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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

約束していたイルミネーション、一緒に見に行けなかった。

作者: 鷹羽飛鳥

 これは、藤乃澄乃さまの『冬のキラキラ恋彩企画』参加作品です。

 「ひかるちゃん、また明日!

  クリスマス、絶対だからね!」


 朱音(あかね)を家の前まで送ってから、ボクは家に帰る。

 もう3年くらい続いてる習慣。

 3年前、小4の時、朱音が痴漢に遭ったのを助けてから、朱音を送り迎えするのがボクの生活の一部になった。

 割と近所に住んでるけど、幼馴染ってわけじゃない。

 3年生で同じクラスになって、仲良くなったってだけ。

 小さな頃から男子とばっかり遊んでいたボクにとって、初めての仲のいい女子が朱音だった。


 夏祭りに行ったあの夜、1人で歩いてて暗がりに連れ込まれそうになってる朱音を助けたことで、ボクにとって朱音は特別な存在になった。

 変質者に殴られて転んだせいで、ボクの右目の下には大きな切り傷ができた。

 顔に消えない傷を作ったことでお母さんには泣かれちゃったけど、ボクは大好きな朱音を守れた勲章だと思ってる。

 大好き──そう、ボクは朱音が好きだ。たぶん、初恋。

 修学旅行で一緒にお風呂に入った時には、朱音の裸にドキドキした。

 今ではボクの方が背が低いし、ボクは初潮もまだで、すっかり朱音の方が大人っぽくなったけど、ボクにとっては朱音は守ってあげたい女の子。

 やっと中学生になって、2人でクリスマスのイルミネーションを見に行けることになったんだ。

 キラキラ光るイルミネーションの中を朱音と2人で歩く。なんてロマンチック。恋人同士みたい。




 女の子が女の子を好きだなんて、おかしいのはわかってる。

 「ずっと一緒にいようね」なんて約束してるけど、朱音は友達って意味で言ってる。ボクは違う。

 朱音に知られたら、気持ち悪がられるかもしれない。

 でも、好きなんだ。

 いつか朱音が誰かを好きになったら、朱音の隣にボクの居場所はなくなっちゃうだろう──その時、ボクは失恋するんだ。

 いつかきっとくる悲しい未来を思うと、涙が出てくる。

 でも、ボクの気持ちを知られたら、気持ち悪がられるだろう。

 朱音には、ボクの気持ちを知られちゃいけない。

 ボクが男の子だったらよかったのに。




 バチが当たったのかもしれない。

 ボクは、朱音に会えなくなった。




 ある日、お腹が痛くて医者に行ったら、大きな病院で精密検査を受けるように言われた。

 なんかすっごい病気!? ってびっくりしたお母さんに連れられて、隣町の大学病院に行ったんだけど。

 ボクは本当は男の子だったらしい。

 なんとかっていう病気で、見た目が女の子で生まれてきたんだって。

 まだ初潮が来てなかったのもそのせいだったんだって。


 お父さんもお母さんも、ボクが男の子だったってことでショックを受けてた。

 まあ、そうだよね。

 どう見ても女の子なのに、中身は男の子だなんて、そりゃ驚くよね。




 なんて、のほほんとしてたんだけど。

 手術するって聞いてびっくりした。

 元々、具合が悪くなった理由は、ボクが大人の男になりかけてたせいなんだって。

 だから、外見も男の子に直さなきゃいけないって。

 その後は、──男の子になって、別の中学に転校する。

 この前まで女子だった男子なんて、気持ち悪がられるからだって。

 たしかに気持ち悪いと思う。

 今まで女子トイレを使っていて、小学校の修学旅行では同じお風呂にも入った。

 そんな相手が実は男子でした、なんて、嫌に決まってる。

 …朱音も、きっとそう思うはず。

 朱音に嫌われたら、もう生きていけない。


 手術のために入院するまでの2週間、ボクは朱音と会うのを避けた。というか、学校に行かなかった。

 「ごめん、体調悪くて休む」ってメッセだけ送って。




 そのまま、ボクは学校に行くことなく入院した。

 もう、これで朱音に会えない。

 最後にもう一度会いたかった。あんなメッセでお別れなんて、嫌だよ。


 手術の後のダルさと痛さで、考えることも暗いことばっかになってる。

 こんなんで会えなくなるなら、ダメ元で告白しとくんだった。

 後でするから後悔って、本当なんだね。

 結局、イルミネーション、見に行けなかったな。せめて手術がもう少し遅くなら、最期の思い出作りできたのに。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 「ひかるちゃん!」


 一番会いたくて、一番会いたくない、大好きな人が病室に駆け込んできた。


 「朱音!? なんでここが!?」


 「おばさんに聞いたの」


 絶対に言わないでって言ったのに、お母さんのバカ!


 「ひかるちゃん、転校するって本当?」


 「…うん」


 「男の子になったから?」


 朱音に知られた!

 もうおしまいだ。


 「うん…」


 涙が溢れてくる。こんな終わり方って、あんまりだ。

 朱音にだけは嫌われたくなかったのに。


 「あのね、私、ひかるちゃんが男の子で嬉しいの。

  だって、私とずっと一緒にいてくれるって約束が本当になるから。

  私ね、ずっとひかるちゃんが好きだったの。

  いつかひかるちゃんに好きな男の子ができて、私のこと見てくれなくなるんじゃないかって怖かったの」


 朱音が、ボクを?


 「ひかるちゃんが男の子なら、私が彼女になればずっと一緒にいられるよね。結婚だってできるよね」


 「朱音は、男子嫌いじゃないか」


 ボクは男子になっちゃったんだよ。


 「ひかるちゃんは好きだもの。

  ね? 私のこと、彼女にしてくれる?」


 「いいの?」


 ボクのこと、気持ち悪くないの?


 「ひかるちゃんがいい。大好き」


 「気持ち悪くないの?」


 「全然。おかげで悩みが解決したし。

  来年はクリスマスのイルミネーション一緒に見よ?」


 「うん…うん…。

  ボクも朱音が好き。

  ずっと、一緒にいて」


 2人で抱き合って泣いて、僕達は恋人同士になった。

 今年のクリスマスはダメだったけど、来年こそきっと…。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「冬のキラキラ恋彩企画」から拝読させていただきました。 いいハピエンでした。 両片思いだったのですね。
[良い点] ガールズラブかあ、さみしい終わりなのかなあ、と思っていたらなんとハッピーエンド!! すごく素敵なお話でした! ありがとうございました!
[良い点] なんと!思いがけないハッピーエンド♪ 途中まで「え、これはどうなるんだろう。どういう結末が~」とずっとハラハラしました! [気になる点] >今ではボクの方が背が低いし これ、男の子だっ…
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