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ⅡⅩⅨ

 *

 頭部に大打撃を受けた天幻はようやく動きを止めていた。 蓮蝶が作り出した鎖で厳重に拘束し、空賊を捕らえるために開発した特殊手錠で天幻が保有する怪を九割抜き取る。 こうすることでようやく相手の動きを止めることに成功するのだ。

 

 禄遜の王族艇に移動したメレクたちは、牢屋の前でぐったりとしている。

 

「統括者の力なしであそこまで暴れるとはな」

 

「死ぬかと思いましたよ」

 

 壁に背中を預けながらぼやく蓮蝶に、大の字に寝っ転がっていたメレクが答える。

 

「メレクおにー様、今度からはあんな危険な行動はしないでくださいませ。 わたくしめは心配で心配で」

 

 床にへたり込んでいた禄遜が嗚咽混じりに呟くと、寝っ転がっていたメレクが勢いよく状態を起こし、禄遜の頭を優しく撫でた。

 

「ごめんごめん、でもあれいい作戦だったっすよね?」

 

「全然よくありませんの!」

 

 甲高い声で叱咤する禄遜に、困り顔で応じるメレク。 現在三人は、天幻が起きた際にまた暴れたらすぐに対応できるようにと支配怪象を解いていない。

 

 ベネトナシュとはいまだに連絡が取れないままの状態になっており、三人は重々しい空気で俯いてしまう。

 

「ベネ兄、僕のために」

 

「メレ坊、お前が無事だっただけでもベネ兄は喜んでくれるさ。 あいつはああ見えても頼りになるいい兄だからな。 誰よりも優しく、誰よりも兄弟思いのいい兄だった」

 

「わたくしめはあの時、何もできませんでしたわ。 ひと兄様がメレクおにー様を庇ってくださらなかったら今頃……せめて、せめてお礼くらいは言わせて欲しかった、ですわ」

 

 禄遜が大粒の涙を目頭に蓄え始める。 すると、

 

「あらぁ〜ん? 普段はツンケンドンな妹たちが初めてデレてくれた感じぃ? やだぁん、お兄ちゃんすっごく嬉しい!」

 

 無理に女声に近づけたような、鼻にかかった声が響く。 そして、素っ頓狂な顔で声がした方向に視線を集める三人。

 

「ベネ兄? 幽霊っすか?」

 

「やだわぁんメレく〜ん。 ちゃんと足生えてるでしょ〜ほらほら〜」

 

 コサックダンスのような足捌きでメレクに応じるベネトナシュ。 しかし、彼の両腕は真っ青に腫れ上がり、歪な形に変形していた。 ぷらぷらと振り子のように揺れる両腕を見て、メレクの顔が真っ青になる。

 

「ベネ兄! 腕が!」

 

「ああこれぇ? めっちゃ痛いけどさぁ〜、大事な弟の命を守れたんなら、安いもんしょ?」

 

 真っ白な歯を見せて無邪気に笑って見せるベネトナシュ。 だが、そんな無邪気さも凍るほどの凍えた空気が部屋中に充満し始める。

 

「ベネ兄」

 

「ひと兄様」

 

「ひゃ! ひゃいぃ!」

 

 肩を跳ねさせながら全身を硬直させるベネトナシュ。 これからひどい目に遭う、そう思ったベネトナシュは思わず目を力強く閉じたのだが、

 

「無事だったのなら、もっと早く顔を見せにこんか」

 

「タイムラグがあったとはいえ、通信紋章でも無事の報告はできたはずでしてよ」

 

 そっぽを向いて頬を赤くした妹たちが、らしくないことをボソボソと呟く。 それを見たベネトナシュはニンマリと、嬉しそうに口角を緩め、

 

「あらあらぁ? いつもお厳しい妹たちがすごく、すっごく可愛らしいデレを見せてくれるだなんて! お兄ちゃん感激した! ムービー、ムービー撮っていい? これ映画にすれば国民たちの新たな楽しみとして——」

 

 そこまで騒ぎ立てたタイミングで蓮蝶にむぎゅっと口を押さえつけられるベネトナシュ。 俯いていた蓮蝶がゆっくりと顔を上げると……満面の笑みで青筋を立てていた。

 

「どうせ治すんだからな。 日頃の感謝を込めてこの顎を砕こう、そうしよう」

 

「記憶の消去もしたいですわね、何回頭を殴れば記憶がなくなるかの実験もしたいですわ」

 

 ニコニコと不気味な笑みを浮かべながら接近してくる妹たちを見て、青ざめたベネトナシュは救いを求めてメレクを拝むと、

 

「あーあ、ドゥーレ兄はまだ戦闘中なんすかね〜」

 

 メレクはプイッと顔を背けてそんなことを呟き始めた。

 

 その後、禄遜の王族艇からベネトナシュの叫び声が鳴り響いたことは、言うまでもない。

 

 ☆

「それで? 今後の話なんだが」

 

「先ほどメレクおにー様がおっしゃっていた提案ですわね? わたくしめは無論おにー様に協力しますわよ?」

 

 半泣き状態のベネトナシュを、禄遜の怪象師団で治癒が使える怪象師に突き出した後、残った三人は天幻が目を覚ますまで今後の話をしていた。

 

「メレ坊、お前の言いたいことはわかるのだが、道のりは相当困難を極めるぞ?」

 

「もちろんわかってますよ。 でも、僕はこの国の王にはなる気ないですし、禄ちゃんや蓮姉の話を聞いて余計この国はクソッタレだなと思ったので」

 

「それで思い至ったのが……クーデターか?」

 

「人聞きが悪いっすね。 革命と呼んでいただきたい」

 

