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ⅩⅨ

 *

 アルカディア帝国の王選が始まり、国民たちは根も歯もない噂を呟き始めていた。

 

 そんな中、国民の誰もが自分の言葉を掲載することができる共有掲示板にとある書き込みが書かれた。

 

 【第四王子、メレク・ヴェータ・アルケイディスに空賊団ステュークスとの繋がりあり】

 

 そこには匿名で書き込まれた、メレクと空賊団ステュークスとの繋がりを疑うコメントがされている。

 

 『第四王子の空賊撃退率は兄弟の中でも抜きん出ていて、討伐率第二位の第二王子と比べると約三倍。 このありえないほど高い数値は自作自演によって演じられてる可能性が高い』

 

 などと憶測しかない書き込みが数件、他にも

 

 『第四王子、第二王子殺害未遂の疑いあり。 本日行われた王族の会食後、第二王子と会談していたメレク王子だが、会談中に第二王子の王族艇が墜落させられている。 これはメレク王子が目論んだ策であり、長年一位を保持していた第二王子を貶めんとする悪逆非道な行いであると推測される』

 

 こういった書き込みを眺めていた、萌黄色の髪を二つに括った少女は可笑そうに鼻を鳴らした。

 

「ほんと、幼稚なの」

 

「全くですな傀楊(かいよう)お嬢様。 このような証拠も何もないただの憶測による書き込みは、書き込んだものの無能さを世間にひけらかしているも同然です」

 

「しょうがないの、天幻は頭が悪いの。 国民たちから支持も得られないというのに人型兵器をいまだに研究改良して量産して、さらには支持率においては有能なメレクを頭ごなしに否定しかできないの。 目の前の現実が見えてないお馬鹿さんなの」

 

 書き込みを見ながら辛辣なコメントを紡ぐ傀楊に、隣に佇んでいた統括者の赦鶯(しゃおう)は顔を顰めながら肩を窄ませていた。

 

「一体何がしたいのでしょうか?」

 

「多分、ステュークスにドゥーレが襲われているのをメレクのせいにして、大義名分を掲げたいだけなの」

 

 傀楊が画面を指差すと、赦鶯は興味深げに目を窄ませる。

 

「ほうほう、これは興味深い。 お嬢様はいかがするので?」

 

「傀はとりあえず戦況を見守るの。 傀が手を出すまでもなく馬鹿同士が潰しあってくれれば御の字なの。 傀が注意すべきはあの女しかいないの」

 

「もしかすると、現場に本物が現れるかもしれませんな」

 

「偵察機を飛ばしておくの。 後、念の為高弾道砲弾をすぐ動かせるよう手配しておいて欲しいの」

 

「かしこまりましたお嬢様」

 

 赦鶯は深々と頭を下げながら部屋を出ていく。 茜色の夕日が窓から差し、傀楊の顔を灼熱色に染め上げる中、一人不気味に笑みを浮かべる傀楊。

 

 先ほど傀楊が指差した画面に表示されていたのは、とある王子が宣言した通達だった。

 

 『これより天幻・テイル・アルケイディスは空賊団ステュークスに襲われている第二王子、ドゥーレ・アルファー・アルケイディス殿下救出のため、人型兵器で構成した大隊、通称ワルキューレ部隊を率いて救援に向かう』

 

 天幻本人が直々に発令した空賊団ステュークス討伐宣言。 これを見た傀楊はすぐさま現在の状況を悟っていた。

 

「天幻とメレクの衝突が予想されるの。 いくらバカでも天幻の戦闘能力は抜きん出てるの、メレクじゃあ勝てるわけないの。 あの二人が戦うことになれば、おそらくあの女は絶対動くの。 今はただ、あいつの弱点を周到に集める時期なの」

 

 傀楊が電子映像を閉じて部屋の壁に取り付けられていた巨大液晶の電源を入れる。 それは文明が発展したこの世界ではほぼ使われていない代物。

 

 怪を使わず電気を使って映像を映し出す装置。 その巨大液晶には空賊団ステュークスと見られる飛空艇が五機映し出されていた。

 

「さて、誰が脱落するか見ものなの」

 

 *

 第三王女管轄王族艇、格納庫

 

 大量の瓦礫で埋め尽くされた格納庫の中心にはぐったりと寝転んでいる二人の男女。

 

「おい、起きているか? 起きていたら手を貸せ」

 

 仰向けに倒れていた女性が、隣にうつ伏せで倒れていた青年に声をかけるが、青年はピクリとも動かない。

 

「ちくしょう、あれは反則だろう。 おい奏真、起きろ奏真!」

 

 弱々しい声音で必死に呼びかけるが、奏真と呼ばれた青年は反応を見せなかった。

 

「まさか、死んでるんじゃないだろうなぁ?」

 

 そんなわけはない、女性はそう思ってはいたが、顔を顰めながら上半身を動かし、青年の胸部を観察する。

 

「呼吸してるじゃないか、まったく。 主人を差し置いていつまで伸びているつもりだ」

 

 悪態をつきながらぐったりと地面に体を投げ、ボロボロに破壊された格納庫の天井を睨む。

 

