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【16話】フェスティバル当日


 フェスティバル当日。

 青空が広がる正午、王都の街には、リヒトたち四人の姿があった。

 

 石畳でできた路上は、多くの人で賑わっている。

 

 王都の街は、常に人通りが多い。

 しかし今日は、いつもの比ではなかった。

 

 フェスティバルの影響だ。

 ボーっとしていたら、大勢の人の波にのまれて迷子になってしまうかもしれない。

 

「お兄様っ!」


 レリエルが、パッ、と片腕を差し出してきた。

 

「離れたら迷子になってしまいます! エスコートしてください!」

「……確かにそうかもしれないな」


 そこまでしなくても、とは思うが万が一ということもある。

 差し出しされた小さな腕を、リヒトはギュッと握った。

 

 そんな二人を見たクロードが、「ふむ……」と呟いた。


「俺たちも繋ぐか」


 クロードがリリーナの手を掴んだ。

 

 顔を赤くしたリリーナは、ひたすらにあわあわしている。

 食事会のときと同く、大いに緊張していた。

 

 二人一組で手を繋ぎ合った四人は、人だかりの中を歩いていく。

 

 最初に向かったのは、ハンバーガーを販売している露店だった。

 お昼にはもってこいの時間なので、まずは昼食を摂ることにしたのだ。

 

「俺は普通のハンバーガーにしようかな」

「私はチーズバーガー!」

「テリヤキバーガーというものを、いただいてみるか」

「…………」


 三人が注文を終える中、リリーナは無言。

 メニューとにらめっこをしている。

 

 そのまま、結構な時間が経った。

 

「……えっと、リリーナはどれにするんだ?」

 

 見かねたリヒトが声をかける。

 

 しかし返ってきたのは、いらない、という返事だった。

 

「実は私、お腹減ってないの。私のことは気にせず、みんなは食べて」


 店主は既に調理を始めてしまっている。今さら、注文をキャンセルすることははできない。

 リリーナの言葉に、三人はただ頷くしかなかった。

 

 ハンバーガーを購入し終えた一行は、道の端にある横長のベンチに腰を下ろす。

 リリーナ以外の三人は、そこで食事を始めるのだった。

 

「こういう場所には初めて来たが、存外楽しいものだな」


 クロードがフッと笑う。

 

「こういった行事に、リヒトはよく参加するのか?」

「レーベンドフェスティバルには、レリエルと毎年来てるよ」

「ほう、兄妹仲が良いのだな」

「私たちは結婚予定ですからね!」


 私は義妹なので! 、と言って、レリエルは誇らしげに胸を張った。

 

 食事会のときに大スベリした冗談を、こりずに再びかましてきた。

 こういうところが、本当に残念でならない。

 

 今度もまたドン引きされる――そう思っていたのだが、クロードは大ウケ。

 

 面白いことを言う妹だな、と楽しそうに言ってみせた。

 クロードの笑いのツボは、大いにずれていた。

 

 そんな中、リリーナはだんまりだ。

 ずっと顔を下に向けている。

 

「フェスティバル、リリーナはよく来るのか?」


 会話に参加してほしくて、リヒトは話を振ってみる。

 

 リリーナは小さく首を横に振るも、それだけ。

 声は聞こえてこない。

 

 リヒトのもくろみは失敗に終わってしまった。

 

「そろそろ行きましょう!」


 大きめの声を出したレリエルは、すくっとベンチから立ち上がってみせた。

 これ以上ここにいてもリリーナのためにならないと、察したのかもしれない。

 

 合わせるかのようにして、三人も立ち上がった。

 

 食事を終えた一行は再び、人で溢れた路上を歩いていく。

 

「待ってください」


 アクセサリー類を取り扱っている露店の前で、レリエルの足が止まる。

 

「お兄様。私、これが欲しいです!」


 ピングゴールドのブレスレットを手に取ったレリエルが、それをリヒトの顔の前へ持ってきた。


「珍しいこともあるもんだな」


 普段からレリエルは、滅多におねだりをしない。

 お祭りだからといって、ねだってくるようなタイプでもない。

 

 レリエルの行動に少しばかりの疑問を感じるリヒトだったが、すぐにその意味を理解した。

 

「リリーナも欲しいものはあるか?」


 クロードが問いを投げる。

 きっとレリエルは、クロードにそう言わせるために、うまく誘導してみせたのだろう。

 

 我が妹ながら、素晴らしい仕事振りだ。

 有能すぎる策士に、惜しみない賞賛を心の中で贈る。


 リリーナはキョロキョロと視線を泳がせてから、シルバーのネックレスを手に取った。


 つくりはしっかりしているようだが、飾り気のない地味な見た目をしている。

 もっときらびやかな物を選ぶイメージがあったので、このチョイスは少し意外だった。

 

「それが欲しいのか?」

「い、いらないわよ!」

 

 語気を強めて言ったリリーナは、ネックレスを元の場所に戻した。

 

(何やってんだか……)

 

 あのネックレスを欲していたのは明白。

 しかし照れていたせいで、真逆の行動を取ってしまったのだろう。


 なんてもったいない。

 好きな人からプレゼントしてもらえるというチャンスを、リリーナは自ら台無しにしてしまったのだ。

 

「リリーナ様って素直じゃないですね。可愛らしいです」

「そうか?」

「あらお兄様。未来の奥様に向かって、冷たい言い方をするんですね」

「……お前は何を言ってるんだ」


 いきなり何を言い出すんだろうか。

 意味不明な言動に、リヒトは大きくため息を吐いた。

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