13 溜まった仕事の消化中
「おい。いつやるんだ?私にもいろいろと仕事があるんだが」
「ちょっと待ってって。今、ワンちゃん捜索の動画編集をしているんですよ~」
Vtuberである私はそうそう動画は上げない。だからこそ編集に時間がかかる。
こういう時だけの専属編集者とかいないかな?
「ねえ!リリ。私に何か手伝えることない?ない?」
隣でレクシィがパソコンに向かって熱視線を送っているのはよくわかる。
でも、下手に触られて壊れたりしたら取り返しのつかないことになるし。
迂闊には渡せないよね~
「ない!パルン隊長と賭博でもしてきたら?」
「あの人、また賭けに出たの?どうかしてるわ」
そういうものだから。賭け事って言うのは。
☆★
後は最後にリンクとかを貼って。出来上がり~。
「出来上がりましたよ」
私が顔を上げると、エルミアさんはとっくに資料整理を始めて、レクシィに関しては近くの椅子で眠りについていた。
「はあ……やっとか。これ以上かかるなら帰ろうと思っていたところだ」
「えへへ……すいません」
エルミアさんには少し申し訳ないことをしたかな……でも帰られなくて良かったー。
エルミアさんは机に広げていた紙の束をたたみ、机の上で両手を組む。
「それで?そのはいしんっつうのは何をすればいいんだ?場合によっては断る」
「それを話すと長くなりますよ」
「簡潔に頼む。もう夕方だ……。説明している間に帰るぞ?」
簡潔に……簡潔に?まあ一言で言うと自由に喋るだけ?でも、そうするとコンプライアンス上まずい事も話しちゃう。
それも合わせて説明しようかな。
「卑猥な言葉や暴言などを言わずに常識の範囲内で見ている人とお話することです」
「なるほど。安心しろ私はそんな人間じゃない。守ってやる」
本当にそうだといいんだけど。
今回は初登場でこれから登場させて貰えないという事で質問配信という形にしようかな。
その後にレクシィの街のおすすめスポット紹介動画をその後は……。
なんか考えるのしんどい。早くカメラ回そう。
私はカメラをエルミアさんの場所に合わせ、配信設定を終えたスマホをカメラにはめた。
「はーい待機画面にします。準備してください」
「いつでも準備は出来てるぞ。そのPRとやらを手伝ってやろうじゃないか」
待機画面にはいつも通り多くのコメントが来ていた。
《エルミア―?誰?》《質問配信?もしかして村の人じゃね?》《待機晩成》《待機晩成!》
「これ配信画面です。私の特性で見えるようになっています」
「ありがとう。これがこめんとらんって言うやつか。目を使いそうだな」
「はい3,2,1行ってみよう」
さて上手くやれるかな。コメント欄に結構、きてるけど。
《わーお。エルフ。最高かよ》《質問コーナーね》《こんちゃー》《エルフやん。可愛い》
《エルフいてはるやん。凄いわー》《ちょー可愛い》《クールタイプっぽく見える》
「やあ皆。こんにちは。私は亜兵隊隊長 エルミアだ。今回はリリに従う。つーことだから何でも好きに質問していいぞ」
《おすすめの場所を教えてください》《休日何してる》《仕事は楽しい?》
《アットホームな雰囲気の職場ではないですよね》《俺と結婚しない》
「おすすめの場所はない。休みの日はない。仕事は楽しくない。アットホーム?はよく分からないが、お前と結婚はしない」
《うわぁ……質問コーナーになってねえ》《辛辣。こういう人に踏まれたいかな》
《亜兵隊というところはかなりブラック説あります》《うわーバッサリ切られたー》
これは上手く行っているでいいのかな?まあ……このまま配信終わりまで見とこうか。
そのままエルミアさんは質問配信を無事?終えた。
時々、かなりスレスレな場面はあったけど……大丈夫だよね。
きっと今頃、私のチャンネルの切り抜きさんは頑張ってくれているだろうね。
しかし……まさか今回の配信を聞きつけた変態たちがあんなに集まってくるとは思わなかった。
これはあまり配信したくなくなるかも。
「これで良かったよな?これ以上はさすがの私もやらない」
「はい。控えめに言って最高ですね。チャンネルの視聴者層が崩れた気がします」
エルミアさんは少し眉間を寄せる。
あれ?怒らせちゃった?私はいい意味で言ったんだけど……。
新たな視聴者層を入手できたって言った方が良かったカナ?
