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ⅩⅥ

 *

 空賊団ステュークスが率いる飛空艇は全部で五機、この全てに五人以上の手練れが乗船しており、ステュークスの構成員は全員訓練された怪象師団と五分を張る実力とされている。

 

 そんなステュークスの奇襲に、ドゥーレとメレクはたった二人で立ち向かわなければならない。

 

 メレクは早々にドゥーレの飛空車から飛び出して手近な飛空艇に着地した。 空中からの自由落下はおそらくメレクにしかできないであろう荒技だ。 例のごとく着地した飛空艇の床部分はぽっこりと半円に凹んでいる。

 

 先手必勝とばかりに飛び出したメレクを見送ったドゥーレは飛空車を指揮官が乗船してると思われる最後方の飛空艇に近づけていく。 外見からしてこの飛空艇だけ一回り大きい上に装備が充実していた。

 

 いきなり指揮官が乗船している飛空艇に向かうとなると、無論飛空艇に常設された武器による対空射撃の雨を受けることになる。 だがこれはシンシアの能力を使えば容易く回避が可能だ。 小回りがきく飛空車だからこそ回避できる、一か八かの荒技だが……

 

 手近な飛空艇に落下したメレクは大楯を構えながら集中砲火されているドゥーレの飛空車をチラリとみやる。

 

「ドレ兄、無事でいて下さいね」

 

 ボソリと独り言を呟くと、落下した飛空艇の中から五人の男が現れる。 歳の頃は全員三十後半ほど。

 

「お前は、第四王子か? 随分と派手な登場じゃねえか」

 

 この飛空艇を指揮するであろう小柄な男が指をパキパキと鳴らしながら声をかけてくる。 それに対してメレクは、大きなクレーターの中心で油断なく大楯を構えた。

 

「空賊団、ステュークスの構成員っすね? ここで逮捕します」

 

「逮捕だと? 王族は随分と自信家なんだな? 俺らをその辺の三下空賊と一緒にすんなよ」

 

 小柄な男が両手を広げると、何もない空間から風の刃が射出される。 風で作られた刃は普通なら目視不可なのだが、怪によって生み出された攻撃は瞳に怪を集中させれば怪の動きを察知可能だ。 基本的にメレクは戦闘中、瞳に怪を集中させている。

 

 達人同士の戦闘になると、戦いの中で重要になってくるのはいかに相手の虚をつくか。 実力が拮抗していればしているほど、相手の能力の弱点をいち早く看破してそこをつかなければならない。

 

 しかし、戦闘特化の能力を持ったメレクは、自分の弱点が割れたとしてもそれを逆手に利用するのだ。

 

 風の刃が放たれた軌道を見た瞬間、低い体制で突進し始めるメレク。

 

「おいおい! その大楯で防いだりするだろ! 普通!」

 

 大楯を構えているにも関わらず、受けるのではなくスレスレで回避しながらの突進。

 

 まさかの行動に小柄の男だけでなく取り巻き四人も慌てて武器を構えるが、メレク相手に後手に回るのは命取りだ。

 

(げん)くんほどじゃないっすけど、僕もそこそこ強いんでよろしくっす!」

 

 一番近くにいた取り巻きに一瞬で肉薄したメレクが大楯を振りかぶりながら無機質な声音で呟く。 しかし流石のステュークス構成員、後手に回っていたにも関わらず類稀な反射神経でメレクの大楯を武器の長槍で受け止めた。 はずだった。

 

「ぬぐぅ!」

 

 大楯を受け止めた長槍がへにゃりと曲がり、武器ごと吹き飛ばされる取り巻き。 その様子を横目に見て舌打ちをしながら小柄の男がメレクに腕を伸ばす。

 

 大楯を大振りしたため隙だらけのメレクを挟み込むように、二人の取り巻きが武器を振りかぶった状態で肉薄した。

 

「連携は抜群なんすねぇ?」

 

「余裕ぶっこぎやがって!」「後悔しやがれ!」

 

 取り巻き二人はわずかにタイミングをずらして武器を振り下ろし、メレクが立っていた場所に土埃が舞い、飛空艇が衝撃で軽く揺れたのだが、

 

「僕の能力を熟知してるっすね。 あえてタイミングをずらした三段攻撃。 君の斧と、こっちの彼の両手剣、さらにあのちっさい人の風刃。 タイミングも抜群でしたけど、そんな子供騙しの手は何回もやられてるんすよ」

 

 うっすらと舞っていた土埃が晴れていくと、背後から振り下ろされた斧をつまむように止めているメレク。 それだけではない、正面から両手剣を振り下ろした男の剣は地面に突き刺さり、メレクが突き刺さった剣を踏みつけ、風の刃をかわしたからか身を大袈裟に逸らしている。

 

「嘘だろ? タイミングは完璧だったはずだ!」

 

「何言ってんすか、完璧すぎるから予想しやすかったんっすよ。 それに、後ろで様子見てるもう一人、弓が武器って事は一瞬の隙を窺ってるみたいっすね? この三人の能力は大体予想ついたんで、三人目はあなたに脱落してもらいます」

 

 三人目、という言葉に一瞬だけ不思議そうな顔をする空賊たち。 しかし次の瞬間、つまむように抑えられていた斧が粉砕し、斧を振り下ろした男がバランスを崩すと一回転したメレクの踵が男の後ろ首に炸裂、一瞬にして男の頭が鉄でできているはずの床にめり込んだ。

 

