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天空都市の【第四王子】が〈腹黒な本性〉を晒すまで

 遥か上空、見渡す限り広がる雲海の上には巨大な鉄の塊が浮遊していた。 円盤状の巨大な鉄塊は北海道の半分に相当する面積を持っていて、その鉄塊の上には多数の住居や城が点々と存在している。

 

 ここは帝都アルカディア。 空の上に存在する巨大帝国だ。

 

 その帝国は巨大な飛空艇の上に造られている。 この巨大すぎる飛空艇はここ三百年の間に起きた激動の時代を象徴する新人類の最高傑作。

 

 その帝都アルカディアから数キロ離れた空を、大型の飛空艇が浮遊している。 この飛空艇の大きさは帝都アルカディアと比べると豆粒程度だが、面積的には豪華客船のそれに等しい。

 

 その巨大な飛空艇の先端、強風で錦糸きんし色の髪をなびかせながら雲海を俯瞰ふかんする青少年が立ち尽くしている。

 

「お? 発見しましたよ〜? パメラさん、あれが報告のあった空賊さんっすよね〜?」

 

「はい、メレク様。 主人より早く発見できなかったわたくしめはお仕置きですか?」

 

「………そんな事でお仕置きなんてしないっすよ〜」

 

 苦笑いを浮かべながら背後に立ち尽くしていた少女に微笑みかける、メレクと呼ばれた錦糸色の髪をした青少年。

 

 気が抜けそうな喋り方とは異なり、きっちりと着込んだシャツの上に漆黒のコートを羽織っている。 育ちの良さを彷彿ほうふつとさせる洋風の衣装は、空の上で吹き荒ぶ突風に煽られていた。

 

「さて、じゃあ突入してとっとと片付けますかね〜」

 

おおせのままに」

 

 背後に人形のように立ち尽くしていた少女は紺色のドレスを纏っており、襟とカフスだけが真っ白。

 

 その上にフリルのついたエプロンを装着している、いわゆるメイド服だ。 左手の薬指には、サイズが合っていないブカブカの指輪が付けられており、その指輪にはメレクの瞳と同じ色をした蒼白色の宝石が輝いている。

 

 肩口に触れるほどの長さで切られたオフホワイトの髪を耳にかけながら、ゆっくりとメレクの隣へ歩み寄っていく。

 

 隣に歩み寄ったパメラと呼ばれた少女を横目に見たメレクは、静かに瞳を閉じて左手をパメラに向けた。

 

「じゃあ、借りますよ〜? 一緒に戦って下さいパメラさん!」

 

 メレクの号令を合図にパメラの全身を白色の光が包み込み、真っ白になったパメラの全身がぐにゃりと姿を変える。

 

 姿を変えたパメラは大きな盾の形になり、メレクの左手に握られた。

 

「んじゃ、チャチャっと終わらせますか〜」

 

 気だるそうな一言と同時に、メレクが軽く地面を蹴って飛空艇の先端から飛び降りる。

 

 全身に吹きすさぶ突風を浴びながら衣服がバタバタと波打つ中、メレクは左手に構えた大楯を体の前に移動させ、自らを風から守るように大楯の後ろに身を隠した。

 

 遥か上空から飛び降りたメレクの視界に映るのは、中型の飛空艇。 その大きさは先ほどメレクが立っていた飛空艇よりもはるかに小さい。 ジャンボジェット機相当の大きさだ。

 

 空を落下するメレクがその中型飛空艇に向けて真っ逆さまに落ちていく。 大楯を利用して落下地点を微調整し、飛空艇上部に広がった鉄の床に接触する直前で大楯を突き出した。

 

 空気を切り裂く衝突音と共に、大きく傾く中型飛空艇。 落下の衝撃があたり一帯に霧散していくと、その大きな音を聞きつけ飛空艇の中から複数の男たちが姿を現した。

 

「ちっ! 第四王子の怪象師団かいしょうしだんか! 野郎ども! 返り討ちにすっぞ!」

 

 褐色の肌をした中年の大男が、背後に集まってくるガラの悪い男たちに号令をかける。 すると男たちは怒号を上げながら衝突音のあった方へ駆けていこうとした。

 

 だが、侵入者の姿を視認した男たちは、絶句した。

 

「だ、第四王子………メレク・ヴェータ・アルケイディス? ご本人様かよ!」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で一歩後ずさる褐色肌の大男。 先ほどまでの威勢は消沈し、その表情には恐怖が張り付いている。

 

「ども〜。 第四王子、メレクっす〜。 空賊の皆さん、あなた方から受けた被害報告を受けて、この僕が直々に粛清しにきました〜。 大人しくしてくれれば痛いことはしないっすよ〜」

 

 着地地点の床にはぐにゃりと凹んだクレーターができており、落下時の勢いに耐えきれなかった鉄の床は変形していた。 その中心でゆったりと立ち上がったメレクがヒラヒラと手を振って挨拶をする。

 

 余裕の素振りを見せるメレクを見て、褐色肌の大男はギリと奥歯を鳴らす。

 

「は、半分は時間稼ぎのために残れ! すぐに逃げ………」

 

 大男の指示は途中で止まった。 なぜなら、一息に肉薄してきたメレクが目の前に立っていたからだ。

 

「まずは、リーダー格を潰さないといけないっすからね〜」

 

「ひっ!」

 

 大男は両腕に炎を纏い、がむしゃらに拳を振り抜いた。 振り抜こうとした炎の拳は難なく大楯に防がれ、大楯に触れた大男の拳から炎炎えんえんと燃え上がっていた炎が霧散する。

 

「これが、第四王子の怪象かいしょう! 触れた怪象を無効化する力!」

 

「は〜い、あなたの怪象は自然系ですね〜。 でも、それはもう禁止っす」

 

 メレクが片側の口角を吊り上げ、大楯の裏に渾身こんしんの正拳突きをお見舞いする。 大男ではなく大楯の裏を殴ったはずなのに、吹き飛ばされて壁にめり込んだのは大男ただ一人。

 

 周囲に散らばっていた大男の部下たちはその意味不明な現象を前に震えながら後ずさる。

 

 飛空艇内部につながるであろう部屋の壁にめり込んだ大男はうめき声を上げながら白目を剥いていた。 目を疑うことに、受傷部位は全身。 体の至る所に骨折やヒビが入っており、即死とまではいかないが意識を保つことは不可能なほどのダメージを受けている。

 

「こ、これが………第四王子の怪象?」

 

 部下の一人が震えながら声を上げた。 それを聞いて、声を上げた者へ肩越しに視線を送るメレク。

 

「ああ、こっちは僕じゃなくてパメラさんの怪象っすよ? ま、怖がってようがなんだろうが、悪さをした以上は全員逮捕か処分するんで、逃げないでくださいね〜?」

 

 腰を抜かしながらも脱兎の如き逃走を図る部下たち、飛空艇内部に逃れようとする部下たちを、メレクは二本指で呑気に数えている。

 

「二十四、二十六、二十七人っすか〜。 最低でも三十人規模はいそうっすね。 さて、五分くらいで帰れそうかな?」

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