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ⅩⅢ

 *

 魔城アルクーダ格納庫、天幻の飛空車内。

 

「なんですか今の音は! 何かの爆発音?」

 

「かなり遠くの方から聞こえてきたと思ったが?」

 

 動揺を顔に貼り付けながら蓮蝶が眼前に電子映像を投影させると、

 

「おい、幻坊! 支持率を見てみろ」

 

 瞳孔を開きながら天幻に語りかける蓮蝶。 言われた通りに天幻も支持率を確認すると、驚愕の表情を作り、一度電子映像を閉じてもう一度表示させた。

 

「機器の故障ではない? まさか、ドゥーレ兄様が五位まで下降したんですか? ここまでの急降下、考えられるのは王族艇の墜落? または貯蔵石の破壊。 ………まさか、蓮蝶姉様が?」

 

「おいおい、何でもかんでも私のせいにするな。 これは本当に私じゃない」

 

 支持率を眼前に出しながら忙しなく視線を動かし、蓮蝶は思考をフル回転させていた。

 

 この騒動の原因は自分ではない、ならば誰が引き起こしたものなのか。

 

 もし自分の想定を上回る誰かがドゥーレを貶めた場合、自分も足元を掬われかねない。 それよりもまずいのは、自分の計画が水疱に帰してしまうことだ。 これだけは避けたい。

 

 今すぐに動けば自分の計画は滞りなくうまくいくであろう、しかし迂闊に動いてこの騒動を起こした者に狙われれば自分もタダでは済まないかもしれない。

 

 一人脳内であらゆる可能性を考えている蓮蝶のことなど構いもせず、天幻は狼狽しながら考えなしに騒ぎ立てる。

 

「対談をするふりをして、第四王子がドゥーレ兄様を騙したのか?」

 

「お前はバカか? あのお人好しが他人の命を奪いかねない事をするか? 同じ理由でベネ兄も考えられない」

 

「では? 空賊団ステュークスですか? 確か先日蓮蝶姉様と第四王子の対談の際、奴らがドゥーレ兄様を狙っていると……」

 

「空賊ごときが王族艇に突入して貯蔵石を破壊、または墜落だと? こんな短時間でできると思うか? ドレ兄が外出してから二時間も経っていないんだぞ? だいいち、襲われたようなそぶりもないし、奇襲するにしても怪象師団に気づかれる。 ドレ兄はそこまでバカではない」

 

 蓮蝶の冷静な判断により、可能性はどんどんと絞られていく。 適当に容疑者の名前を上げてただ慌てふためく天幻とは違い、この数十秒で蓮蝶は二人の容疑者を仕立て上げた。

 

 まずあり得るのは圧倒的な情報量を保持する、第六王女の禄遜。

 

 彼女はそれぞれが行っている政策の極秘内容や魔城アルクーダ周辺で活動する空賊団の根城、さらには他の兄妹の会話の内容まであらゆる情報を保持している。

 

 ドゥーレの領空で最も侵入しやすい経路を知っていても不思議ではない。 それに、ドゥーレ以外の兄妹を一撃で鎮圧するほどの強力な情報を保持しているだろう。 ここ数年間、蓮蝶は禄遜に情報が漏れないようありとあらゆる策を使って隠蔽してきている。 彼女の怖さは他の誰よりも知っているのだ。

 

 しかし、禄遜の飛空車はまだ魔城アルクーダの格納庫に停まっている。 ならば禄遜が指示したお抱えの師団だろうか? とも考えたが、怪象師団の実力で王族艇に直接侵入できる手段を持っているのだろうか?

 

 だとしたら考えられるのは二人目の容疑者。 第七王女の傀楊だ。

 

 彼女に関しては情報が怖いほど少ない。 いつも会食の際、怯えるふりをしているのは流石の蓮蝶も気づいている。 気がついていないのはバカな男どもくらいだろう。 禄遜も傀楊に関する情報は入念に調べていた。

 

 今日この日まで蓮蝶の順位が低かったのは、禄遜から大量の情報を購入していたからだ。 おかげさまで怪の貯蔵量が非常に少なく、順位も奮わない結果になってしまっているのだが、今はそんな事を気にしている場合ではないだろう。

 情報戦で負けてしまえば敗北は必須。 自らが望む結果を出すためならば否めない。

 そのため傀楊に関する情報も少ないが手元にはある。 彼女の能力を思い浮かべ、蓮蝶は生唾を飲んだ。

 

(あいつの能力なら、不可能ではない)

 

 しかし不可能ではないかもしれないが、非常に難しいのも確かだ。 蓮蝶ほどの頭脳があれば、いつ、どの時間に他の王子の王族艇がどこを通るか計算するのは容易い。 ドゥーレは几帳面な性格だ、王族艇の飛行ルートを精密に決めていてもおかしくない。

 

 しかし傀楊はまだ十歳。 決してそんな高度な飛行ルートを計算できるわけが………

 

 そこまで考えた蓮蝶は、核心に迫ったとばかりに目を見開いた。

 

(何も、計算するのは傀じゃなくても構わない。 あいつの統括者、赦鶯しゃおうなら計算できるだろう)

 

 なぜこんな単純な事に気が付かなかったのだろうかと歯噛みする蓮蝶。 恐れるべきは傀楊ではなく、その統括者である赦鶯だったのだ。

 

 しかし、そうとわかれば逆に好機。 動くのなら今しかないのだ。

 

 遮音と視閉の結界を解除しながら勢いよく席を立つ。

 

「幻坊、すまんがこの件の詮索は後にしろ」

 

「はい? しかし他の誰かが動いている以上、迂闊に動くわけには……」

 

「お前はどこまで行っても脳筋だな、戦闘だけが取り柄のバカ王子め! もっと頭を使え。 動くなら混乱に乗じた今しかない! 私はすぐに王族艇に戻り、ドレ兄の元に向かう。 お前もさっきの話に乗るのなら少数精鋭を連れて今から送る座標に来い!」

 

 蓮蝶は早口で指示を出すと、眼前の電子映像を視線と意識で操作して天幻にメッセージを飛ばす。 おそらく盗聴対策のために文面で指示を送ったのだろう。

 

 送られたメッセージに視線を向けた天幻は小首を傾げながら、飛空車から駆け足で出ていった蓮蝶の背に声をかける。

 

「蓮蝶姉様! 第四王子の王族艇はこの座標ではありません! おそらくこの座標は間違いかと」

 

「ああ、面倒なやつだ! その座標で間違いない! いいから、騙されたと思ってそこに向かえ! 三十分〜一時間以内に行かないと、貴様の悲願は叶わんぞ!」

 

 背中越しに怒鳴りかけてくる蓮蝶を眺めながら、口を窄める天幻。

 

「一体、何がどうなっているのやら———」

 

 状況が全く把握できていない天幻は、口をとがらせながらも統括者に連絡をいれるのだった。

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