 腕を組んでふんぞり返っていたメレクを見て肩を窄める蓮蝶。

 

「いやいや、お前なぁ。 言っても聞かなそうな天坊やドレ兄をどうやって説得するつもりだ?」

 

「ぶっ倒して拘束します」

 

「暴力じゃないか。 それはクーデターというんだぞ?」

 

「違います! 拳で語り合うと言う点では、革命と言っても問題ないはずです!」

 

「お前は馬鹿なのかアホなのか、それともお人好しなのか……」

 

 長い吐息を吐きながら天井を仰ぐ蓮蝶。

 

「しかし、考えもつかなかったなぁ。 私は自分が支持率一位になって国を変えるしかないと思っていたし、前第五王女のグレースも同じことを考えていた。 奏真がグレースの命令で私の元に来た時は、流石にこの事実を疑ったがな?」

 

 前回の王選で奇跡的に生き残り、奏真を産んだグレースはアルカディアから間引かれた人々を救うため、秘密裏に奏真をアルカディアに送り込んだ。

 

 表向きは怪奴隷として空賊団ステュークスの飛空挺に乗船させて乗り込ませる。

 

 それに対応したのが蓮蝶だった。 と言うより、蓮蝶に助けてもらうよう時とタイミングを見計らって、ステュークスの交渉役を乗せた飛空艇を蓮蝶の王族艇に突貫させたのだ。

 

 支配怪象は異性にしか効果を持たないため、当時はまだ幼かった禄遜か傀楊、既に王選に名前を連ねていた蓮蝶しか選択肢がなかったのだ。

 

 大局の見極めや頭の回転が速い蓮蝶は突貫してきたステュークスの交渉役から事情を聞き、直接グレースと対談を繰り返してアルカディア帝国の現状を見抜き、それに協力することを約束することになった。

 

 二人の目的は蓮蝶を何が何でも王の座に君臨させ、根本からこの国を変えさせることだった。 しかし、先ほど天幻との戦闘前にメレクが提案したのはまさかの革命だった。

 

 理想的な社会を謳い、それに賛同した大衆を導いて国に変革をもたらす。 従わないものは捕まえて、理解してもらうまで説得し続けるという夢物語。

 

 従わないものを捕らえて説得するというずさんな手段は、頭の悪い印象が強いメレクらしかったが……

 

 メレクがこの革命戦線を始めようと思ったのは、単純な優しさからだったのだ。

 

「確かに、誰かが王になって根本からこの国を変えればどうにかなるかもしれないですが、この国をこんなクソッタレにした父上がそれを許すとは思えません。 なんせ、国の人間を間引くためだけに兄妹同士で喧嘩、ひどい場合は殺し合いをさせようとする王ですよ? 僕は兄妹同士で殺し合いなんてまっぴらごめんっす」

 

 キュッと拳を握りながら視線を牢屋の向こうに向けるメレク。 牢屋の中では今も寝息を立てている天幻と、先ほどから一言も発しようとしない雨桐(ゆーとん)が拘束されている。

 

「それに、幻くんと仲が悪くなる原因こそが、この王選なんすから。 僕が必死に幻くんに話しかけても、もうあの子は僕の話なんか聞く耳も持ってくれなくなりました」

 

 肩を落としながら天幻を直視するメレク。 雨桐はその仕草を見てあからさまに顔色を曇らせる。

 

 その様子を横目に見ていた禄遜は、呆れたように息を吐きながら、

 

「そこの統括者、雨桐とか言ったかしら? メレクおにー様に何かお願い事があるのではなくて?」

 

 禄遜がぶっきらぼうに語りかけると、おどおどとしながら視線を彷徨わせる雨桐。 禄遜は苛立たしげに言葉を続ける。

 

「わたくしめがあなたの活動を知らないとでも思いまして? コバエサイズに縮めたわたくしめの分身体を、兄妹全員と統括者に取り付けているのですわよ? あなたがこれまで必死にいつ兄様を説得し、メレクおにー様へ怒りの矛先を向けている彼をよく思っていなかったのは知っていますの」

 

 プルプルと唇を震わせる雨桐。 それを見てメレクはにっこりと微笑んだ。

 

「雨桐さん、って言いましたか? 僕も幻くんとは昔みたいに仲良くしたいんす。 まあ、昔から少しばかり高飛車な感じはありましたが、それでも幻くんは僕に戦いのコツや勉強のコツを親身に教えてくれてたっすからね。 一緒に勉強してた二年間は、すっごく楽しかったんすよ」

 

 天幻がおかしくなったのは戦闘人形が誤作動を起こした三年前。 その時まではメレクと天幻はよき兄弟を演じていた。

 

 不幸な事故のせいで塞ぎ込んでしまった天幻を、必死に元気づけようと雨桐はずっと彼に声をかけ続け、信じ続けていたのだ。

 

 日々を重ねるごとに天幻の気性は荒くなり、いつも優しくしてくれていたはずの彼は見る影も無くなった。 従者も愛想を尽かして彼の元を離れて行ってしまうほどに荒れていた。

 

 だが、天幻が支持率に名前を刻み始めた当時から支えていた雨桐は、昔の優しい天幻に戻ることを信じ、今日までずっと耐え抜いてきたのだ。

 

「あ、あたし……天幻様の、優しい天幻様を、知っているんです。 だから、その」

 

「残念だけど、僕も幻くんが優しいのを知ってるんすよ! 残念ながら雨桐さんだけ幻くんを理解してると思ったら大間違いっすよ?」

 

「あ、あの! 天幻様は、ステーキが大好きなんです!」

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