「お役に立てて良かったよ。では私は帰る。帰るっつても家でも仕事があるんだがな。お前も早く雑魚メンタルを連れて家に帰るといい。もうすぐ夜だ」
私がレクシィの方を振り向くとレクシィはまだぐっすり眠っていた。
今日は相当頑張ってもらったから疲れちゃったかな。まあ、明日は街の紹介配信をしてもらうけど。楽しみにしててね~。
「分かりました。レクシィを起こして帰ります」
「あぁ。それでは失礼するぞ」
エルミアさんは片手に資料を抱え、部屋から出て行った。
「ほら。レクシィ。早く起きて!帰るよ」
「zzz……」
「もし起きないなら。お前の秘密を一つ暴露してやるぞ。つい少し前な」
「そのことはもう話さないでっ!」
レクシィが縦幅の広いソファから慌てて起き上がる。
エルミアさんのモノマネは効果的みたい。いい目覚ましかも。
「なんだリリね。私、今凄く最悪な夢見たかもしれないわ」
「たぶん夢じゃないよ……早く帰ろうか。明日は街の紹介動画を撮るからね」
「任せなさい」
私は起き上がったばかりの星那を支えながら、一緒に家へと帰った。
☆★
次の日、私は全身筋肉痛にやられながらもレクシィと一緒に撮影を開始した。
「えーっと見てみたいランキング第一位は冒険者ギルドだね。まずは冒険者ギルド行ってみよう」
「あーえっと。人間の街に行かないと冒険者ギルドはないわよ」
じゃあ、これは却下。冒険者ギルドくらいどこにでもあってほしかった。
「第2位は武器屋さんだね。じゃあまずはここで」
「おすすめを知ってるわ」
「はーい。レクシィ。ジャンプして3,2,1」
私の言葉と共に首を傾げながらレクシィは軽く飛び跳ねる。
「このジャンプ何か意味あるの?」
「後でよくわかるよ。ほらーリリを武器屋まで運んで―」
「もう……仕方ないわね」
私はレクシィに武器屋まで運んで貰った。
あの日、何でもしてくれるって言ったもんね。これはありがたい。
はい3、2,1。
「皆―。こんにちはリリだよー。今日はこの街に詳しいレクシィさんに皆の行きたい場所について紹介してくれるよーまずは武器屋。ではレクシィさんお願い!」
私は自分の写っているカメラをレクシィの立つ武器屋の方へと向ける。
「ひゃい!え……えっとここがぶ、ぶ、武器屋よ。ここここには皆の見たことないような武器が売ってってあるわ。見てみましょう」
私は慌てて中に入って行くレクシィを追うようにして店に入る。
「こんにちは。ここでは何を売っているの?」
店主がニコニオした顔で出迎えてくれる。
もちろんエルミアさん特権を使って協力してもらえるようにしている。
「はい!ここは剣や弓など各王国から仕入れた、豊富な種類の武器がありますよ」
はーい。武器を映していきまーす。
武器を一通り映し終わった後、レクシィに合図を送る。
「こ、ここで一番のおすすめを見せて」
「分かりました。こちらが当店のおすすめ商品 炎剣 フレイムバルドでございます」
店主が大きなショーケースに飾られた剣を持ち出してくる。
「こちらは焔龍からしか出ない灼焔石を贅沢に丸ごと一つ使った代物になります。なにせ国一番の鍛冶師が打ったものとも言われてますから相当なお値段になります」
燃え上るような光を放つそれは触れただけでも手が溶けてしまいそうなくらい熱そうだった。しかし形は綺麗。真っすぐと伸びている。
この説明をされると私も買いたくなっちゃう。剣振れないけど。
「触らせてもらっていい?」
「ダメです。それはそれこれはこれですから。買っていただくなら良いですが」
「レクシィ。落ち込まないで。ありがとうございました。次行こう」
私はカメラを止めた後、店員に念入りに感謝して、落ち込むレクシィの手を引きながら店を出た。
エルミア 「もっと上の評価を狙えると思ったんだがな。気になって仕事に身が入らない」