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 *

 格納庫に停まっていた蓮蝶の小型飛空車が離陸していくのを並んで見送るメレクとデルフィナ。

 

 飛空車はタイヤのついていないスポーツカーのような体躯をしていて、下で青白い光が灯るとふわりと宙に浮く。

 

 王族艇同士の移動などはこの飛空車が一般的だ。 空の旅はどこの領空にある王族艇に向かうにしてもおよそ二十分足らず。

 

 三百年前の地球ではガソリンや電力で稼働していた車は、今となっては空を自由に飛び回り、燃料は全て怪になってしまっている。

 

 その上操縦するのは飛空者の操縦専用に作られた人形機械。 一般人ですら自動運転当たり前の社会になっている。

 

「にしても、あのクソアマは何考えてんすかね?」

 

「こらデルフィナさん、王女様にクソアマとか言ってはいけないっすよ? 本当に勘弁して下さいよ。 相手がドゥーレ兄さんや幻くんだったらブチギレ案件っすからね?」

 

「まあ、そうかもしんないっすけどね。 若以外の王族はどうしても好きになれねぇんすよ」

 

 ギリと奥歯を軋らせながら飛び立っていった飛空車を睨むデルフィナ、彼女を横目にメレクは全身の力を抜きながら長い吐息を吐く。

 

「にしても、本当に蓮姉は何考えてんすかねぇ? 意図がまったくわかりませんよ」

 

「え? 多分あれって、若と第二王子をステュークスに衝突させて削る作戦じゃないんすか?」

 

「それなら自分から拷問に志願するのはおかしいっす。 蓮姉のことだ、おそらくいろんな紋章符を持ってるから拷問を受けた相手は隠し事ができない。 嘘を看破する紋章符とか開発したって話っすよ?」

 

「確かに、そんなもん持ってたら確実な情報が聞き出せますね。 あいつ、もしかしてステュークスとつながってんのか?」

 

 頭をポリポリと掻きながら思考を巡らせるデルフィナ。 その姿を横目に見ながらメレクも飛空車が消えていった空をぼーっと眺める。

 

「いや、そんなリスクを犯すとは思えません。 このご時世、隠し事や裏工作は即座にバレる。 なんせ、情報のスペシャリストがいるんすからね」

 

「ああ、第六王女っすか? あのガキ、うちの個人情報まで普通に知ってたからな」

 

「禄ちゃんはそこんところ抜かりないっすからね。 まあ、なんだか頼んでもないのに僕に空賊の居場所教えてくれたり、他の兄妹の事情を教えてくれたりするから助かってはいます。 あの子の耳ざとさは異常っすから、もし蓮姉がステュークスとつながってたらまず禄ちゃんにバレる」

 

 蓮蝶はあからさまに支持率上位のドゥーレとメレクが削られるのを望んでいる口ぶりだった。 しかしそれなら不可解な行動が多すぎたのだ。

 

 まず、わざわざドゥーレが襲われる旨を伝える必要がない。 しかもそんな事を話せば自分がステュークスとなんらかの関わりがあると疑われるに決まっている。

 

 信用が支持率につながる王選でそんなリスクの高いことをする意味がわからない。 しかも、もし情報が本物だとしても自分から助けると協力的な雰囲気で話を進めていた。

 

 これも口約束だけだと割り切ってもいいだろうが、先述したように王族は信用が全てだ。 これを破ってしまえばそれこそ蓮蝶の支持率はどん底だろう。

 

 どう転んでも愚策のようにしか思えない提案、その上内緒話という雰囲気でもなかった。

 

 内緒話をするなら遮音結界を張る紋章符を使用するのが一般的だが、それをしようともせずペラペラと話を進める始末。

 

 支持率を上げるために策を巡らせている他の兄妹は、おそらく先ほどの会話を盗み聞いていただろう。 兄妹同士の対談となると基本的に全員が聞き耳を立てている。

 

