表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/33

ⅡⅩⅡ

 禄遜は幼い頃、自分の怪象能力を開花させた際にトラウマを抱えてしまった。 天幻と三歳も年が離れていたため、教育機関の三年間は常に遊び相手がいなく、遊び相手が欲しいがために今の能力を開花させたのだが。

 

 禄遜が開花させたのは自分の思っていた力ではなく、自分の分身を作る力。 その能力で自分の分身を作り出した禄遜は、自らの顔と瓜二つの分身体を見て恐怖し、部屋から出られなくなった。 それからしばらくの間教育は分身体が受けていたのだが、禄遜本人は教育を受けずに部屋で震えながら蹲る毎日。

 

 自分の分身に自分が乗っ取られたらどうしよう、本当の自分はもしかしたら先日見た分身体で、もしかしたら自分は偽物なのかもしれない。 そんな事を考え出したら負の感情が絶え間なく込み上がってしまい、本体は人前に姿を表せなくなったのだ。

 

 そんな彼女の心を救ったのは、会食の席で禄遜の分身体と顔を合わせたメレクだった。

 

 初めての妹だったため普段から禄遜を可愛がっていたメレクは、その時何気なく彼女の頭を撫でながら挨拶をしたのだが、能力の都合上とあることに気がついてしまう。

 

 『これって、怪の塊じゃないっすか? 人形、っすかね? どうして会食の場に偽物の禄ちゃんが?』

 

 不安に思ったメレクは、会食後に分身体を問い詰めた。 本物の禄遜はどこにいるんだ? と。

 

 そうしてメレクは魔城アルクーダで教育中の禄遜の部屋にたどり着く。 部屋は閉め切っていて、分身体は気まずそうな顔で隣に立っている。 メレクはドアをノックして禄遜に呼びかけても、耳を塞いで電子映像をずっといじっていた禄遜には届かない。

 

 最終手段とばかりにメレクはドアをぶち壊した。 突然中に入ってきたメレクを見て、禄遜はヒステリックに叫び声を上げてしまっていたが、メレクは必死に禄遜をなだめ続けた。

 

 数時間後、やっとの思いで禄遜本体を落ち着かせたメレクは、数時間かけて引きこもった原因を丁寧に聞き取った。

 

 分身体に体がのっとられるのが怖い、実は自分が偽物なのではないかと考えてしまう。 そういった事情を聞いたメレクは禄遜を安心させるよう、にっこりと笑いながら禄遜の分身体の頭に触れた。

 

 すると、能力を無効化された禄遜の分身体が空気に霧散する。 メレクの能力は触れた能力を任意で無効化する能力、無効化するかどうかは本人の意思で自由に選択できるため、この時初めて分身体に能力を使用した。

 

 その様子を見て肩を小刻みに震わせる禄遜、しかしメレクは安心させるように微笑みながら、

 

 『僕の能力はね、相手の能力を無効化する力なんすよ。 こっちの禄ちゃんが消えちゃったってことは、本物は今僕の前で震えてる禄ちゃんで間違い無いっしょ?』

 

 にっこりと微笑んだメレクが、震える禄遜の頭を優しく撫でる。 すると、震えていた禄遜は恐る恐る目を開いて、優しく語りかけてくるメレクに視線を向けた。

 

 『ほら! 禄ちゃんは消えないじゃないっすか。 君は正真正銘、録ちゃん本人っす。 何にも怖がらなくて大丈夫! 禄ちゃんが分身体を何人作っても、僕は本物の禄ちゃんを見つけ出すことができるし、僕は初めてできた妹を分身体と間違えたりしないっすよ。 僕がいる限り、君は自分が偽物なんじゃ無いかって心配しなくていいんすから!』

 

 優しい言葉で語りかけてくるメレク。 禄遜の心から不安が消え去るのに比例して、大量の涙が瞳から溢れ出す。

 

 『もし、この先も自分のことがわからなくなっちゃうのなら、僕に会いに来てください。 何度だって君が本物の禄ちゃんだって証明してあげます。 何度だって僕が本物の禄ちゃんを見つけ出してあげるっす。 だって今日、僕はこうして本物の禄ちゃんを見つけ出せたんすからね!』

 

 メレクの言葉によって、禄遜は自分の能力への恐怖が抜けた。 一人ぼっちで遊ぶ寂しさは、毎週訪れる会食でメレクと会うのを楽しみにすることで解消できた。

 

 そして禄遜は心に誓った。

 

 『あの日、あたしを助けてくれたメレクおにー様の役に立てるように、メレクおにー様にもっと好きになってもらえるように、メレクおにー様が自慢したくなる妹になれるように! あたしはできる限りのことをして恩返しをしよう!』

 

 その日から禄遜の生活は一変した。

 

 まずはメレク好みの女性になるために、メレクの従者たちを観察しようとした。 そして思いついた、自分の分身をメレクの王族艇に忍び込ませよう。 と。

 

