1-13 港街アクアヴェール③
「ギルドって何処も活気あるもんだと思っていたけどそんなこともないんだなぁ?」
「ちょ、ちょっと失礼ですよ!!」
「お、おじゃま、します。」
椅子に堂々と腰掛けお茶を啜ってる魔女みたいなおばさんは
私達をみるに明様に不機嫌そうな顔をするのであった。
「なんだい!?こんないるのかい!?騒がしいねぇ!!
それにあんたのその大剣は物騒だし邪魔だよ!ここを戦場にでもするつもりで着たのかい!?さっさと収納してきな!!」
「た、確かにそうですね。失礼しました。」
「ありゃりゃ~こんなたくさんの人なんて久々だべぇ~。お茶足りるかぁ?」
「騒々しくてすいません…。お気遣いなくて大丈夫ですよ。」
「うちの主人の出したものが飲めないってのかい?突っ立てないでさっさと座りな!!これだから上級の傭兵ってのは嫌だねぇ~!」
何かと文句を付けて自分の要望を通そうとする様は
サラリーマン時代の営業先クレーマーおばさんを沸騰させる。
正直、こういう人は苦手である。
社畜時代の嫌を思い出してか胃が少し痛くなってくる。
共有チェストに大剣を収納させL字カウンターに横並びで腰掛ける。
案の定、魔女の隣は誰も座りたくないらしく空席となり、渋々そこに腰掛けることとする。
「あんなヘコヘコして、ギルドの上下関係ってそんなに厳しいのかしら?」
「いや、そうでもないぞぉ。エイミのあんな姿見るのはあたしも初めてだから少し新鮮だなぁ…」
ボソボソと喋ってるつもりかもしれないけど聞こえてるからな!!
「ほほほほ、長旅でお疲れだべ。ゆっくりしていってなぁ~」
せっかちなおばさんに対してノンビリとしたおじさんである。
緑茶と一口サイズの饅頭がカウンター上に用意され置かれていた。
東大陸の物だろうけど和菓子ってもあるんだと少し驚く。
「えっと、これが今回依頼品です。」
封印の施された箱を手渡しすると気怠そうに受け取りはぁ…とため息をつく。
「これが問題の本かい?まぁた、あいつはこんな頑丈に封印の魔術なんてして。もう若くないんだから解除するのにも時間がかかるってもんだよっ!」
そんなこと私に言われても困る。
魔術知識なぞ皆無なので手伝いも出来ない。
「それと…あと、道中で保護した人達がいるんですけど…」
「そんなもんどこにいるんね?」
視線を横に向けると、恐怖からなのか素顔がバレたくないのか
先程よりフードを深く被って少しでも存在感を出さないように黙っていたる人物がそこにはいた。
こちらの視線に気がついたみたいで少し間あたふたし「その…私達がそうなんですけど」と弱々しく手を上げる。
「エルフの保護ってどういうことさ?お前等の仲間じゃなかったのかい?」
「え?わかるの!?」
「わたしだってかつては世界を旅した女さね。顔を隠されたところでエルフの気配は独特だから直ぐにわかるよ!」
「そういうもんなんですか?」
「ん?あたしにはわからん。魔術系の探知能力でも使ってるじゃないのかぁ?おっちゃんこれ美味いなぁ!!」
隣に座っているアンリに問いかけるも
こっちの話は興味ないのか饅頭をパクパクと幸せそうに食べていた。
その姿をみておじさんは微笑んでいる。
「そんなコトより顔をみせておくれ!ずっと隠してるって失礼だと思わないのかい?」
「ひっ…!?」
ビクッと小さな体が震えたのがわかる。
それを落ち着かせるように「大丈夫よ」と手を握っているみたいだ。
しばらくの沈黙の後、深く被っていたローブを脱ぎ顔をあらわにする。
相変わらず戸惑っているみたいで黒髪の少年は下を向き俯いている。
「相変わらずエルフってのはべっぴんさんだべぇ。それに男の子だなんて、いやぁ死ぬ前にいいものがみれたもんだよぉ。長生きってのはするもんさね」
「ふぅん?なるほど。忌子とはまた珍しいね!」
「そのぉ、道中で魔物に襲われていたのを保護致しまして…。」
それを聞くとキリッとこちらに目を向けて
「忌後のエルフが魔物に襲われる?そんなことあるワケないだろう!!嘘言っちゃいけないよ!全部本当のコト話な!!」
うぅん、ダメだ…。
アンリの言う通り看破出来るような、なんかしらの能力持ってるなこの魔女。
世界中を旅してるとのことだしそれもそうか。
って、納得している場合ではないどうにかしないと。
と思うものの今まで出来事を正直に話すとこの2人がどうなるかわからないし困ったぞ。
というか、この調子で尋問され続けたら
