偶然は素敵
ルシオン王子がアリカに挨拶してくることは、変わらず続いたが、不思議なことに嫌がらせは一切起きなかった。
「図書室でもね、前はルシオン王子たちがいると、皆そわそわと集まってきてたのに、最近はそんなに令嬢たちも来ないし、いても前よりはずっと落ち着いてるのよ」
「不思議よね。絶対なにかあったのよね」
「それで、ルシオン王子ってば、私にも声かけてきたのよ。
失礼、アリカ嬢のご友人ですよね。一緒にいらっしゃることが多いようなので、
なんて言われちゃって」
「へえー。エルセにも、声をかけたのね」
「そうなの。私が図書委員の当番で、王子が本を借りたりするときには、いつも挨拶くらいするようになったわ。もちろん、嫌がらせみたいなのも受けてないわよ」
「うーん、絶対何かあったわよね」
「そう思うわ。でも何があったにしても、こうして嫌がらせされることはないし、王子たちも普通に過ごせてるみたいだから、いいんじゃない?」
それはそうなんだけど、一応私は当事者なんだから、教えてくれたっていいんじゃない?
王子は気軽に挨拶してくるのに、リオス様は特に話しかけてこない。
また手紙で呼び出しとかして、説明してくれてもいいのに。
また“ユマの店”に来てくれてもいいのに、全く現れない。
偶然だなんて言ってたけど、絶対偶然なんかじゃないはずなのに。
同じ学園にいるんだから、話す機会があったっていいじゃない?
それこそ廊下の角でぶつかったり、落とし物を拾ってもらったり、実習で同じグループになったり、帰り道が同じだったり…。
そうだ。よく行くって言ってた本屋へ行ってみよう。
もしかしたら来てるかもしれない。
どんな本を読むんだろう。
そういえば、店に来たときは何を頼んでたっけ。
確か紅茶とケーキ。ケーキはチーズケーキだったような気がする。
チーズケーキが好きなのかな。
それなら町にあるチーズケーキ専門店にもよく行くのかもしれない。
町にはよく行くのかな。
私はバイトでよく行くから、偶然、会えたらいいのに。
偶然、出会えたらいいのに。…。
そんな偶然なんて、起こるわけないのに。
私もいつのまにか“偶然”を探してる。
千にも万にも1つの、ささやかな可能性にも縋りつきたくなってる。
もしかしたら…、もしかしたら…、って考えちゃう。
だって、もしかしたらそんな素敵な“偶然”が、あの人と引き合わせてくれるかもしれないから。
あの人のそばに近づけてくれるかもしれないから。
話したいなら直接、相手にそう言えばいいのに。
話したいんだから、こっちから話しかければいいのに。
それなのに“偶然”を期待しちゃうのは、想いがあるから。
どうでも良くない、大切にしたい想いがあるから。
想いが届くように繋げたい。
大切な想いを、もっと大切にできるようになっていきたい。
そうか、だから本を落とせるんだ。
わざと転べるんだ。
さりげなく落とし物ができるんだ。
大切な想いのために、行動ができるんだ。




