思うツボ
ユマさんの店へ向かう道すがら、さっきの話を思い出していた。
なんだか自分一人で思い込みすぎちゃってたのかな。
私、バカみたい…。
「ユマさん、今日もよろしくお願いします」
「はいよ、アリカちゃん。よろしくね。
さっそくだけど、お客さん来たみたいだから、お願い」
「はい」
忙しいランチの時間帯が過ぎ、お客も減ってひと段落着いたころ…
「いらっしゃいませ…、って、リオス様?!」
庶民服を着たリオス様が店に入ってきた。
「い、いらっしゃいませ。ご注文は?」
アリカはなんとなく気まずさを感じながら、接客をした。
「やっぱりな」
「な、何がです? 」
「指の怪我をした時、ユマ、って名前が出たから、もしかしてと思ったんだ」
「調べたんですか? 」
「まさか。偶然だよ。“偶然”。この近くに本屋があるだろう。あそこによく行くんだ。だからこの“ユマの店”のこともなんとなく知ってただけだ」
本当かしら?
確かに近くに本屋はあるけど…。
リオス様はお茶とケーキを頼み、本を読みながらしばらく店にいた。
「ユマさん、時間なのであがります」
「はーい。今日もお疲れ様。気をつけて帰ってね」
裏口から店を出ると…、リオス様がいた。
無視して素通りすると、うしろからついてきた。
「何かご用でしょうか? 」
「いや。ただの偶然だよ」
「そんなわけないでしょう! いい加減にしてください。私はもう関わりたくないんです」
「関わりたくないのは、嫌がらせされるから? 」
「そうです」
「それって嫌がらせしてる奴らの思うツボってことだよな」
「…!」
「もし嫌がらせがなかったら? アリカ嬢は本当は、ルシオン王子と関わりたいって思うのか ? アリカ嬢の本当の気持ちはどうなんだ? 」
「…本当の気持ち? なによ、下心ある奴はダメなんて言ってたくせに」
「下心があるから、できることもあるんだろ。アリカ嬢は王子に会うために猛勉強したから、あの国内トップクラスの王立学園に入れた」
「ま、まあね…」
「まあ俺は、猛勉強なんてしなくても入れたけどな」
「あら、そう。一体、何が仰りたいんですか?」
「要するに下心とかは一旦置いておいて、嫌がらせされることを抜きにしたら、お前は、ルシオン王子とどうつきあいたいのか、ってことだよ」
私?
私は…。
「そうね…。ルシオン王子は、人の“偶然”につき合ってくれる誠実な人だし、私みたいな格下の男爵令嬢にもお礼を言えるし、些細な指の怪我まで心配してくれるし…。
王子様じゃなかったら、普通に友達としてつき合えたら良かったかな、って思うかな…」
「…そっか」
リオス様が突然、アリカの頭をぽんぽんとあやすように軽く叩いた。
「なっ、何するんですか! 」
アリカは頭を押さえてパッと離れた。
「あ、悪い悪い。俺、妹がいるから、つい」
リオス様は両手を広げていたずらっぽく笑って見せた。
「妹、って…。私、あなたと同い年ですけどね!」
もうすぐ、この先のアリカの家に着く。
「あれ? そういえばリオス様はどうしてこっちへ…? 」
「“偶然”だよ、偶然。ほんと、偶然って都合いいよな」
えっ?
と思ったら、もうリオス様は足早に、来た道を戻っていっていた。




