ⅡⅩⅢ
真っ二つに引き裂かれた飛空艇が爆散する。 その光景を、数キロ離れた上空から観察している少女が、双眼鏡を眺めながら吐息を吐いた。
「二分ちょっとしか持ちませんでしたわ。 いつ兄様はどんだけ短気なのでしょうか?」
「禄遜様、残り八分どうするんです?」
「禄遜様、八分も時間稼がないといけないっすけど」
双眼鏡を覗いている禄遜に、背後で立ち尽くしていた双子が声を掛ける。 すると禄遜は煩わしそうに舌打ちをしながら、
「だから、同じような事を同時に喋るなと何度言ったら——」
「まぁまぁ禄ちゃん、あの飛空艇にいた空賊たちは無事に救出したんだし、そんなに怒らないでよ」
「メレクおにー様がそうおっしゃるのなら仕方がないですわ! こら杏太郎、蘭太郎! メレクおにー様に感謝の気持ちを告げなさい! 逆立ちしながら!」
「「あいあいさー!」」などと同時に言いながら逆立ちし始める二人を、慌てて止めようとするメレク。 彼の隣には相変わらず無表情で立ち尽くす統括者が棒立ちしており、禄遜はその統括者を横目に見ながら、
「パメラ、大義でしたわ。 よく早い段階で作戦の乱れに気がつきましたわね」
「ありがとうございます禄遜様、わたくしめもメレク様には大恩がある故、この程度のことは義務にも等しいかと」
「さすがわたくしめが見込んだ女なだけありますわね」
嬉しそうに口角を上げながら、禄遜は立ち尽くしているパメラを見上げた。 パメラはドゥーレの飛空車に乗った時点で通信用紋章符を使って逐一禄遜に連絡をとっていたのだ。 無論、ドゥーレに悟られないようこっそりと。
仲良さげな二人の様子を遠目に見ていた女性が、風に靡いている黄金色の髪を耳にかけながら興味深げに口を開く。
「なぁ禄遜、お前とパメラは一体どう言う関係だ? パメラはメレ坊の統括者だろう?」
「知らなかったのですかみつ姉様。 メレクおにー様ファンクラブの同志でしてよ?」
「なんだ、それは?」
顔を引き攣らせるみつ姉様こと蓮蝶。 禄遜が兄姉を呼ぶときは生まれた順にひと、ふた、みつと数字で呼ぶのだが、メレクだけは例外なのだ。
先ほどまで戦闘中に見えた彼女たちは現在、対空戦闘用ドローンの中型機に乗っている。 乗員はおよそ十名程度の円盤で、仕切りも何もないため風が激しく吹き荒れている。
先ほどの戦闘中、頃合いを見てこっそりと避難していたのだ。 避難する際に提示していた十分は、とある能力者の都合を考えたタイムラグである。
「ひと兄様? あとどのくらいで瞬間移動が可能ですの?」
「えぇ〜? 禄ちゃん、分かってるくせに聞いてる感じぃ?」
「七分四十八秒ですのね」
「意地悪な子だなぁ〜」
ひと兄ことベネトナシュ。 彼の能力は触れている物、人物をまとめて瞬間移動させられる。 先ほど、禄遜がぶつぶつと文句を言いながら天幻の動きを食い止めていた間に、メレクが初めに捕えていた空賊を逃し、その後すぐに戦闘中の飛空艇まで自力で戻り、混戦に紛れて禄遜たちを避難させたのだ。
「ベネトナシュ様、いい加減そのふざけた話し方をどうにかしたらどうです?」
「ユニスちゃんまで当たり強くない? ねぇ〜メレく〜ん、みんながいじめるよぅ」
「そうやってすぐメレク様に助けを求める癖、いい加減改めた方がいいかと思いますが?」
ベネトナシュの足先を踵で踏みつけながら鼻息を荒げる統括者のユニス。 その様子をメレクは苦笑いで見送った。
現在は臨戦体制を解いているため全員が統括者を元の姿に戻している。
七分間のタイムラグを要しているのは、禄遜たちをこの中型ドローンに逃がした際のタイムラグ。
「瞬間移動というのは便利な能力ですわね」
「お兄ちゃん使いが荒いのねぇ、禄ちゃん」
「とりあえず、いつ兄様がわたくしたちの存在に気がつくのも時間の問題ですわ。 できる限り王族艇を近くに持ってきたとはいえ、かなりジリ貧ですわね」
禄遜は予想以上の戦いを見せる天幻を双眼鏡で追いながら奥歯を噛み締める。
「そんなことより禄遜、私はまだなんの説明もされていない。 なぜここにベネ兄がいるのだ?」
「そんな怖い目で睨まないでよぉ、知らなかったんだからしょうがないって。 ごめんって謝っただろぉ?」
「謝って許せるほど軽い話ではない。 足を折られるわ全身打撲させられるわ、散々な目にあったのだぞ?」
ヘラヘラしながら後頭部を掻いているベネトナシュを鋭い眼光で睨みつける蓮蝶。 なぜなら蓮蝶はつい先刻、ベネトナシュに両足を折られた上に満身創痍にされていたのだ。
「ベネトナシュ様、蓮蝶様はベソかいてしまうほど悔しい思いをしたんだから、怒って当然っすよ」
「ベネトナシュ様、さっきまで蓮蝶様は無様に泣き散らしてたんですから、そりゃあ怒りますよ」
「はい? なんだって?」
相変わらず同時に喋る双子の言いたいことはまったく把握できないベネトナシュ。 困り顔で耳をほじくりながら、なんと言っていたか聞き返すのだが、
「おい双子、余計な事を口走ったらただじゃおかないぞ」
蓮蝶に殺人鬼のような視線で槍を向けられた双子は、両手を頭上に上げながら後ずさる。 険悪なムードが流れた一同を宥めようと、メレクが注意を引くように手を鳴らした。
「とりあえず、今はみんな仲良く手を組むってことになったんすから、喧嘩はしない!」
「勝手にリーダーぶるなメレ坊。 お前はここまでいいように扱われてただけだろう?」
「ぐぬぬ、全く状況がわからないんで、禄ちゃん解説お願いしていいっすか?」
気まずそうな顔で禄遜の顔色を伺うメレク。 しかしメレクの視線を受けた禄遜は目からハートを飛び散らせながら勢いよく振り向いた。
「もちろんですのメレクおにー様! それとみつ姉様。 ひと兄様にボコされて大泣きしていたくせに、メレクおにー様になんてひどい事を言うのですか! 一昨日出直しなさい!」
禄遜に叱られた蓮蝶はわずかに頬を赤らめながらそっぽをむく。 禄遜からは治療を受けていたり、作戦の手伝いをされたりしているため頭が上がらないのだ。
「もういい、勝手にしろ」
「蓮蝶様、まあそうヘソを曲げなさんなって」
「黙れ奏真! 私はヘソなど曲がっていない!」
蓮蝶の隣であぐらを描いていた統括者、奏真が主人を励まそうとしたのだが、蓮蝶は逆に機嫌を悪くしてしまう。
その様子を横目に見ていた禄遜がこほんと咳払いをすると、
「とりあえずメレクおにー様、あの統括者が全ての元凶ですのよ」
禄遜が指を刺した奏真に、メレクやベネトナシュが度肝を抜かれた顔で視線を向ける。
「その統括者のフルネームは明石奏真、空賊団ステュークスの頭目と副官の間に生まれた子供ですの」
衝撃の事実を耳にしたメレクやベネトナシュ、ユニスまでもが作画崩壊したように目を点にしていた。




