17 旅の始まり
あれから2ヶ月。
私たちは旅立つ時をむかえる。
あれからいろんな事があった。
チャンネル登録者が30万人を超えたりとかぁ。頑張って基礎能力を上げたりとかぁ。
あとは……何も無かった……。
私、そういえばこの2ヶ月はあんまり印象に残っていないなー。
特に何も起こらなかったし。印象に残ったのはレクシィやエルミアさんとの配信くらい。
エルミアさん……前回の反省を生かしたのか、少し配信上手になってた。
「リリ?準備出来た?」
いつも通りの背格好のレクシィがどこかから現れる。
「何も準備する物なんてないから。出来たよ!」
私の荷物は全部、ドアノブ一つあれば出してこれるからねー。
正直に言うと何も持たなくても良いと思ってるくらい。
「じゃあ。行こう。例の人が私たちを運んでくれる商人を紹介してくれるらしいわ」
例の人……。本当にレクシィとエルミアさんは仲がいいのか悪いのか。
喧嘩するほど仲がいいとも言うからね。仲は良いんだと思うけど。
私たちはエルミアさんの待つ門番の前まで歩く。
「なんだかドキドキしてきたわ。次の行き先はどこになるのか」
「決めてないの?」
「当たり前よ!旅だから行き先を決めたりはしないわ」
冒険者が皆こうならこの世界の冒険職は気ままに世界一周している人達と同じ認識になっちゃう。
冒険者って広い地図を持っていて、目標したところで狩りをして、いずれは魔王を倒すような強い人間になるものだと……
本当は旅人と同じ感じなのかな?
「来たわよっ!商人とやらはどこに居るの?」
「せっかく人が出迎えてやったのに感謝もないのかー?」
私が頭の世界から戻るころにはすでにエルミアさんとレクシィが睨みあっていた。
何人かの亜兵隊の人達もいるし……この場は収めとこ。
「まあまあ二人とも!お別れの場なんだから喧嘩しないで」
「「してない」」
あーそう。息が合うのは良く分かったから。もう落ち着いてくれないかな。
「それで……小悪魔 リリ。私たちの街の宣伝を感謝する。これからも好きな時にまた来い」
「はい!」
「以上だ。商人の場所へ案内してやる」
私の隣でもじもじするレクシィを見て、エルミアさんは薄っすら笑みを浮かべてどこかへと歩いて行く。
私とレクシィもその後を追う。
「こいつだ。おい。自己紹介しろ」
荷車にもたれかかっていた金髪の青年が歩み寄ってくる。
「どうもこんにちは。俺の名前はルーク。レクシィちゃんとリリちゃんよろしくねっ!」
うわーチャラ男。商人ガチャ外しちゃったか―。
エルミアさんは堅実そうな人に見えたんだけど……。
「気安く名前で呼ばないで。あなたに名前で呼ばれると虫酸が走るわ」
「辛辣だなー。大丈夫。俺は女に気安く手を出したりはしないよ。報復も怖いしなー」
なるほどね。でも……広い異世界を逃げ回ったら逃げられる気もするけど。
「この金髪とは元々、荷物を護衛してやった仲でな。私にかなり借りがある。だから快く引き受けてくれた。大丈夫だよ。信用してやれ」
エルミアさんがそういうなら信じないこともないけど。
もし手を出して来れば秘密のドアノブで逃げればいい話だし。
念のために警戒はしておこうかな。
「俺の名前はルークだ。よろしく頼むぜ。さぁ。大船に乗ったつもりで乗ってけ」
泥船の間違いじゃない?
私の偏見が強すぎるせいもあるとは思うけど。
でも金髪で茶色の目で少しオシャレな商人服でこの性格はもうそういう偏見を持たずにはいられないよ。
「乗ろう。リリ。私たちにはこの道しかないわ」
他に頼むとか、歩いて行くとかそういう選択肢は普通にあるとは思うけど。
多分、レクシィのメンタルからするとこの方法が一番なんだろうね。
あまり乗りたくはないけど。
「分かった……乗ろう……」
私たちはボロイ荷車に乗り込む。
「じゃあ出発するぞ」
金髪の青年は荷車の前座席に乗り込み鳥みたいな牛みたいな生き物につないである手綱を持つ。
「照れくさいが……レクシィ!達者でな。すぐに心折れて戻ってくんなよ」
エルミアさんが腰に両手を当てて力強く言う。
それに対しレクシィは小さく頷いた。
「じゃあ!行くぜ!」
掛け声とともに荷車が動き出す。
そんなこんなあったけど……私の異世界配信はまだ始まったばかり。
これからも日本一位のvtuber目指して頑張るぞー。
読んで頂きありがとうございました。第一章は閉幕となります。
直ぐに第2章に取り掛かるのでお待ちください。
私事ですが、少々休暇をしていました。この暑い夏、涼しい場所への旅行も良いものですね。