14 旅に出るかどうかは相談してみよう。
「次は食事屋―」
「次は宿屋―」
「次は雑貨屋―」
「次は娼館。ここはやめとこ。黒い世界が見えちゃうし。動画削除される」
開始から4時間くらい。私たちはようやく一本の動画を撮り終えた。
と言っても実際に動画になるのは15~30くらいでして。
さらに小分けにする場合は一つ3~4分くらいにしかならないんだけど。
「レクシィーご苦労様~」
「本当に苦労だわ。あんたを背中に乗せながら移動して、さらには一本一本緊張する動画取らされて、もう限界だわ」
疲れ切っていると思われるレクシィが地面に寝転がる。
まあ……これで労力を使って街を回る必要も無くなったし助かったかな。
レクシィには必要以上の働きをしてもらったし褒美を与えようかな。
「よーしレクシィ。あなたにはこのゲーム機 二転堂のbottanを上げよう」
「ゲームね!やるわ。でもそれどうやって使うわけ?」
「えっと確か……」
私は少しの間、レクシィにボタン配置を教えた。
レクシィは簡単な説明ですぐに理解してくれた。
「それでこのゲームは何のゲームなの?」
「えっとこれは主人公が探し人のために異世界中を旅するゲーム……」
「旅っ!!すっかり忘れてたわ。私も旅人なのよ。まだまだだけど。それでね……私はまだ見たことのない世界を旅したいと思っているの。それで……良ければだけどあなたも一緒に来ない?」
げっ!いきなりのお誘い。
ん~~でも私の目的はこの世界の宣伝+チャンネル登録者稼ぎ。特に断る理由はない。
だけど……ここで出会ったパルン隊長やエルミアさんとのお別れもしたくないし。
そうだ!
「その旅ってエルミアさんやパルン隊長も連れていける?」
「無理に決まってるでしょ。あの人たちはこの街の役人なんだから。それに……亜人は人間国家では差別対象。例え役人ではなかったとしても、あの人たちには良くないわ」
レクシィは哀愁漂う表情で地面の短い草をいじる。
日本ではオタクから崇拝されてるケモミミやエルフが差別対象?
変わった世界。
でも……この世界ではそう決まってるなら……エルミアさん達には悪いかも。
「時期はいつまで?」
「冬が明けたら出ようと思うから……大体、2ヶ月くらいよ。その……無理してついてこなくても良いわよ」
「考えさせて」
私の心の何かを読み取ったレクシィは無言で頷く。
「じゃあ、リリは少し配信をしてくるから。ゲーム楽しんで―」
「分かったわ」
急にそんな事言われても困るし。取り敢えず視聴者の皆にどうしたいか聞いてみようかな。
もし嫌って言われたらどうしよう……まあ、その時はその時で考えればいいか。
私は手際よくカメラにスマホをセットしてサムネイルとかそこらへんを設定する。
よーし配信開始っと。
《あれ?今日は待機なしか?珍しい》《ほんまやな》《何千年ぶりの光景だろうか》
《こんばんはーっす》《仕事帰りで丁度良かった》《この時間良いね》
「皆―。実は今日、相談があって雑談配信を開きました」
《どしたん。話、聞こか?》《定番のやつやん》《何でも相談に乗りますよ》
《雑談配信なんすか?それ》《それよりも前のエルフさん見たい》
「じゃあ。皆、質問。私はこれからあの村に滞在して動画や配信を撮り続けるか、世界を回っていろんな場所の配信や動画を撮るのどっちがいい?」
《圧倒的に後者だな。旅はファンタジーゲームの醍醐味でしょ》《前者かな。理由はない》
《好きな方にしたら?》《俺達にはどうしても……その選択は出来ない!!》
やっぱりそうだよね。視聴者は私の手下達。結局は配信者の都合ってわけね。
「ありがとう皆。という事でここで終わるのももったいないから、たまったご意見箱を掃除していこう」
《いえーいご意見箱掃除配信。おひさ―》《前は結構、やばいの来てたからな》
《最後にやったのいつぶりですか?》《確か最後にやっていたのは8か月前ですね》
「まず一つ目。『リリちゃん。結婚しよう!』しませーん……」
「二つ目。『リリちゃんは淫魔って認識で良いの?』淫魔じゃないよー悪魔だよー」
「三つ目。『JCです可愛さの秘訣は何ですか?』JCって本当!。可愛い。私の可愛さの秘訣は高画質にしてるところで―す」
そのまま大体、100個くらいのご意見を掃除し、配信を終えた。
あぁ……しんどい。これを1000本ノックしてた偉人はもっと評価されるべきだと思う。
はぁ……しかし。移動ねえ。少しエルミアさんやパルン隊長に相談してみようかな。
私は重い足取りで亜兵隊詰所へと向かう。
「すいません。エルミア様は仕事で出られております。パルン様ならいますよ」
「あぁ……じゃあそっちでお願いします」
亜兵隊詰所をせっかく訪れたのにエルミアさん今日はいなかった。
まあ……亜兵隊のボスだから忙しいのは当然だと思うけど。
「パルン様は2階で部屋に籠っていらっしゃいます。お好きにどうぞ」
「はい……」
負けたんだろうね……きっと。
私は昇降板で2階に昇り、パルン隊長の部屋をノックする。
「この匂い。リリ様ですか。入ってください……」
中からパルン隊長のしょぼくれた声が聞こえた。
私は慎重に扉を開ける。
「こんにちは。久しぶりですね。私に訪ねてくるなんて珍しい」
パルン隊長が空元気のような態度で私を出迎える。
もう。我慢しなくていいから。大丈夫。咎めたりしない。
「負けたの?」
「勝ちました。金貨1万枚も稼ぎましたよ。あはは」
「金貨一万枚はどこにあるの?」
「……負けて10枚になりました。その10枚もやけ食いでなくなりました」
まさにこれこそ破産の神様。ちゃんと辞め時は考えないと。それにやけ食いって。
どうしてこの人はこんなにもお金を求めているのに管理は出来ないんだろう?
「大丈夫。だから。そういう時もあるよ」
私は耳を垂らしてしょぼくれているパルン隊長を撫でる。
「それで?リリ様は何しに来たんですか?」
「少し相談があって……」
「良いでしょう。私がのってあげましょう」
私はパルン隊長にレクシィとの旅の事、ここを離れてしまうことになりそうな事、そしたらエルミアさんやパルン隊長とお別れして寂しくなることを伝えた。
「なるほど。私もいつかそうなるとは思っていました。レクシィさんは旅の者ですから。ですが、私たちの事は心配しないでください。時々、顔を見せてくれたらそれでいいですから」
なんて心優しさ。パルン隊長にもこんな一面があったんて。
「でも……」
「大丈夫です。私たちを誰だと思っているんですか。出会いと別れは何度も経験済みですから」
私はその答えを少し悲しく思いながらも、心のどこかでは迷いが少し吹っ切れたような気がした。
レクシィ「うぅ......(泣)こんなにもいい話が合っていいの。さらに冒険に対する熱が上がったわ!!」