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むかし、むかしある国に双子の皇子が生まれました。兄は聡明で人々を導く者となり、弟は他者を助け手を貸してあげる心優しい者でした。
とても仲のいい兄弟はいつも共に過ごしていました。
やがて成長し勇敢な戦士になった兄弟は、国を脅かす侵略者から民を守ろうと戦いに行くことになりました。どんなに辛く苦しい戦いであってもお互いを助け、支え合っていました。
しかしある時兄弟は、別々で戦いに行かなければならなくなり、また後で会おうと話して別れました。
2人が再び再会すると、兄が血を流して倒れていました。兄は仲間の裏切りにあったのです。
冷たくなる兄に何度も声をかけても兄は目を開けることはなく、弟の目からたくさん涙が溢れ出ました。
やがてどうすることもできずに兄が息を引き取りました。
自分の半身であった兄の死は自分が死んだことと同じでした。弟も兄を追おうと自らに剣を突き刺しましたが、体が紅く染まるだけで弟は死ぬことありませんでした。何度も、何度も、剣を突き刺しても赤い血溜まりが出来るだけで死ぬことはありませんでした。
そして自分は簡単には死ぬことはない者だと弟は悟ったのです。。
何故…、何故…、何故…!!!
どうして胸を突かれたのが自分ではなく兄だったのか。自分であったら兄は死ぬことはなかったのに。
憎い、にくい、ニクイ。
兄を殺した者が。
そうして兄を裏切った仲間を殺し、弟は侵略者の国に向かいました。大人も子どもその国の全ての人間を皆殺しにしたのでした。
血に染まった姿は、彼が兄を追って自分を剣で刺したように紅で染まっていました。
恐ろしさ故に紅の殺戮者と呼ばれるようになりました。
兄を失った弟は、度々戦争を起こしては国を侵略し、その地と自身を紅に染めていきました。
他者を助け、手を貸す心優しい青年はもうどこにもいませんでした。
そうして弟を恐れるようになった彼の国が彼を殺そうとやってきました。戦で幾万の矢が降ろうと、太い槍に突かれようと死ぬことのなかった弟は大軍を目の前にしても驚くことはありませんでした。
軍を率いるのがかつて兄と自分に忠誠を誓った騎士だとしても驚くことはなく、ただひたすら空を見上げているだけでした。
日が顔出し、1日が始まる度に今日こそは死ねるようにと願い、星が瞬き闇に染まった空を見て、明日こそは兄の元へ行けるようにと願っていた弟はついに終わりを迎えました。
兄と自分に忠誠を誓った騎士が弟の胸を貫いたのです。その剣は精霊の力を宿した特別な剣でした。
やっと兄の元にいけるのだと閉じかけた目に映ったのは自分のために泣く騎士の姿でした。
弟は騎士に感謝の言葉を伝えて目を閉じました。
兄に再び会えることを願って───