嫌がらせ
放課後の委員会活動の時間。
アリカは制服の上にエプロンをつけ、両手で植物の苗が入った箱を運んでいた。
「お前、何やってんだ? 」
鞄を持ってこれから帰ろう、という感じのリオス様が、アリカに声をかけてきた。
が、アリカはそれに答えず、会釈をして通り過ぎた。
「おい、何やってんだ、ってば」
リオス様がしつこくついてきたので、アリカは答えようと口を開けた。
が、答えていいものかと一瞬戸惑い、手を上げようとしたが、両手がふさがってることに気づき、どうすべきか分からなくなってしまった。
「手をあげなくても、話していいぞ」
リオス様はくっと笑いをこらえながら言った。
「恐れながら…、リオス様はなぜ、そんな親しそうに私に話しかけてくるのですか?」
「いや別に、このあいだ、お前とは話をしたし、なんとなく…」
「左様でございますか。では、私は仕事がありますので、失礼いたします」
「おい、仕事って、その苗か? それも美化委員の仕事か?」
「いえ、これは園芸委員の仕事です」
「園芸? お前、掛け持ちしてるのか」
「いいえ。美化委員はやめました」
「やめた、って、なんで?」
「あのパーティーのあと以来、美化委員希望者が増えたからです。下心でしょうね」
アリカはふうっとため息をついた。
「そうか、また下心か…」
リオス様が言ってるあいだに、アリカはすたすたと歩いて行ってしまった。
「おい、待てよ」
「なんですか。私はあとこれだけ植えたら帰るんですから、邪魔しないで…」
アリカが止まった。
見ると、目の前の花壇に植えてあったはずの花の苗が、掘り起こされたりしてめちゃめちゃにされている。
「…これ、お前が植えたやつか?」
「…」
アリカは黙ったまま苗の箱を置くと、掘り起こされてしなびれた苗を拾いはじめた。
「こういうこと、他にもあるのか? 」
リオス様が聞いても、アリカはふてくされた顔をして答えない。
「おい、聞いてるだろ!」
「ああ、はいはい。このほかにも最近いろいろありますよ。だからもうルシオン王子やあなたたちとは関わりたくないんです」
「えっ…、下心はいいのか? 」
「最初は、王子とお近づきになれてラッキーとか思ったけど、こういう嫌なことされるのイヤなんです。そこまでして玉の輿にならなくても、他に方法もあるかなと思いますし」
「やっぱり玉の輿狙ってたのか…。ほかに方法って、何のことだ? 」
「うちのアンセリウム男爵領は貧乏なので、資金が欲しいと思ってたんですよ。でもこんな想いしてまで玉の輿にのらなくても、きっとほかに方法があるだろうな、と」
「…ほかにされてることって、どんなことだ? 」
「聞いてどうするんですか」
「王子に報告して、首謀者を突き止める」
「それで?」
「…それで、やったことを認めさせて、反省させる」
「反省、するでしょうか?」
「…させる」
「お言葉ですが、上から抑えつけるだけじゃ根本的な解決になりませんよ。一時、収まるかもしれませんが、下心がなくならない限り、また同じことをするでしょうね」
「…」
そうよ、小さい頃から、人の嫌がることをしてくる奴はいた。
そういう奴は「やめて」って言っても、やめるわけがない。
だって、嫌がらせって、相手が嫌がって「やめて」って言ってくるような状況にさせるためにやるものだ。
大人や教師に言って、注意したり叱ったりしてもらっても、嫌がらせ自体をやめるのは、その時だけ。
だって行動を注意するだけで、行動を起こしてる心には切り込んでないから。
「行動には、それを起こさせる心があるんですから、行動だけ抑えつけても、本当の意味での解決にはなりません。王子も上に立つ人なら、そこはご理解してるでしょう」
アリカはしおれた苗を、まだ植えてない苗の箱に一緒に入れると、それを持って歩き出した。
「おい、苗、植えないのか?」
「私が植えてもまた荒らされるでしょう。植えるだけ無駄だし、植物も傷んでしまいます」
「大体これは委員の仕事で、私自身の事じゃないのに…。こんな方向違いの嫌がらせして、そもそも嫌がらせして喜ぶ、って、何が嬉しいんだか訳わからないわ…」
アリカはぶつぶつ言いながら、苗を運んでいった。




