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星に願いをー帝国のふたつの星の物語ー  作者: 花渕マオ
ふたつ星
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2


________




膝をついた男は酷く恐れていた。

冷や汗が止まらず、顎を伝い床に落ちる。

震える手の温度が氷のように冷えているのを感じ、今の恐ろしさをより鮮明に己に伝えていた。



「もう一度今言ったことを言ってみろ」



悪魔のような地を這う声が己に問うた。その声の持ち主はこの国でたった1人しか座れない金で飾り付けられた椅子に足を組んで座っていた。

針を刺すように静まり返った空気が少しずつ、じわじわと首を絞められていく錯覚さえ起きる。



「で、ですから…、他国から奪った魔核は魔法具を作るエネルギー源としてお使いになられたらよろしいかと…」


「お前はこの国の生活が不便だと言うのか?」



酷く不機嫌な声だが、自分は何か気を害すことをしただろうか?顔をあげる許可は下りていないため、綺麗に磨かれた大理石の床を見つめるしかなかった。



「い、いえ、しかし、どこの国も魔核を使用した魔法具での生活が当たり前の中、大陸の中で追随を許さない我ら帝国が魔法具を使わない原始的な方法で生活しているなど、他国のいい笑い者です…!」



再び静寂が訪れる。

一体何故目の前の皇帝は、他国を侵略しては多くの魔核を奪っているにも関わらず、その魔核を国の発展に使わないのだろうか?自分は正しいことを申しているだけだというのに。

自分より遥か上の位置にいる王はまだ若い青年だ。自分よりも半分も生きていない、言うなれば青二才の小僧に過ぎないというのに。そう考えると段々腹が立ってきた。



「そのことについては以前話したはずだが?」



以前にもどうして魔法具を普及させないのか別の者が問うたことがあった。そのとき王は魔核は無限にあるわけではないとおっしゃった。だから普及はさせぬと。

それなら何故、大量の魔核を集めるのか?

集めた魔核は城の奥深く許された者にしか入れない庭に持ち込まれていると噂が流れていた。



…馬鹿馬鹿しい。無限ではないにしろ、溢れるほどある魔核がそう簡単に底をつくものか。たとえ底をついたとしても今のように他国から奪えばいい話だ。

…ふ、仕方がない。まだ若い王なのだから臣下として申さねば。



「お言葉ですが陛下、魔核が無限にないとしても今あるものを加工して他国に輸出すれば帝国はさらなる発展を遂げます。我が国の者なら今ある魔道具よりも質の高いものを産み出すことができます。それに最近では魔核を使った武器も出ているとか。それを使って他国が攻めてきたときにどのように対応するのですか…!」



己の声が部屋に響いた。



少しして、くくっ…と喉奥で笑う声がした。


これは、自分の提案に満足しているということだろうか。まだ顔をあげる許可は降りていないため様子が分からない。


「では、今あるよりもさらに良い魔法具を開発できる者を知っているか?大陸の中でこの帝国があらゆる面で先を行っているとはいえ、魔核を使った魔法具の開発は行なってはいないからな」



皇帝の言葉に思わず笑みがこぼれた。


我が領地で魔法具の開発が進めば今よりも己の地位は上がる!幸い数少ない魔法師が領内にいる。奴らに開発をさせれば、我が領地から魔法具が帝国領土に浸透し、生活に必要不可欠となるだろう。爵位が自分のほうが上だからと馬鹿にしてきた奴らも嫌でもこちらに頭を下げざるえないだろう。



「それでしたら、我が領地が…!」



皇帝と目が合った。


星のように光彩を放つその瞳は帝国内外で美しいともっぱら評判だが、氷のように冷えた蒼い瞳は闇夜の中で獲物を見つけた獣のように己を見据えていた。



しまった…!興奮して皇帝の許可を得ずに顔を上げてしまった。


「し、失礼致しました!陛下の許可なく顔を上げたことをお詫び申し…」



再び顔を下げると大理石の床以外に細長い鈍色のものが目に入った。ちょうどそれは自分の胸くらいの高さにあった。



なんだ、これは…?



それが何なのか理解が追いつく前に細長い鈍色のものはゆっくり後ろに引かれてゆき、見えなくなった時には己の胸に穴が空いたかのように感じた。



「ごぶっ、」



口の中から何か液体が吹き出る。鉄のような味がする。

恐る恐る口元に手を触れて見てみれば赤い色をしていた。


「ぅ、っっ、クッァ、」


息をする度に声にならず、ひゅー、ひゅーと音が鳴る。

何が起きたか分からず後ろを振り向けば、皇帝の騎士が剣についた血を払って鞘に戻すところだった。



「何故そのようになったか分かるか?」



皇帝はつまらなさそうに玉座に肘をついて眺めていた。目元に髪がかかって表情がよく見えない。

声が出ない男は弱々しく首を横に降って答えるしかなかった。



「許可なしに顔を上げたことはどうでもいい。それより何故わざわざ魔核を集めているのか、皇帝の意が分からぬ無能は要らん」


髪の間から見えた蒼い星の光彩の瞳は美しさより、全てを呑み込んでしまいそうなほど暗かった。




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