ⅩⅧ
アルカディアの王族は、五歳から三年間の英才教育を施される。 王として振る舞うための帝王学や、政策をしていく上での社会知識、怪の性質や使い方など分かっている範囲で学ぶ怪象研究、王族として護身をするための戦闘演習など、学ぶ内容は幾多にもわたる。
そうして三年間の研鑽を経て八才から王選の支持率に名を連ね、十才から本格的に次期王子候補として切磋琢磨していくのだ。
天幻とメレクは歳が一つしか離れていないため、この英才教育を長い事共に受けていた。 その頃の二人は仲睦まじい普通の兄弟だった。
しかし、天幻が八才になり支持率に名を連ね始めた頃、二人の関係は拗れ始めた。
英才教育中は目立った成績を出せなかったメレクに対し、天幻は近代稀に見る天才だと持てはやされた。 中でも戦闘演習においては、当時最も支持率が高かったベネトナシュと並び立つほどの技量を見せていた。
メレクと天幻は常に比べられ、凡才と天才などと揶揄されていたのだ。 そうして支持率に名を連ねた天幻は最初からメキメキと順位を伸ばし、ドゥーレとベネトナシュと半年で肩を並べるほどの頭角を表していた。
しかし、この頃から空賊が増え始め、人々は空賊を恐れるようになった。
中でも空賊団ステュークスは別格で、彼らに襲われた飛空艇は占領され、行方をくらませてしまう。 一度行方不明になった飛空艇はいまだに発見されたことはない。
その上ステュークス構成員の実力は一人一人が怪象師団並の力を持っていたため、これらの対処に国民たちの注目が集められた頃、天幻はとある発明を完成させた。
彼の戦闘時の才覚を発揮するため、人型兵器を大量生産したのだ。 天幻自身の戦闘演習のデータを参考に人工知能を埋め込まれた人型兵器。 これらを量産した彼はすぐさま空賊団ステュークスや、野良空賊たち対処のため人型兵器を戦場に大量導入した。
しかし、天幻は事を急ぐあまりこの兵器の運転試験をおざなりにしていた。 これが仇となり、天幻が作り出した人型兵器は事故を起こす。
空賊との戦闘で頭部に大打撃を受け、不具合を起こした人型兵器が誤って国民を惨殺してしまった。
たまたま発生してしまった事故だった。 しかし、これは試験運用を入念にしていれば回避できる事故でもあった。 空賊の被害が増え始めていたため、天幻はより早く国民たちの安全を守ろうとこの兵器を即座に戦場へ送りたかった。 その焦りが仇となった。
だが国民たちはたった一度の事故を許しはしない。 天幻の支持率は急落した。 その代わり、自ら先陣を切って空賊と戦闘をしていたメレクが国民たちの英雄となった。
今まで凡才だと貶められていたメレクが、自ら先陣を切って空賊たちと戦う姿に国民たちは看過され、彼を英雄としてもてはやしたのだ。
天幻の評価は一転する、天才から凡才へ。 逆にメレクは、国民たちから戦闘の天才と呼ばれるようになった。
この時から、天幻はメレクに憎悪の感情を抱き始めた。
『なぜ国民たちを救うために研鑽してきた僕が悪者にされなければいけない?』
その後も天幻は人型兵器の研究を続けた。 何かに取り憑かれたように、必死に不具合が起きないよう人型兵器に改良を重ねていった。
『王族自ら空賊と戦ったところで救える人間は限られている。 より多くの国民を助けるためにはこの兵器が必要だ』
自らが持つ技術と信念を胸に、必死に兵器を研究し続けた。 そうして、三年の歳月をかけて新型の人型兵器を完成させた。
絶対に事故が起きないよう人工知能をいじり、衝撃を受けても不具合を起こさないよう回路に異常があればすぐ動かなくなるよう改良したのだ。 大幅な弱体にはなったが、その分製作コストも抑えられ、数を増やすことにも成功した。
あえて脆く作ることで、不具合を起こす前に故障させる。 こうする事で人工知能は暴走しないようになったのだ。
