ⅡⅩⅥ
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二機目の飛空艇を真っ二つにした天幻は、砂で足場を作って空中を移動している。 飛空艇を真っ二つにされた際に禄遜の分身は大幅に総数を減らしていたが、わずかに残っていた十数名の分身体がメレクに化けたまま対空戦闘用ドローンに乗って天幻を追い回している。
「うざったい。 分身体は大した戦闘力はない上に大楯で能力を消されたりもしない。 こんなもの、ただカカシを葬っているだけじゃないか」
能力で一粒一粒を超荷重にした砂の流星群を放ち続ける天幻。 飛空艇上でやると足場が崩壊してしまうためセーブしていたのだが、空中戦になれば足場の崩壊に気を使わず思うがままに降らせることができる。
対空戦闘用ドローンもろともメレクに化けた分身体が消滅していく。
(それにしてもあの分身体、怪で作られてるくせに血も造形もものすごく本物に近い。 造形自体は人となんら変わらない。 あれは目に怪を集中しないと偽物との区別がつかないな)
メレクの分身体が砂の流星群に押し潰されるたびに鮮血が飛散する。 空には大量の彼岸花が咲き乱れているかのように、大量の血が噴出している。
悲惨な光景を目にしても顔色ひとつ変えずに天幻は周囲に目を配る。
(飛空艇を破壊した時点で分身体が消えなかったところを見ると、あいつらはすでにあそこを離れていた。 だとしたらまだそんなに時間は経ってない。 近くに飛空車、またはドローンがあってもおかしくはないはずだが、どこだ?)
天幻との戦闘が始まってからまだ五分程度しか経っていない。 ドローンや飛空車は最高速度百キロ程度は出るため、五分もあれば数十キロ先まで離れることはできるのだが、そうさせないために天幻は風に紛れて極小の砂つぶを索敵がわりに放出していた。
砂に触れれば敵の居場所がわかるのだが、その索敵に一切引っかかる様子がない。
(爆破した飛空艇の中に残っていたか? 第四王子の能力ならなんとか爆発の威力を分散できるが、火の手が上がっていた上にこの高さからの落下だ。 かかる重力はとてつもないはず、その中でうまく動けるか? いや、あの場には蓮蝶姉様もいた。 蓮蝶姉様が扱う能力の詳細がわからん以上、爆破した飛空艇内で難を逃れたと考えるのが妥当か?)
天幻は小さく舌打ちをしてから飛空艇が墜落した位置に視線を送る。 もうすでに飛空艇の姿はなく、あるのは絨毯のように広がる雲のみ。
(今から追っても間に合わない。 仕方がない)
天幻は砂を一箇所に集めて握り拳サイズに固める。 するとそれに怪をこめ、飛空艇が墜落していったであろう空の彼方に撃ち放った。
「ダメ元だがやらないよりはマシだろう。 まあ、死体をこの目で見るまでは安心できんがな」
天幻は冷酷な目つきで、砂の塊が流れ星のように消えていく空を眺めていた。 すると突然振り返り、大剣を油断なく構える。
「まさか天坊、あの飛空艇に私たちが残ってるって思っていたのか?」
「一体どういうカラクリでしょうか? 僕の索敵は少々雑だったとはいえ、三人全員を見逃すほどおざなりじゃないですよ?」
「ほう、確かに極小の砂が空気中にうじゃうじゃ舞ってるな。 これに触れれば場所が割れる、と言ったところか?」
一人乗りのドローンに乗って天幻の背後に現れた蓮蝶。 彼女だけではない。
その背後には腕を組んでなぜかドヤ顔をしているメレクと、そんなメレクにハートになった瞳を向けている禄遜。 三人とも支配怪象で統括者を武器に変化させ、それぞれ一人用ドローンに乗っている。
余裕な態度で現れた三人を睨め付け、天幻は歪に口角を上げる。
「逃げられたかと思ってましたが、わざわざ殺されに来てくれるとは。 僥倖です」
「はぁ? あんたみたいな脳筋バカに、メレクおにー様がやられるけありませんの!」
「コソコソと卑怯な真似しかできない貴様に言われる筋合いはない。 お前の分身は初見殺しで大したことはない。 お前程度戦力に入らんからな。 この状況じゃ二対一と言っても過言じゃないだろうな」
ヒラヒラと手を振りながら挑発的な口調で語りかける天幻。 しかし禄遜は可笑そうに鼻を鳴らす。
「二対一、ですの?」
「不満か?」
「いいえ? やっぱりいつ兄様は、脳筋のバカだな。 と、思っただけですわ」
次の瞬間、天幻の視界は真っ暗闇に包まれた。
☆
真っ暗闇に支配された空間で、ぼんやりと立ち尽くす天幻。
(何が、起きた?)
口を動かしたはずが何も聞こえない。 いや、口を動かした感覚すらない。 奇妙な感覚に囚われた天幻は必死に思考を巡らせる。
(蓮蝶姉様の能力か? 何が起きている)
周囲を見渡そうと首を振ったのだが、違和感しかないことに気がついて動揺の汗が流れる。
(体の感覚が、ない? 僕は死んだのか?)
慌てて手をグーパーと広げるが、それでももちろん動かした感覚がない。 むしろ、空中にいたというのに先ほどまで肌を撫でていた風も感じない。
全身の感覚が消えている。
(夢? いや、幻の類か? 眠らされた?)
あらゆる可能性が脳裏をよぎるが、どれもしっくりこない。 しかし天幻は一縷の望みを込めて体の周囲に怪を高速で巡らせる。
もちろん体の感覚がないため、全て勘で行っている。 脳内イメージで今の天幻は、重量を少し高めた砂粒を高速で循環させ、自らの体を覆っている。
何が起きているのかわからない以上、自分の身を守るために咄嗟に砂嵐で自らを覆ったのだ。
先ほどまでは象のような重さにしていた砂粒を少々軽くし、十五ポンドのボーリング玉程度の重さに設定した。 そしてそれを自分の周りで高速回転させ気流を生み出す。 回転に合わせた気流が竜巻のようになり、天幻の周囲を砂塵の大竜巻が包み込んだ。
先ほどより砂つぶの重さが軽くなったとはいえ、この竜巻に入り込めば散弾銃を連射されたような威力の攻撃となる。 いくら全身を大量の怪で覆ってもダメージは避けられない。
メレクの大楯で身を守っても、守れるのは一方向だけ。 この竜巻の恐ろしいところは、間合いに入れば前後左右上下どの角度からも砂粒の猛攻が襲いかかることだ。 不死身でもない限り近づくことすらできないであろう。
そして天幻は、この時あることに気がついた。
(体の感覚は確かにない。 だが怪を操っている感覚だけは、わかる)
天幻はすぐさま両目に怪を集中させ、歪な笑みを浮かべた。