 監視系の紋章苻なども出回っているし、技術が進んだこの世界では蚊のような大きさの小型カメラだって存在する。 どこで誰に見られているかわからない。

 

 今現在もデルフィナとの会話を誰かに見られ、聞かている可能性が高いのだ。

 

 メレクは周囲を眼球運動で確認し、「とりあえず場所移しますよ?」と声をかけて王族艇の奥に足を向けた。

 

 

 

 *

 メレクの王族艇から去っていった蓮蝶は、飛空車から窓の外を俯瞰してうっすらと口角を上げていた。

 

 懐に手を忍ばせて紫の印字が刻印された紋章符を出し、その効力を発揮すると蓮蝶たちを囲うような半透明の空間が出現する。 遮音結界、この中にいる者は外に一切音を漏らさなくなる。

 

「出てこい、奏真(そうま)

 

 蓮蝶の呼びかけに応じ、何もない空間に突然半透明な人影が出現し、やがてその姿に色を宿していく。

 

 真紅の丈が短いジャケットに黒いティーシャツ、ゆったりとしたパンツに脛の辺りまで覆い隠すロングブーツ。 首元に光るネックレスには、蓮蝶の瞳と同じはしばみ色の宝石が付けられている。

 

 蜜柑色の短い髪を所々外ハネさせていて、おちゃらけた雰囲気の青年が気だるげに後ろ首へ手を当て、困り顔で肩を窄めた。

 

「なんっすか? 俺ちゃんと仕事しましたよぉ?」

 

「それは当たり前のことだからな。 そんなことより、お前はメレクを見てどう思う?」

 

「ありゃーなんも勘付いてないっすね。 あの状況であの質問、頭悪すぎて笑っちゃいましたよ」

 

 ヘラヘラと笑みをこぼしながら掌を返す奏真と呼ばれた青年。 メレクを小馬鹿にしたように嗤い出す奏真を仰ぎ見ながら蓮蝶は窓の外に視線を戻した。

 

「そうだな。 あいつは昔から出来が悪い弟だ。 皆からいいように使われているからな」

 

「あれでなんで二位なんですかね?」

 

「ふ、かなり昔、とある国にこんな言葉があった。 『能ある鷹は爪を隠す』という言葉がな、知っているか?」

 

 今となっては地上世界が幾つにも分断されていたという事実は過去の話。 あらゆる国の人間が飛空艇に乗って空の王国へと移動してきたため、さまざまな国のさまざまな諺や文化が入り混じった。

 

 無論文化の違いによって起こる戦争は絶えなかったが、空の上で長い戦争を続け、勝ち残った団体が巨大国家を作り上げた。

 

 帝都アルカディアはさまざまな人種が入り混じった特殊国家。 その中にはかつて日本と呼ばれた国も混ざっており、その国の血を引き継いだ第三皇后との間に生まれた蓮蝶や奏真はその国の血を強く受け継いでいる。

 

 腕を組みながら窓の外を眺めていた蓮蝶に、奏真は首を傾げながら返答する。

 

「まあ、文献で見たことはありますよ? そもそもその言葉、俺の子孫が住んでた国の言葉っすよね?」

 

「そうかもしれないな?」

 

「要約すると、本当に有能な奴は自分の力を隠してるって意味ですよね? あいつそんなにできる奴なんすか?」

 

「それを図るために来たのだ」

 

 窓から視線を逸らし、鼻を鳴らしながら壁に背を預ける蓮蝶。 口元を緩めたまま軽く目を瞑ってしまったため、真意がわからない奏真は困り顔で立ち尽くす。

 

 沈黙が支配する車内で、どうしたものかとそわそわし始める奏真。

 

 しかし数秒間の沈黙を挟んだ後、蓮蝶はゆっくりと瞳を開いて落ち着きのない奏真を凝視する。

 

「あいつは本当に食えないやつだ」

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