ⅩⅣ
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ドゥーレの飛空車内、困惑するシンシアとドゥーレを必死に宥めようとするメレク。
「落ち着いてください二人とも! ともかくすぐに王族艇まで向かわないと!」
「その王族艇が墜落されたのだぞ! どこに着陸しろというのだ! 敵がどこで息を潜めているかもわからないんだぞ!」
「でも、ここで足踏みしてるよりいち早く現場に向かった方がいいでしょう? 王族艇に取り残された人たちを救うことを考えないと!」
メレクも必死に声を張るが、実際何が起きているかわからない状況で軽率な判断は命取りになりかねない。 メレクにしても動揺して思考がまともに働いていないのは火を見るより明らか。
「皆さん、一度冷静になりましょう」
混乱状態の三人に、パメラが落ち着いた声音でゆっくりと語りかける。 思考が短絡的になってしまっていた三人は、パメラの異常なまでの落ち着きように驚愕の表情を向けたが、ハッとした様子で大きく深呼吸を始めるドゥーレ。
彼とてただの無能ではない。 ここまで支持率一位をキープできていたのは、他でもない彼自身の能力によるものだ。 冷静に思考を巡らせれば、今できる最善の策を考え出すことができる。
「すまん、予想外の事実を前に取り乱していた。 感謝するぞメレクの統括者」
「パメラと申します。 メレク様の正妻候補でございます」
「こんなところで冗談はいらん、場を和ませようとなどしなくていい。 シンシア、師団長たちに連絡を試みろ。 連絡がつながりそうな者全てに現状報告を要求。 俺の紋章符へ迅速に連絡させろ! それが終わったら墜落中の王族艇に生き残りがいないかの確認。 メレクは周囲を警戒していてくれ」
ドゥーレがスラスラと各個人に指示を出していく。 それに従い、それぞれがきびきびと行動を開始する。
「パメラ、と言ったか? 念の為聞くが、お前の能力で索敵は可能か?」
「メレク様の許可なしに、自分の能力は明かせません」
「ちょ! パメラさん? 今は非常時っすからね? 悪いっすねぇドゥーレ兄。 僕たちは二人とも戦闘特化の能力なんすよ」
「そうか、いやすまん。 他人の能力を聞こうとする行為自体が無粋だからな。 無理なら結構だ。 こちらの人員でどうにかしよう」
ドゥーレはすぐさま眼前に電子映像を映し出し、連絡が取れそうな部下に逐一連絡を試みる。
すると連絡を取り始めてすぐ、シンシアの通信紋章が仲間と通じたことを報告してくる。
「ドゥーレ様! 師団長と連絡取れました!」
「俺につなげ!」
すぐさまシンシアの耳元からドゥーレの耳元に紋章が移動する。
するとドゥーレは通信がつながった第二王子直属の怪象師団師団長から現状把握を試みる。 ある程度生存者の情報や王族艇で起きた現象、被害。 現在飛行中の座標などを聞き出すと、安心したように声色から棘を落としたドゥーレがゆっくりと振り返る。
「死傷者は無い。 人造人間が何人か王族艇に取り残されてしまったようだが、怪象師団も役員たちも全員無事に王族艇から避難したようだ。 破壊されたのは王族艇の機関部付近。 細かい位置の詳細は不明だが、前触れもなく突然爆発したようで原因は不明らしい。 死傷者がいないのが不幸中の幸いだった」
それだけ告げると、ギリと奥歯を軋らせるドゥーレ。
死傷者がいないと言う事実には素直に喜びたいところだが、前触れもなく機関部が爆破された。 その事実に血の気の引いた顔で思考を巡らせるシンシア。
「原因不明って、王族艇の警備は厳重だった、ネズミの一匹も入れる隙すらないほどに。 怪による遠隔攻撃も監視に引っかかるはずよ?」
「ああ、厳重に警備していたからこそ油断していた。 俺たちの監視を抜けて直接機関部に攻撃を仕掛けた者がいる。 誰だ、こんなことできる能力者は?」
こめかみを人差し指でこづきながら苛立たしげに飛空車内を歩き回るドゥーレ。
「ちなみにドゥーレ兄、兄弟の中で能力が判明してる人って何人ですか?」
「二人だ。 悪いがメレク、お前は四六時中空賊と戦っていたようだからな、お前の能力はなんとなく予想はついている。 それとベネトナシュ兄様は能力を隠そうとしていないからな。 この二人しかわからん」
「まあ、僕も隠してるつもりはなかったっすからね」
「他にもお前同様、戦闘の天才と呼ばれていた天幻の能力は接近戦特化のものだと予想はできる。 となると怪しいのは………蓮蝶か?」
ぐっと拳を握りながら遥か彼方を睨みつけるドゥーレ。
「悔やんでもしょうがない、師団長には王族艇から離れた場所で待機してもらっている。 王族艇が爆破されたと同時に、守備についていた怪象師団が生き残っていた者たちを中型飛空艇に避難させたらしい。 ここから指定した座標までの到着時間はおよそ三十分だ。 くそ、到着するまで待つことしかできないとはな」
腰を投げるような勢いで飛空車内の椅子に座るドゥーレ。 しかし、メレクと共に外の警戒をしていたパメラが引き攣った顔で振り返ってくる。
「どうやら、ただ待っているだけというわけにはいかないようです」
物騒な声音でつぶやかれた言葉を聞き、全員青ざめた顔で視線をパメラに集中させる。
震えながら窓の外を指差すパメラを一瞥し、それぞれがパメラの指の先を目で追うと………
「うわ、まじっすか」
「随分と用意周到な策略だな」
「ドゥーレ様。 師団長をこちらに向かわせますか?」
「いいや、今あいつらを動かすのは危険かもしれない。 万が一、あいつらの中に狙われてる人物がいたとしたら相手の思う壺だ」
三者三様の動揺を見せ、絶望と共に迫ってくる飛空艇を俯瞰する。
「こんなタイミングで現れるのは都合が良すぎます。 おそらく誰かの指示を受けての事かと」
「だいたい察しはついている。 こんな絶好のタイミングで現れたのだ。 怪しいのは一人しかいないだろう」
半ばやけになったような口ぶりで飛空車の扉を開くドゥーレ。
開かれたドアから冷たい突風が吹き付け、露わになった真っ青な空には飛空艇が大量に飛んでいた。 その飛空艇全てに、共通の印が刻まれている。
「空賊団ステュークスの大部隊がご登場だ。 生き残りたければあいつらを返り討ちにしなければならないぞ? 覚悟はいいか、メレク」