兵器の数を増やすことで戦力の増強を成功させ、テスト運用も入念に済ませた。 不具合で関係のない人物を攻撃することは絶対にない。 不具合が起きる前に機能停止してしまうのだから。
さらに万が一にも備え、空賊のみを徹底して攻撃できるよう怪象師団のオペレーターをつけさせ、全自動ではなくオペレーターの指示に従って戦闘する無人兵器を完成させたのだ。
『この兵器があれば、空賊たちから国民を守れる。 人間が怪我することもなく安全な国を作っていける!』
だが、その時既にメレクの支持率はドゥーレと並び立つほどに伸びていた。 いつの間にかベネトナシュは最下位まで落ちていた。
必死に追いかけていた背中は、いつの間にかベネトナシュではなくメレクになっていた。 凡才だと言われていたメレクに。
連日彼の戦闘結果が国民の中で話題になり、メレクに直接命を救われた国民たちによってメレクの勇姿が国中に広がっていたのだ。
なぜベネトナシュが突然やる気を無くしてしまったのかもわからない、メレクが効率の悪い戦い方をして支持率を集めているのも理解し難い。
にも関わらず、世間の目は誰も天幻の人型兵器に向くことはなかった。
『どうして誰も気がつかない?』
やがて人々は、大量の兵器を作り続ける天幻にクーデターの噂さえ上げるようになった。 大量の人型兵器で国家転覆を図る説という黒い噂が出回るようになった。
『どうして誰も認めない?』
天幻は意固地になって人型兵器の改良を重ねた。 もっと強くなるように、もっと多くの空賊を倒せるように。
メレクのように、偽善ぶって先陣に立つのではなく、確実に国民たちの安全を守るために、毎日兵器の研究に取り組んだ。
———あんな偽善王子ごときに、負けるわけがない。
そう自分に言い聞かせて誹謗中傷を無視し続けた。
そうして天幻の支持率は、研究に熱心になればなるほど下降していった。
『どうして評価されない?』
国民たちへの不満は次第に腹の中で膨れ上がり、そうして発生した憎悪の感情は、全てメレクへと向けられた。
『メレク兄様のせいで、僕は誰からも評価されなくなった。 あいつの偽善のせいで、僕の研究は国家転覆を目論むだなどと汚されるようになった。 第四王子のせいで、全てが台無しになった』
こうして天幻の怒りが膨れ上がった時に、王選開始宣言が通達された。 そして、会食後に行われた蓮蝶との対談を経て、彼は非人道的な策を企てた。
天幻の飛空車で対面していた蓮蝶が、胡散臭い笑みを浮かべながら口火を切る。
『お前はメレ坊を随分憎んでいるようだなぁ? そこで耳寄りな情報がある。 どうやらメレ坊の飛空車に起爆符を仕掛けた輩がいるらしい。 この後その飛空車が爆破される。 おそらくメレ坊ならこの爆破はどうにかできるだろう。 だが、誰もが思うだろうな。 メレ坊はこの爆破で命を落としたのだ、と』
『蓮蝶姉様、その情報はどこから? それに、一体誰がそんな工作を?』
『今はそんなことどうでもいいだろう? お前はメレ坊に憎悪を向けていたな。 そしてこの王選開始宣言で察したはずだ、これから支持率一位の枠に名を連ねるため、兄妹同士の殺し合いが始まると』
天幻は、糸で引き上げられたように口角を吊り上げる。
『つまり、第四王子がこの後誰かに殺されていたとしても、飛空車爆破で死んだと見せかけることができると?』
『かもしれないなぁ? そこで、この情報を提供した見返りに、ひとつ協力を願いたい。 お前の発明した人型兵器を、ドレ兄の救出に向かわせてくれないか?』
『この前ステュークスに襲われると噂していましたね。 その救出を僕の人型兵器の大隊にさせると?』
『そうだ、無事に救出できれば人型兵器の株は急上昇。 さらにはライバルであるドレ兄を救ったという人徳が、国民たちの間に広まっていくだろうなぁ』
蓮蝶の怪しげな笑みを向けられ、天幻は心躍ったとばかりに瞳孔を広げる。
『乗りました。 これより僕が発明した人型兵器大隊、通称ワルキューレをドゥーレ兄様救出に向かわせます』




