誰よりも知っている。

 

 好きな人に料理を作ってあげたい。

 その気持ちを、その頑張りを、他でもないリリーナ自身に『無駄だった』なんていう言葉で片付けて欲しくなかったのだ。

 

「決めた。さっき言った通り、明日の弁当は俺が作る。でもその次は……やらない。リリーナ、お前が作るんだ」

「……そんなの無理よ。まともな料理なんて作れっこないもの。あんたも分かっているでしょ?」

「決めつけるのはまだ早い。大丈夫だ、俺がサポートしてやる」


 しょんぼり下がっているリリーナの肩を、ポンと叩く。

 

「明日からの一週間、放課後は空き部屋じゃなくて俺の家に来い。特訓だ。しかも猛特訓。俺がみっちり料理を叩き込んでやる」

「……何が特訓よ。生意気言っちゃって」


 フンと、顔を背けるリリーナ。

 けれど口元がわずかに上がっているのを、リヒトはしっかり見た。

 

「この私に教えるからには、しっかり結果を残しなさいよ。いいわね?」

「お前なあ……。そういうのって普通は、俺が言うセリフだろ」


 これでこそリリーナだ。

 自分勝手な物言いに文句をつけながらも、やはりリヒトは嬉しく感じていた。


「いちいち細かい男ね。私のために働けることを感謝しなさいよ。で、返事は?」

「分かったよ。お前のダメダメな料理の腕を、一般レベルまで引き上げてやる」

 

 リリーナの料理の腕は絶望的。

 それをたったの一週間で一般レベルまで引き上げるというのは、かなり過酷な道のりになるだろう。

 

 けれども、やりたくないとか、面倒くさいとかはいっさい思わない。

 リヒトの体の中は、やる気で満ちあふれていた。

 

 諦めかけていたリリーナは、リヒトの声で再び立ち上がってくれた。

 そんな彼女のために、精いっぱいできることをしたい。

 

******


 リリーナへの料理指導を始めてから、一週間が経過した。

 

 人前に出せる料理を作れるように、リヒトはつきっきりで指導。


 リヒトの指導にリリーナは泣き言一つ言わず、必死に食らいついてきた。

 クロードに料理を食べてもらいたいという一心で、本当に頑張っていた。

 

 その甲斐あってか、リリーナの料理の腕は格段に良くなった。

 細かいことを言えばまだまだ気になる部分も多いが、十分に合格ラインと言えるだろう。

 

 そして今日は、正真正銘の自作弁当をクロードへ渡す当日だ。


「ちょっと待ちなさいよ」

 

 昼休憩になったので中庭のベンチへ行こうと教室を出たリヒトを、リリーナが呼び止めた。

 手にはバスケットを持っている。

 

「はい、これ」


 手に持ったバスケットを、押し付けるようにしてリリーナが差し出してきた。

 

 いきなりのことにリヒトは困惑。

 

(もしかして、リリーナは俺のために!?)

 

 ドギマギしながらも冷静を装い、いったいどうしたんだ、などと質問してみる。

 

「私としたことが、材料を買いすぎちゃってね。捨てるのももったいないし、仕方ないからあんたの分も作ってあげることにしたの。感謝しなさい」

「……そんなことだろうと思ったよ。まあでも、一応ありがとうな」


 期待してしまった自分が馬鹿みたいだ。

 差し出されたバスケットを受け取ると、「なによその言い方は」と、リリーナが唇をとがらせた。

 

「じゃあな」

「あれ? 教室で食べないの?」


 外に行こうとしているリヒトを、リリーナが不思議そうに見る。

 

「俺はいつも中庭で昼を食ってんだよ。教室は好きじゃないからな」

「あぁ、そういうこと……」


 何かを察したようなリリーナ。


「ごめんなさい。悪いことを聞いたわね」

 

 かわいそうなものを見る目を向けられる。

 あのリリーナが、本気で憐れんでいた。

 

 それはそれで少し腹が立つので、ささやかな反撃をしてやる。

 

「別に寂しくはないさ。一緒に食べるヤツもいるしな」

「へぇ、誰よ?」

「ステラだよ。前に俺の家で会っただろ?」

「……ふーん。あんたって、ああいう子が好みなのね」


 リリーナがニヤニヤする。

 

(何でそうなるんだよ)

 

 小さくため息を吐いてから、リヒトはその場を去っていく。

 

 お前の勘違いだ、と言ってやりたい気持ちはあった。

 しかしそれを口にしたところで意味がないような気がしたので、不本意ながらも言葉を飲み込むことを選んだのだ。

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