私が依頼品素材を活用して水着とか作っていたのもバレそう…。
どこか重い空気がこの不気味な空間を覆いはじめていた。
しばらくの沈黙の後、「わかりました。正直に今まであった出来事を話しますわ…。」と口を開いたのはクラムであった。
えっ…と驚く顔をみた彼女は「もう、いいのよ」とどこか決意した表情を向ける。
「ったく…、最初からそうしろってもんだよ…。」
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クラムは時間をかけて
エルフの内戦があること、村から脱走したこと、
脱走してからの日々、食料が尽きて私達の依頼品を強奪しようと計画するも失敗し今に至るということを全て語った。
湖の出来事は省いていたけど…。
ギルド長であろう魔女みたいなおばさんは、クラムが今の現状に至るまでの説明している間
怪訝そうにお茶を啜りながらも茶々を入れずにところどころに
相槌を挟みつつも真剣に話を聞いていた。
「なに?お前さんはもしかしてこのエルフの狙撃にされたのかい?」
クラムの説明を終えた後の最初の質問だこれだった。
「えっと、まぁはい…合計9弾顔面に喰らいました…」
「ははっははは!あの臆病で引きこもり種族に!?あの守護銃を!?しかも撃たれた本人はピンピンとしているだって!?こんなことあっていいのかい?コイツは愉快だねぇ!!」
何処がツボに入るポイントだったのだろうか…。
口を開けて大笑いして腹を抱えている。
そんな彼女に少し呆気を取られて呆然とするしかなかった。
「あのぉ、なので私は裁かれる立場にあると思うんですけど…。」
恐る恐るクラムが口を開く
「うぅん、そうだねぇ…」
笑顔で顎をいじりながら少し考えてこんで
何杯目かわからないお茶を啜いながらまったりしているアンリに目をつける。
「じゃあ、そこの顔に蛇の入れ墨をつけた女はどうなるんだ?
そうだろ?さっきから我知らぬ顔でのんびりしてる盗賊団“毒蛇”の頭であったジュリア・アンリ。いや、今となっては元盗賊だったっけ」
「ンッ!?…ゴホっ…はぁ?…あたしかぁ?もうあの頃の話しとかしたくないんだがなぁ…」
話を振られるとは思っていなかったのだろう、ビックリしたのかお茶が器官に入ったのか少し咽ている。
「えぇっと、奇襲、強盗はもちろんのこと、金になりそうな薬とかも売ってたっけか。
それに鉱山地帯の独占と…。まぁ、トドメになったのは男性の拉致軟禁だけどなぁ。こっちも依頼だったとは言え失敗したわ、受けてなかったらコイツに捕まってなかっただろうになぁ…いやぁ参った参った!!」
「改めて聞くと恐ろしいですね。」
「いや、本当に恐ろしいのはお前だろう!!お前がアジトにこなきゃっ…ってこの話はやめやめ。今のあたしには黒歴史なんだ。もう、勘弁してくれ」
私の第一等級傭兵の最後の試練は男性の救出及び犯人の確保であった。
男性が少ないこの世界でのそういう行為は重罪であり最終試練として相応しい内容だったのだろう。
そして、それに続くのが“無慈悲な傭兵”と肩書がついてしまった処刑台の出来事
ボロボロになってまでもコイツを捕まえたまでは良かった。
でも、その後に処刑を私に実行させようとした上層部の判断は今でも気が狂っていると思う。
思い出したくなかったんだけどなぁ…。
「え!?エイミーが処刑台で庇ったのってこいつだったの…
ただの荷物運びが凄く強いから只者じゃないとは思っていたけどその当事者だったなんて…。私は記事でしか知らなかったから屈強な人だと思ってたけど、見た目はこんなガキだったのね」
「なんだと!?ガキってこう見えてもこいつよりかは年上なんだぞぉ!」
そう言えばそうだったっけ…。確か21とかだった気がする。
私は本来ならそれ以上の年齢だから年上って言われてもピンとこないのもあるけど。
そう考えると犯罪者の合法ロリ巨乳と一緒に日々を過ごしていたのか…。
「わかったかい?そこにいるそいつは名高い罪人だったし、その罪を被って生かしてるそいつも見る人によっては罪人さ」
「お言葉ですけど、これだけは言わせて下さい。私の最終判断は間違えていませんし、今も昔も後悔はしていません。」
少し思うところがあり、思わず強く出てしまった。
「かはははは!やっぱりお前さんは面白いねぇ。ワタシ個人的にはお前達みたいな奴らは、自分の人生ってのを貫いて生きていて好きだよ!!
