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偶然が頻発中

授業が始まってからは、勉強内容についていくことや学園に慣れることに精一杯で、しばらくはルシオン王子どころではなかった。

 

 

 1,2カ月ほどして学園生活に慣れてきたころ、学園内でルシオン王子との“偶然”が、よく起きているらしいことを耳にするようになった。

 

 

 

 偶然、王子の近くで転びそうになったご令嬢がいたり、偶然、王子の近くで落とし物をしたご令嬢がいたり、偶然、廊下の角で殿下にぶつかったご令嬢がいたり、偶然…、、、。

 

 

 

 

「みんな、考えることは同じね。なんだかルシオン王子が気の毒になってきたわ」

 

 アリカはため息をつきながらエルセに言った。

 

 

 

「本当にそうね。あ、これ貸出期間短いから気をつけて」

 

 

 エルセがアリカに本を差し出しながら、図書室のカウンターの向こうから言った。

 

 

 

 エルセは図書委員になったのだ。

 

 

 

 王立学園には、生徒たちの自主性を高めるために、生徒会と様々な委員が存在している。

 

 

 とは言っても、お坊ちゃんお嬢ちゃんが多いので、仕事をするなんてとんでもない、と委員会に属さない者たちも多数いるが、

 

 

 

 一応、学園の運営をしていくために、教師たちから打診される生徒もいるし、エルセやアリカのように人脈を広げる目的をもっていたり、単にこういった仕事が好きな生徒もいるものなのだ。

 

 

 ちなみにアリカは美化委員になった。

 

 

 

  

「私、時間まで勉強して待ってるから、エルセ、一緒に帰ろうよ」

 

 

「うん、いいよ。エキーザ兄さまも一緒に帰ってくれることになってるから、それまでアリカの勉強、見てもいいって言ってたよ」

 

 

「えっ、そうなの? 助かる~」

 

 

「エキーザ兄さまは、あそこの窓際の席にいるからね」

 

 

「わかった。…ところでさ、今日、図書室、やけに人が多くない? 」

 

 

「そうなのよ。たぶん“偶然”を狙ってる方たちなんでしょうね」

 

 

 

 

 エルセがくいっと首を傾けたほうを見ると、なるほど、ルシオン王子とリオス様、スカビオ様が、同じテーブルについて勉強をしてらっしゃるご様子。

 

 

 

 その3人を、少し遠巻きにして、女生徒が座っていたり、うろうろしていたりしていた。

 

 

 

 

「あのお三方、あれで落ち着いて勉強できてるの?」

 

 

「きっと高位の方は違うのよ。まあ、時折、本棚を覗いたりしてるから、ただの勉強じゃなくて、調べ物をしてるみたいね。だから図書室にいるんでしょう」

 

 

 

 なるほど。

 

 

 

 アリカは納得して、借りた本を持ちつつ、エキーザ兄さまのところへ行って、勉強を教えてもらうことにした。

 

 

 

 エルセの兄ではあるが、アリカも「エキーザ兄さま」と呼んでいるのは、小さい頃からエピデンド兄妹とアンセリウム兄妹は一緒に遊んだりしていて、ふたりの妹が「兄さま」と呼ぶと、どっちのことが分からなくなっていたからだった。

 

 

 

 だからエルセも、アリカの兄のアキレオのことを「アキレオ兄さま」と呼んでいる。

 

 

 

****************

 

 

 

 

 アリカがエキーザ兄さまのところへ行くには、ルシオン王子たちがいる机の傍を通らなければならなかった。

 

 

 鞄を持ち、本を数冊抱えたアリカは、歩きながら思った。

 

 

 

 

(きっとこういう時に“偶然”を発生させるのね。

  

 こうやって持ってる本を、さりげなく落として…)

 

 

 

 歩きながらアリカは、本を落とすイメージをした。

 

 

 

 

(手を滑らせて、本を落として…、落として…。

 

 えっと、いつ? いつ落とせばいいの? 

 

 手を滑らせる…ってどうやって?力を抜くの? )

 

 

 

 そんなことを考えているうちに、気がつくと、エキーザ兄さまのところまで来てしまっていた。

 

 

 

「…どうした、アリカ。座らないのか? 」

 

 立ち尽くしたままのアリカに、エキーザが尋ねた。

 

 

 

「エキーザ兄さま、偶然、って難しいのね…」

 

 アリカは、ハアッとため息をつくと、机に持っていた本をそっと置いた。

 

 

 

 

 その時、ドサドサッと重い音が図書室に響いた。

 

 

 

「大丈夫? 」

 

 

 見ると、ご令嬢が本を落とし、ルシオン王子たちがそれを拾うのを手伝っている。

 

 

 

「申し訳ありません。殿下たちにこんなことをさせてしまって…」

 

 

「いや、いいんだ。落とした本を拾うのは慣れている」

 

 

 

 ルシオン王子が諦めたように言ったのが聞こえた。

 

 



 やっぱり…。


 王子はもう“偶然”には飽き飽きなのね…。


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