 先ほどまで優位を保っていたはずの蓮蝶・アルケイディスは、両足を折られて全身に打撲。 とてもではないが動ける状況ではなかった。

 

 通信用紋章は没収され、大声を出そうにも気力が出ない。 そもそも、蓮蝶が率いていた怪象師団は既に、一人残らず無力化されてしまっている。

 

 虚な瞳で虚空を見上げる怪象師団たちを横目に、蓮蝶は大きなため息をついた。

 

(あんな能力、反則だ)

 

 元々自分は戦闘を得意とした能力ではないのを重々承知していた。 統括者がいない状態のベネトナシュをすぐに仕留めようと前がかりになっていたのが敗因か、それとも瞬間移動の弱点を知った気になって油断したのが敗因か。 どちらにせよ何ヶ月もかけて計画していた作戦は、今この時点をもって失敗を告げていた。

 

(私が倒れれば、誰がこの国を救うというのだ)

 

 柄にもなく目頭が熱くなる。 悔しさのあまり下唇をグッと噛み締める。

 

 どんなに悔やんだところで時間は巻き戻せない、いくら怪象が人ならざる力をもっているとしても、時間を巻き戻す能力者などこの世界には存在しない。

 

 故に、いくら敗北を悔やんだところでどうにもならないのだ。 わかっていても、自分が背負っている使命や責任を考えると、瞳から溢れる雫を止められることなどできなかった。

 

 唯一動く腕を上げ、顔を覆いながら歯を食いしばった。

 

(やりたくもない悪役を演じ続け、ただ国民たちを救うために。 一人運命に立ち向かった末の仕打ちがこれか? 私が力不足なことぐらい、最初からわかっていたさ)

 

 嗚咽は漏らさない。 ただ漏水したかのように、悔しさが募れば募るほど目から雫が垂れ流しになる。 そんなことをしても、誰も助けに来ないことくらい分かっている。

 

(私しか、救うことができなかったのだ。 私だけしか、この事実を知る者がいなかったのだ。 誰か、誰か一人でもこの国に信用できる仲間がいたのなら、この重圧を一人で背負わずに済んだかもしれないのに)

 

 静寂していた格納庫。 自身がきしらせた歯の音が、嫌に耳に伝わってくる。 彼女はただ、この国を救うために必死に演じていたのだ。

 

 悪役のような素振りを見せ、黒幕たちに気取られないよう、機密情報が漏れないよう必死に注意を払ってきた。

 

 王選前、メレクに捕まったと聞いていたステュークス構成員を尋問するふりをして、我々の計画が漏れていないかの確認までして隠蔽してきたのだ。 誰も信じる事ができない状況の中、他の兄弟たちを頼らず一人で行動していた。

 

 王族関係者の中に潜んだスパイにバレないよう、自分が他の兄弟たちを殺し合わせようとしている悪役に勘違いされるよう、必死に演じ続けてきた。

 

 今日が長年用意してきた計画を一歩進めるための重要な一手だった。 メレクさえ仲間に引き入れることができたなら、黒幕であるアルケイディス王家に立ち向かう手段を得られたのだから。

 

「クソが!」

 

 いつもの飄々とした態度はもはや見る影もない、感情のまま唯一動く腕で地面に八つ当たりをする。

 

 滑稽に映った、何もできない自分が。

 

 無様で仕方なかった、力もないくせに一人で奔走する日々が。

 

 愚かだと感じた、結局何もできない自分自身が。

 

 投げやりになってしまった蓮蝶が、体の重さに身を任せて意識を沈めようとした瞬間、静かだったはずの格納庫にカツカツとリズミカルに響く足音が聞こえた。

 

 蓮蝶は横目で足音がした方角に視線を向ける。 耳をすませば辛うじて判別できる、この足音は二重に重なっている。

 

「本当だ、蓮蝶様が泣きべそかいてらぁ」

 

「言われた通りだ、蓮蝶様号泣してる」

 

 同時に響く青少年の声を聞き、蓮蝶は警戒心をむき出しにしながら歩いてきた二人組を睨みつける。

 

「杏太郎と蘭太郎と言ったか? なんのようだ? お前たちも私の邪魔をしにきたのか?」

 

「邪魔するも何も、もうボコボコにされてるじゃないっすか」

 

「何言ってんすか、あんたもう満身創痍じゃないですか」

 

 例に従って同時に口を開く杏太郎と蘭太郎、しかし蓮蝶はなぜか二人の言っていることを聞き取っていた。

 

「ああ、無様だろう? お前らはあれか、無様に敗北した哀れな私の姿を嗤いにきたってことか?」

 

「「違いますけど?」」

 

 二人の台詞が一言一句噛み合う。 蓮蝶は思わず瞳孔を開き、真っ赤に腫れていた瞳を二人に向ける。

 

「だったら、お前たちは私に協力してくれるとでもいうのか?」

 

「まあそんなところっす。 禄遜(ろくそん)様からの伝言を伝えにきました」

 

「ほぼそんな感じっす。 うちの主人から言伝(ことずて)があります」

 

 糸に引かれたように口角を上げた二人をじっと観察し、蓮蝶はゆっくりと瞳を閉じる。

 

(さて、私の妹は一体何を考えているのやら)

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