まぁ、そういうこった。ここにいる奴らは失敗を積み重ねて今を生きてるワケさ!事情があってその出来事に反省しているならいいんじゃないかい?他の連中は知らないけど、少なからずワタシはそう思うよ。」
「でも、私達はどうすればいいのかしら…エルフの村には戻れないしこっちの世界もわからない」
「何をそんなに悩んでいるんだい?それならかつての犯罪者を助けた高階級の傭兵さんがいるじゃないか。」
「え?私ですか!?」
「お前以外誰がいるんだい!!ったく、自分で作った問題なんだから自分で解決しな!!仮にも第一等級だろ!?それになんだい?そんな盗賊を庇うことが出来たのにたかが訳ありのエルフ2人を庇うって言うのは出来ないって言うのかい?」
そう言われると返す言葉もない。
というか、言ってしまうと当時は私が処刑人になりたくなかったから必死だっただけだ。
ギルド昇格の為とは言えど、誰が好んで人殺しなぞしたがるのだろうか…。
そう、決して、アンリを庇ったワケではないのである。
世間ではそうみられてしまうのも無理はないのか…?
でも、今はそんなコトも言っている状況ではない
「……わかりました。この2人の対処は私が責任を持って決めさせて頂きます…。」
「そうそれでいいんだ。というコトでこの話は終わりだよ!!
ったく、無駄な時間を過ごしたもんだねぇ…。話はこれで終わりかい?
ワタシはこれから忙しいんだ。2階に空き部屋あるから勝手に使いなよ!!
ったく、1日でこの作業終わらせろだなんて、アカネちゃんも相変わらずだねぇ…。」
そういうと席から立ち上がり小言を言いながらカウンター裏に入っていくのであった。
おばあさんがいなくなるのを見ておじさんが口を開く
「傭兵さんや、あんまり深く考えなくても大丈夫だべよ。ご覧の通りこの街は聖騎士団が管理していてねぇ。本来ギルドってのはなくてもいいんだべよ。言ってしまえばなぁあ、このギルドは今のお前さん達みたいな新たな問題に対する最終決定権はねぇんだ。
口と態度は悪かったかもしれないけど、あいつの判断からするに聖騎士団にこの件を任せたくなかったんだと思うんだべよ。あいつは聖騎士団嫌っているのもあるかもだがなぁ…。
なにより、内心は久々のお客人で嬉しかったんだと思うべ。それをわかってくれるとワシも嬉しいべよ。」
「そうだったんですね…ありがとうございます。」
ばあさんなりに庇ってくれたってことか。
なんやかんやで、優しい人なのかなぁ…?
「それで、結局私達はどうすればいいの…?」
「どうしましょうか…。とりあえずここにいては邪魔になりそうなので2階の宿舎に移動しましょうか。」
と言ったはいいけど、2階の宿舎ってどうやって移動するんだろうか。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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