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帰路

 キョウコは、ユイの身を案じて、すぐさま振り返った。そこには、亀裂の入ったリアガラス。

そして、それを見つめたまま硬直するユイの姿が。


 とりあえず、ユイは無事だとほっと胸を撫で下ろすキョウコ。

再び、前へと向き直す。

「防弾仕様にしといて正解だったわ。あと、ユイ、危ないから顔は出さないようにね」

この指示に、硬直状態であったユイは「ア、ハイ、ワカリマシタ」とぎこちない返事をしながら従った。


 しかし、なおも銃撃は続いている。

キョウコは右へ左へと華麗なハンドル捌きで、銃弾を回避しているが、このままだといずれは当たる。

それを危惧して、女執事が提言する。

「キョウコお嬢様のハンドル捌きは見事なものですが、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる……。防弾ガラスはしばらくは耐えるでしょうが、タイヤはそうもいきません! このままだといずれは当たりましょう!」

「そうなのよね」


 キョウコは気難しい顔をしてそう言った後、ため息を吐きながら、「やむを得ないか……」と何かを決心した様子だ。

次にキョウコの口から出た言葉は、ベロニカを大いに喜ばせた。

「銃の使用を許可するわ」


 その言葉を待っていました!と言わんばかりに、助手席のダッシュボードを開けるとそこには回転式拳銃(リボルバー)の姿が。

 それをおもむろに手に取ったかと思うと、「やはり、リボルバーこそ至高の極み」とほくそ笑みながら、我が子のごとく銃身を頬ずりするベロニカ。


 そして、助手席のパワーウインドウを下げると、上半身を乗り出しながら、後方を見据えた。

当然、銃弾が飛んでくる。

ベロニカはすぐさま身体を引っ込める。


「蛇行はやめたほうがいいかしら?」

「いえ、このまま当てます」

「さすがね、あなたの銃の腕前だけは買っているわ」


 ベロニカはリボルバーのハンマーを落とし、いつでも発射できる状態にして、深呼吸をする。

右人差し指はトリガーに差し込み、左手はハンマーの上を覆うようにして置く。

準備は万端。


 そして、身体を乗り出した瞬間に黒塗りの車に向かって発砲。

パァンという乾いた音と共に弾丸は吸い寄せられるように、右前輪へと命中。

タイヤを撃ち抜かれたことにより、制御不能となり、あらぬ方向へと曲がろうとする黒塗りの車に、続けざまにもう一発を打ち込んだ。

見事、左前輪へと命中。

そのままスピンしてその場に止まったところに止めの一撃。

エンジンタンクを撃ち抜き着火。

ものの見事に車は大炎上した。


「派手にやるわね」

「追っ手がまだいないとも限らないですからね」

「なるほど、通せんぼも兼ねている……というわけね?」

「そういうことです」


キョウコの運転する車は炎上する追っ手の車をそのままに先へと進んでいった。



 その後、キョウコ達は何事もなく無事に帰路へと辿り着いた。

屋敷に着いた頃にはもう陽は落ちようとしていた。

車を敷地内に停めると、ベロニカが真っ先に降りて、運転席のドアを開ける。

キョウコは降りながら「ありがとう」と一言礼を言うと、後部座席のドアを開けた。

そこにはぐっすりと寝息を立てながら眠るユイの姿が。


「眠っておられるようですね……」

「起こさないようにしないとね……」


 そう言って、ユイを静かに抱えようとするキョウコ。

その姿をベロニカが物憂げに見つめる。

ベロニカは悩んでいた。

悪意は無いが、ユイのことを灰かぶりと呼んでしまったあの時、キョウコのあまりの剣幕に謝罪の言葉すら出なかったこと。

そのことを今、謝罪するべきか。


 キョウコの様子を見るからに、特には気にしていない。

だったら、このまま、黙っていても何ら問題は無いような気がするが、それはそれで自分の中でもやもやとする思いがある。

そう考えた次の瞬間には、ベロニカの口は開いていた。


「キョウコお嬢様、申し訳ございません」

「何が……?」


 いきなり謝ってきたベロニカに面食らってしまったキョウコ。

「ユイ様のことを灰かぶりという蔑称で呼んでしまったことです……」

あの時の記憶が蘇る。

「ああ、あの時ね。別に気にしていないわ。あれは私のことを思ってのことでしょうし」

キョウコは何も気にしていない様子だったが、「というか――――」と話を続ける。

「そもそも、謝るのなら、相手が違うと思うわ」

そう言って、自らが抱きかかえるユイに視線を向ける。

「仰るとおりで……」と正論にぐうの音も出ない様子のベロニカ。


「まあどうするかはあなたの判断に任せるわ」

「確かに、キョウコ様の仰るとおりですね……」

謝るべき相手が違っていた。

ベロニカはキョウコの言っていることを素直に受け止めた。

「ええ、それじゃあ、私はこの子を連れて部屋に戻るわ」

「かしこまりました」

「あー、一つ言い忘れていたわ」

「はい?」

ベロニカが眉をひそめる。

「今日は助かったわ。ありがとう」

「いいえ、とんでもないことでございます。それが私の務めですので」

 キョウコは微笑むとユイを抱えたまま、屋敷の中へと消えた。

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