 絶句する空賊たち。 正面の男が両手剣を振り上げようと力を入れようとしたが、メレクに踏まれていてピクリとも動かせない。 同時に小柄な男は無数の風の刃を飛ばすが、これは難なく盾で防がれてしまう。

 

 そしてメレクが軽く握った拳から勢いよく親指を弾くと、風を切る音が小柄な男の耳元を掠め、背後で弓を構えていた取り巻きの肩から鮮血が飛散する。

 

 流れるような動作を見て、息を飲みながら背後にいた仲間へ視線を送る小柄の男。

 

「おいおい! 一体何が?」

 

 小柄の男が目を凝らすと、背後にいた取り巻きの肩には斧の破片が突き刺さっていた。

 

「斧の人、怪象は強化で筋肉増殖。 剣の人、能力は空間で間合いを伸ばせる。 弓の人とさっきの槍の人は瞬殺だったんで不明っすね。 そんでちっさい君は風を操る自然系の怪象。 どうっすか? 全員ビンゴっしょ?」

 

 メレクが余裕の笑みを浮かべながら斧の破片を弾いた手でピストルマークを向ける。 指を向けられた小柄の男は悔しげな顔で下唇を噛み。

 

「化け物め! 隣の(ふね)に撤退するぞ!」

 

 やや慌て気味で声を上げる小柄の男、だが撤退の指示が明らかに遅すぎた。 既に両手剣を踏みつけられていた男は顎に蹴りを食らっており、白目を剥いている。 宙返りしながら蹴りをお見舞いしたメレクは遠心力を利用して着地と同時に地面を蹴る。 メレクの蹴りに耐えられず、床がぐにゃりと変形すると、その場から衝撃波を放ちながら空気を切り裂くように移動するメレク。

 

 必死に逃げようとしている小柄の男は風の能力を利用して天高く跳躍し、空中で風に乗りながら逃走を図ったのだが、メレクはニヤリと口角を上げると大楯を振りかぶる。

 

「一丁上がりっと!」

 

 豪快な風切り音を響かせながら大楯を振り抜くと、何かが衝突したような乾いた金属音が響く。

 

「ごはぁっ!」

 

 フルスイングで振り抜いた大楯で吹き飛ばしたのは、異常な力で握りつぶされた斧の破片。 破片が腹部にめり込んで小柄の男は唾液と吐瀉物が混じった液体を空中でぶちまけながら脱力し、飛空艇の床に落下した。

 

 腕が立つと言われているステュークス構成員をたった数分で制圧したメレクは小さく息を整えながら近くの飛空艇を睨む。

 

「一機制圧するのに五分以上かかりそうっすね。 しかもこいつらは下っ端かな? 幹部はもっと強いんだろうなぁ」

 

 先ほどまで敵を圧倒していたとは思えないほど謙虚な反省を呟き、飛空艇の中に乗り込んでいくメレク。

 

 メレクは普段から空賊と戦闘しているため、戦闘慣れしているというのはもちろんある。 しかし何より強力なのは彼の持つ能力と、大楯に変身しているパメラの能力だ。

 

 メレクは相手の能力を任意で無効化する。 発動条件は自身が敵の怪に触れる、または自身が身につけている物質で敵の怪に触れることだ。

 

 メレクと戦う際、自身を強化する系の能力者は接近戦ではほぼ役に立たないし、遠距離攻撃でも大楯で防がれる。 大楯に触れた際も無効化の能力が発動するため、大楯でガードされるということは怪によって作り出された攻撃は霧散してしまうのだ。

 

 さらにパメラの能力は、受けた衝撃の方向を変更する。 力の方向を操作する能力だ。

 

 これによって空中落下した際に発生する衝撃を全て自分以外の方向に変更したり、相手の打撃をそのまま相手に返したり、メレク自身が盾に与えた衝撃を一点にまとめて相手に向けることもできる。

 

 メレクに触れれば能力が霧散するかカウンターを受け、さらに遠距離攻撃も大楯に防がれれば意味はない。 無敵に近いその能力が、彼を最強の空賊狩りに仕立て上げているのだ。

 

 単純な能力ゆえに対策も単純そのもの。 怪を使わない攻撃かつ、大楯に触れないようにしてなんとかダメージを与えるか、複数人でタイミングをずらして攻撃するしかない。

 

 一度に無効化できる能力は一つで、力の方向を操れるのも一つしかできない。 それを知っていたから先ほどの空賊は三人がかりでタイミングをずらして攻撃したのだ。 しかし、メレクはそれを見越して動体視力を鍛えている。 その動体視力はもはや超人レベルで、真剣白刃取りを親指と人差し指でつまんで成功させるほどだ。

 

 いくらタイミングをずらして攻撃したとしても、当てること自体が難しい。 パワーがあっても力の流れはパメラの能力で操作される。


 七人兄弟の中でもメレクと天幻二人は、こと戦闘においては秀才、または天才と呼称されるほどの実力を保持しているため、空賊たちからは恐怖の象徴とされているのだ。

 

 早速制圧した飛空艇の人造人間に出されていた命令を書き換え、飛空艇の占領に成功すると自動操縦状態に命令し直してすぐさま格納庫に駆けるメレク。

 

「よし、対空戦闘用ドローンに乗って隣の飛空艇に突撃っす!」

 

 人一人がギリギリ乗れる大きさの円盤に乗りながら電子映像を操作すると、円盤の下に青紫の明かりが灯り、ふわりと空中を舞って隣の飛空艇にまっすぐ向かっていった。

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