表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/46

【12話】不調


 カフェに入った四人は、窓際のテーブル席に案内された。

 

「素敵な雰囲気のお店ですね!」


 リヒトの隣に座るレリエルが声を上げると、

 

「彼女に同意だな」

 

 斜め向かいのクロードも大きく頷いた。

 

 好感触を示した二人に対し、対面に座るリリーナはだんまり。

 不機嫌、という感じではない。単純に、ものすごく緊張しているように見える。

 

「それにしても、君がこんな店を知っているとは意外だったな」


 クロードの視線が隣へ向く。

 

 このカフェはリリーナのお気に入り――今日の食事会に、リリーナはそんな設定で臨んでいる。

 

 私のお気に入りのカフェがあるんだけど、良かったら一緒に食事しない? 、そんな風にしてリリーナは誘ったのだろう。

 

 メニュー表を眺めるクロードが、ふむ……、と呟いた。

 

「どれも美味しそうで迷うな。……そうだ。せっかくだし、君のおすすめをいただこう」


 リヒトの口角がニヤリと上がる。


 この質問が飛んでくるとは想定済み。

 ホットサンドとレモンティー、そう答えろとリリーナには事前に伝えてあるのだ。

 

(言ってやれリリーナ! ホットサンドとレモンティーって!)


「え、えっと……。ホ…………」


 なんたることか。

 リリーナのおすすめは、ホ、になってしまった。

 そんなメニューは取り扱っていない。

 

「おい、早く言い直せ!」


 対面から小さな声で言ってみるも、リリーナは頬を真っ赤にしているだけ。

 言い直す気配は毛頭感じられない。

 

「私、ホットドッグとミルクティーにします!」


 不穏な空気を感じ取ったのか、レリエルが助け船を出してくれた。

 

 リヒトはそれを、うまく繋げていく。


「この店のおすすめを見抜くなんて、すごいじゃないかレリエル。『このカフェのおすすめは、ホットドッグとミルクティーよ』、って、前にリリーナが言ってたんだぜ」


 当然嘘だ。

 そんな話は聞いたこともない。

 

 しかし、その嘘は効果てきめん。

 

「おすすめはホットドッグとミルクティーか。……よし、それにしよう」


 クロードはあっさりと信じてくれた。

 

「じゃあ俺もそれにしようかな。リリーナも同じのでいいか?」

「……うん」

 

 風が吹いたら消えてしまいそうな声量で、リリーナは返事。

 小さく頷いた。

 

「注文をいいだろうか?」


 店員を呼びつけたクロードが、四人分の注文を始める。

 

 そのわずかな間に、リヒトはリリーナにこそこそ声をかける。

 

「どうしたんだ。お前らしくないぞ。もしかして、体調が悪いのか?」

「……違う」

「じゃあどうしたんだよ」

「えっと、その……」


 すっかりしおらしくなってしまったリリーナは目線を泳がせ、もごもごしているだけ。

 その……、の後が返ってこない。

 

 そうしている間に、クロードの注文が終わってしまった。

 

 リリーナの不調の原因は分からずじまいだ。

 

「お兄様。そういえばまだ、クロード様に自己紹介をしてませんよ」

「おおそうか。すっかり忘れていた」


 正面に向けていた顔を、斜め向かいへと向ける。

 

「二年Cクラスのリヒト・シードランだ。隣にいるのは、俺の妹。レリエルだ」

「レリエルです。いつも兄がお世話になっています」

「二人ともよろしくな。俺は二年Aクラス所属、クロード・ソシエスト。隣に座っているリリーナとは、同じクラスだ」

「はいはーい! 質問があります!」


 ぴょんぴょーんと、レリエルが元気に手を上げる。


「お二人は付き合っているんですか?」

「まさか。子どものときからの知り合いというだけだ。それ以上でも以下でもない。いや、どちらかというと嫌いなタイプ()()()な」


 レリエルの直球の質問に、クロードはかなりぶっちゃけた回答をよこした。

 

(……荒れるかもしれないな)

 

 嫌いなタイプ。

 そんなことを言われたら、リリーナの性格からして黙っていられないだろう。

 

 机を倒しイスをぶん投げて、暴れ回るかもしれない。

 クロードの胸倉を掴み上げて、ビンタを食らわせるかもしれない。

 

 そんなもしもの事態にすぐ対処できるよう、リヒトは心の準備を固めておく。

 

 しかし、リリーナは落ち込んでいた。

 

 肩をガクリと落とし、それはもう分かりやすいくらいに沈んでいたのだ。

 暴れ回る気配は微塵も感じられない。

 

「『嫌いだった』、過去形ですね。つまり今は、嫌いじゃないということですか?」

「何があったかは知らんが、最近は人が変わったんだ。いい方向にな」


 パアアッ……!

 陰っていたリリーナの顔に、キラリと眩しい晴れ間が差した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