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第122話 人間と猿の例えは分かりやすい

 神殿とダンジョンを繋ぐ穴を念入りに塞いだ後、俺は生活拠点に戻った。


「ぷはぁ~、これよ、これ! 食べ物は充実してたけど、何か足りないと思ってたら! ようやく見つけたわね!」

「アズリエーネ、あなたと珍しく意見が一致しましたわね! 足りなかったのは、やっぱり美味しいお酒ですわ!」

「我が里の名物、蜂蜜酒をそこまで気に入ってもらえるとは! わざわざ樹海に戻って取りに行ってきたかいがあったというものだ!」


 ……なんか酒盛りしてるんだが?


 アズ、エミリア、そしてシャルフィアの三人が、昼間っからお酒を飲み交わしていた。

 いや、ダンジョン内だから昼も夜もないが……。


「俺が悪魔と死闘を繰り広げていたというのに、こいつらは」


 アズとエミリアのことはもう諦めていたが、シャルフィアまでこのぐうたら娘たちに加わるとはな……。

 まぁシャルフィアはかなりのお酒好きっぽいし、レアケースだと信じたい。


「ん、悪魔? ちょっとあんた、今、悪魔って言わなかった?」

「ああ、言ったぞ」

「何であんたから悪魔なんて言葉が出てくるのよ」


 もうすでに酔っぱらい気味のアズが、赤みのさした顔で絡んでくる。


「色々あって戦う羽目になったんだよ。それより悪魔と魔族って何が違うんだ?」


 俺の問いに、アズは不快そうに「ああん?」と低い声を漏らした。


「ぜんぜん違うわよ! あいつらは魔物とか動物の一種! あたしら魔族は、あんたら人間と同じように知能のある高等生物よ!」

「へえ、そうなのか」


 俺にはぐうたらしているだけの下等生物にしか見えない。


「下級悪魔には知能がありませんわ。基本的に本能だけで動く獣ですの。上級悪魔になってくると多少は考える力もあるようですけれど、会話までできるような個体はごく僅かですの。魔族の研究者たちの中には、悪魔が長い年月をかけて、あたくしたちのような魔族にまで進化した、なんて説を唱える人もいますの。あなた方でいうと、猿に相当するような存在ですわ」

「なるほど、人間と猿の例えは分かりやすい」


 エミリアの補足に、俺は納得する。


「もちろん諸説あって、堕天した元天使だという説もありますわ」


 どうやらこの世界には天使もいるらしかった。


 酒臭い一団に、飲み過ぎないようにと諫めつつ、俺は金ちゃんのところへ。

 神殿で起こった一連の出来事を説明して、長谷川たちの荷物を預けた。


「予想していたより大変だったでござるな……。それにしてもよく悪魔を倒せたでござるな? 下級悪魔でも危険度Bと言われているほどでござるよ? 話を聞く感じ、上級悪魔クラスだったようでござるが……」

「ダンジョン内に引き込んで戦ったからな。さすがに地上じゃ無理だった」

「……と、とにかく、これは拙者から彼らに返しておくでござる。なんにせよ、王女殿下がご無事でよかったでござる。丸夫殿のお陰でござるよ」



    ◇ ◇ ◇



「王女殿下が戻ってこられたぞ!」

「お一人しかいらっしゃらない!?」

「何かあったのでございますか……っ?」


 神殿を出たセレスティアは、そこで待っていた側近たちに神殿内での出来事を話した。


「やはり刺客がっ!」

「なっ、悪魔が召喚されて、勇者様方が全滅!?」

「そ、それでよくご無事でございましたな!?」


 ただし、彼女を助けてくれた謎の人物のことは伏せておいた。


「どういうわけか、突如としてその上級悪魔が消滅したのです。……きっと神の奇跡に違いないと私は思います(言ったところで、信じてもらえないと思いますし)」


 神の奇跡により、悪魔を退けることができた。

 セレスティアの言葉に、側近たちは感動と共に頷く。


「ああっ、やはりセレスティア殿下こそ、我が国の王に相応しい!」

「間違いない! このお方こそが神に選ばれた存在だ!」

「我が国発展のためには、セレスティア殿下のお力が絶対に必要である!」


 そうして彼女が王宮に帰還した後、この話は瞬く間に王都中、いや、王国中にまで拡散。

 彼女の存在をより権威づけ、第二王子との王位継承争いにおいて、圧倒的なリードを得ることとなったのだった。


「(それもこれも、私を助けてくださったあの方のお陰……なのに、まだろくにお礼もできていません……。ああ、一度、王宮にいらっしゃってくださらないかしら……)」


 ……彼女は知らない。

 その人物というのが、外れ勇者に認定された勇者であり、また最近大きな懸念となりつつある謎のダンジョンのダンジョンマスターであることを。



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