 禄遜は分身体と脳内で会話できることを知り、隠密の情報収集にはもってこいだと思いついたのだ。

 

 しかし、分身体をそのままの格好でいかせたらすぐにバレる、だから変化能力を持った従者を探そうと考えた。

 

 そうして何十、何百日もいじっていた電子映像を出した。 しばらくの間暇つぶしに通信システムをいじっていた彼女は電子映像に写っている通信システムの特徴に気づき、国の機密情報をハッキングできるようになっていた。

 

 怪象と化学で発展したこの王国は、いまだにネット環境は科学技術を元に応用したものだったため、ハッキングしようと勉強すれば誰でもハッキングできる。 しかしセキュリティが厳重な王族の機密情報を閲覧するためには相当なスキルが必要だった。 だが、数ヶ月間ずっと電子世界をサーフィンしていた禄遜ならできないことはない。 しかもこの時ハッキング作業をするのに分身体を大量に動員していた。 その数、脅威の三十名。 相当に硬いセキュリティだったが数の暴力で無理やりこじ開けたのだ。

 

 分身能力を駆使し、全国民の中から変化能力を得意とする男児を探し出す。 そうして見つけた統括者が杏太郎だった。 そして、杏太郎には双子の弟がいた。

 

 蘭太郎、彼の能力は兄に似た能力だった。 触れた相手を変声させることができる能力。

 

 この二人を従者にすれば、容易にメレクの王族艇に忍び込めると禄遜は考えた。 そうして禄遜は、二人のうちどちらを統括者にしようか迷ったが、そこでとあることに気がつく。

 

(双子なら遺伝子構造は極めて似通っているはず、なら宝珠を改造すれば統括者を二人にできるのでは?)

 

 その考えを実行するために、分身体と共に数日間宝珠の性質を調べ、数週間で二等分することに成功した。 しかし、この二等分した宝珠は遺伝子情報がほぼ一緒でないと同時に発動することはできない。

 

 幸いなことに、杏太郎と蘭太郎は一卵性の双子だった。 一卵性の双子はほぼ同じ遺伝子を持っている。 こうして禄遜は、大量の分身を完璧に変装させる技術を手に入れた。

 

 そして大好きなメレクを、おはようからおやすみまで隈なく監視し、統括者の存在に気がついた。 メレクのそばにつきまとう女。 こいつは悪だとすぐに決めつける禄遜。

 

 冷静に考えれば一夫多妻制のこの国では嫉妬心を持つ女性の方が少なかったのだが、禄遜は希少種だった。 かなり嫉妬した。

 

 普通なら、たくさんの女性に好まれる私の旦那さんはやっぱり素敵! と思うのがこの国の民たちである。

 

 散々分身体に八つ当たりしていた禄遜だったが、とある一つの可能性に思い至ってしまう。 もしかして、メレクがパメラに想いを寄せているのでは?

 

 こんな風に勝手な勘違いをし、パメラと髪型を一緒にして一人称まで改善させてしまった。 そして次の監視対象はパメラになったのだ。

 

 監視している間に、日頃の言動からは考えられなかったが、パメラが下心を持ってメレクと一緒にいるのではなく、心からメレクへの信頼を寄せていることに気づく。 そしてパメラの情報も詳しく調べた。

 

 物心つく前から野良空賊に捕まっていた元怪奴隷で、メレクに救われ自由を手にする。 その時からパメラは、自分を地獄から救い上げてくれたメレクのため一生涯の忠誠を誓っていた。

 

 思いの他感動的なエピソードがあり、なんとなく自分が救われた時と境遇が似ていることがわかり、禄遜は仕方がなく変装させた分身体をパメラに接触させた。

 

 こうして禄遜とパメラは親友となり、メレクおにー様ファンクラブを設立したのだ。

 

 そして禄遜は分身体を増やし、メレクのためだけにさまざまな情報を集め、無償で横流し。 あるいはメレクの悪い噂が回り次第分身体を使って巧みに抹消する。 こうしてメレクを空賊と戦う英雄として国内に広めることに成功した。

 

 禄遜はもはや王選や支持率などどうでもいいのだ。 ただメレクが安心して笑える世の中を作りたい。

 

 メレクのかっこよさを多くの人間に知って欲しい。 その思いだけを原動力に、誰もが恐れるほどの情報を獲得してしまっているのだ。

 

 本音を言えば、メレクには自分一人だけを愛して欲しかったのだが、パメラと会話している内に考えが少し変わったらしい。

 

 メレクの支持率が上位に君臨しているのは、ほぼ禄遜の裏工作が原因でもある。 彼女はただメレクに最大限の愛を注いでもらいたい。 みんなにメレクの尊さをわかって欲しい。

 

 その思いだけを胸に秘め、この王選でもメレクのために動き続けている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