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ⅡⅩⅦ

「ちょっと〜! せっかく僕ちんの奇襲が成功したのに! 何よこれ!」

 

 頭を抱えて叫ぶベネトナシュが仰いでいるのは巨大な竜巻。 彼はすでに支配怪象でユニスを纏っており、両手にメリケンサックがつけられている。

 

 同じく支配怪象で奏真を回転式拳銃に変化させた蓮蝶が竜巻に向けて発砲するが、威力はそれほど高くないため焼け石に水。

 

 先ほど実験がてらと飛び込んだ禄遜の分身体は、一瞬にしてミンチになってしまっていた。

 

 グロテスクな光景を目の当たりにしたメレクや蓮蝶が青ざめている。

 

「おい、嘘だろう? まさか天坊、あれを食らってもなお、こんな芸当ができるのか? 普通は混乱するだろう」

 

「みつ姉様は間抜け面で棒立ちしかできませんでしたものね」

 

「おい、いい加減姉をからかうのはやめろ」

 

 苛立たしげに禄遜を睨みつけた蓮蝶を見て、ベネトナシュは肩を窄める。

 

「ユニスちゃんの無敵コンボをこうもあっさり破られちゃうと、少しめげちゃうね〜」

 

 ベネトナシュの統括者、ユニスの能力は触れた相手の五感を奪う能力だ。

 

 蓮蝶との戦闘中、ベネトナシュはユニスと別行動をとっており、約八分間の時間で蓮蝶の師団兵たちをその能力で無効化し、ベネトナシュの救援に駆けつけていた。

 

 そして救援が来るまで必死に逃げ回っていたベネトナシュは、ユニスの到着と同時に形勢逆転を果たしてしまったのだ。

 

 蓮蝶は油断などしていなかった。 ただ、ベネトナシュの瞬間移動を攻略したつもりでいただけだったのだ。

 

 ベネトナシュの瞬間移動の恐ろしいところは、自分が行きたいところに一瞬で行けるという能力だけではない。

 

「自分以外の物体も瞬間移動できる上に、自分以外に使った瞬間移動はタイムラグが半減する。 せっかくわたくしめの分身体がこの絶好の機会を狙っていたというのに、これはどう攻略しますの?」

 

 禄遜が提示した十分間の時間稼ぎは、ベネトナシュのタイムラグを計算した上でのものだった。

 

 まず、天幻と禄遜が口論を交わしている間にひとまとめにしたステュークス構成員を中型ドローンまで一旦移動させる。 タイムラグが四分。 予定では禄遜の会話でこの四分を稼ぐつもりだったのだが、意外にも短気な天幻を止められずに二分しか稼げなかった。

 

 想定外の誤算だったが、禄遜は分身体をすべてメレクに変えて天幻をおちょくり見事残りの二分も稼いだ。 その後は一瞬の隙をついて全員で脱出。 自身も瞬間移動をしたためベネトナシュのタイムラグが八分。

 

 ドローンに移動させたステュークス構成員は待機させていた飛空車三台で禄遜の王族艇に届け、タイムラグが回復するまで戦いは分身体に任せて高みの見物をしていたのだ。

 

 そして三人を一度目の戦闘から逃がした際のタイムラグが回復した今、瞬間移動したベネトナシュが油断していた天幻の肩に触れ、見事五感を奪うことに成功したのだが、

 

「戦いの天才と称されていたのは伊達ではなかったな」

 

 蓮蝶のため息混じりの声が漏れ、全員が砂塵の大竜巻を仰ぐ。

 

「四人がかりでも止めらんないの?」

 

「ひと兄、あの中に移動できます?」

 

「無茶言わないでよ! 天くん以外は中に入った瞬間ハンバーグになっちゃうよ」

 

「ですわよね。 今はまだいつ兄の四肢を拘束できていますが、あの程度の拘束では持たないでしょう」

 

 渋面を浮かべる禄遜を、チラリと覗き込むメレク。

 

「ねえ禄ちゃん、僕がベネ兄と一緒に瞬間移動すればよかったんじゃないっすか?」

 

「それはもちろんその通りでしたが、わたくしめたち三人は、いつ兄様に見つかっていました。 あの場に三人いなかったら怪しまれるでしょう。 特にメレクおにー様がいないとなれば確実に警戒されます。 あの奇襲がうまくいったのは、メレクおにー様が姿を現していたからですの」

 

「確かに、僕の能力だけはずっと警戒してるっすからね。 幻くん」

 

 メレクが寂しそうな目で竜巻を見つめていたが、禄遜は目を逸らしてかぶりを振る。

 

(あの竜巻は全く対処できない。 中にひと兄を無理やり瞬間移動させても対処のしようがないし、二度もうまくいくほど戦いは甘くない。 一撃目で仕留め損ねたのが厄介だった。 みつ姉様が容易に倒されてた前情報に騙されましたわ)

 

 禄遜が苛立たしげにこめかみを掻いていたが、その様子を横目に見ていた蓮蝶が、

 

「おい禄遜、お前今失礼なこと考えていただろう」

 

「うるさいですわよ! 心を読まないでください!」

 

 口を窄める蓮蝶をスルーして、禄遜は必死に思考を巡らせる。

 

(ここでいつ兄様を捕らえないと、先ほど提案されていたメレクおにー様の理想が叶わない。 なんとかしなければ! わたくしめが、メレクおにー様の役に立たなくては!)

 

 苛立たしげにぶつぶつと、呪文のようにさまざまな策を呟き始めた禄遜の頭に、ポンと優しく手が置かれる。 禄遜が大好きな、少し大きくて硬い、けれど何よりも優しさを感じさせる掌。

 

 禄遜は呆けた顔で視線を上げると、不安を打ち消してしまうほどに優しい笑みを向けてくるメレクの笑顔があった。

 

 その表情を見た禄遜は、頬を赤らめ思考を停止してしまう。

 

「禄ちゃん! 僕にいい考えがあるんすけど、聞くだけ聞いてみてくれないっすかね? 一人で悩むより、みんなで意見出し合った方がいい作戦思いつくっすからね!」

 

 メレクはいつも、こういったどうしようもない展開を前にした時に思いもよらない奇策を思いつく。 頭のいい蓮蝶やドゥーレが彼を気にかけるのも、こういった土壇場での発想を称賛しているからこそだった。

 

 そのことを思い出した禄遜は控えめに微笑むと、

 

「さすがは、わたくしめが大好きなメレクおにー様ですの! でしたらお言葉に甘えて……どうか至らぬわたくしめに、知恵をお貸しください!」

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