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アリスの記憶  作者: ariya
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8 ハートの王子様の絵本

 セラの部屋にやってきたレイモンド深くため息をついた。

 マリオンは少し苛立った様子でセラを見下ろしていた。


 セラが藁のベッドですやすやと寝ているのはいつものことである。

 今日はもう一人、お客さんがいるはずだった。


 マリオンが連れ去ったアリスという少女が。


 白の魔女はアリスの為にわざわざ部屋を用意する気はなかった為、仕方なく眠っているアリスをセラの部屋に放り込んでおいたのだ。


 そのアリスがいない。逃げたのだ。


「何で、鍵をそんなわかりやすい箪笥の中に入れるのかな」


 マリオンは舌打ちして呟いた。


「一応藁で隠しているが」

「アリスが逃げたなら意味ないだろう。おい、起きろ」


 マリオンはセラを蹴飛ばして起こす。


「ひどいな。アリスの方がもっと優しく起してくれたよ」

「そのアリスはどこにいった?」

「?」


 セラはきょろきょろと部屋の中を見る。

 そこにはアリスはいない。

 セラはごそごそと藁の中を探って箪笥が開かれているのに気づいた。


「?………鍵がない」\


 確かこの辺に部屋の鍵を隠していたはずなのに。


「ばかやろ。もっとわかりにくい場所に何で隠さない」

「だってこの部屋には藁と箪笥しかないもん」


 セラは自分の頭をぺしぺし叩くマリオンをうらみがましく睨みながら言う。


「っち、折角良い余興を考えたのによ」


 そう言い、マリオンは懐からネックレスと指輪を取り出した。


「余興?」


 セラは首を傾げる。


「ああ、そうさ。ハートの女王がすごく悔しがる様を見れる余興さ。アマリア様も大絶賛!」

「それは面白そうだね」


 セラはにこにこと笑った。

 教えてと言わんばかりの表情にマリオンはどうしようかなと言う。

 無邪気な少女の容貌とは思えない腹黒い笑みを浮かべる。


 このセラもハートの国に良い感情を抱かない者だった。

 故にハートの女王が嫌な目に遭うのは大賛成である。


「全く」


 その様子を見ていたレイモンドは何が楽しいんだかとため息をついた。


「おいおい、お前だって見てみたいだろ」


 何一人だけいい子ぶっているとマリオンが言う。

 レイモンドは興味ないとだけ言った。


「無駄だよ。レイモンドはお茶以外に楽しみを見出せない可哀想な子だもん」


 セラの言葉にじろりとレイモンドは睨みつける。

 セラはしばらく沈黙してばたっと藁の上に倒れこんで眠った。

 本当に都合よく訪れる眠気である。


「おら、アリスを逃がした分手伝え」


 マリオンはげしげしとセラを蹴起こそうとする。


「もう、わかったてば。レディーをそんな蹴らないでよ」


 セラはぷくっと頬を膨らませてようやく藁から出てきた。


 ◇◆◇


 アリスたちは部屋の中を探し回った。

 家具、絵画、本棚と情報になりそうなものを探し歩くがなかなか見つからない。

 別の部屋を訪れると今度は子供部屋っぽい部屋であった。

 本棚には絵本がたくさん並べられている。


「絵本がいっぱい並んでいるわね。この城の人は絵本が好きなのかしら」

「絵本、か。そういえばアマリアは絵本が好きだった。魔法も絵本を題材にしたりそれを仕掛けにしたものもあったような」

「何かの手がかりになるかもしれないわね」


 一通りタイトルを確認してみるがめぼしいものが見当たらない。中をひとつひとつ確認するにも時間がかかりそうだ。

 ふと気になったタイトルを開いてみると一部破り取られたり汚された部分が目立つ。


「えーと」


 とりあえず読める部分だけ読んでみよう。

 本の内容はこうであった。


 ―――優しい王と美しい妃の間に王子が生まれた。


 王子はすくすくと育ち、勉強も武芸も魔術もたいそおう優秀な成績を残した。ちょっと我儘な面があるがそれは子供らしく可愛いものと城の者たちは微笑ましく思った。


 誰もが王子が王になる日を楽しみにする程に。


 優しい王に美しい妃に将来有望な王子………この国は安泰だと誰もが確信した。

 城の中はいつも幸せで満ち溢れていた。


 しかし、幸せは長く続かなかった。

 王は崩御し、王子はそれ以降塞ぎこんでしまった。ようやく部屋を出て来たと思えば自分は大人になりたくないと言い自ら成長止めの魔術をかけてしまう。


 それは城中の魔術師が解除しようとも難しいもの。


 大人になることを拒んだ王子に大臣たちはどうしたものかと頭をかかえた。そこへ現れたのは美しい妃。


 彼女は王子は父の死に立ち直れていないのだと解釈した。そして王子が立ち直るまでに時間が必要とも。

 その間美しい妃が女王となり、代わりに国を治めればいいと提案した。


 大臣たちはそれに首を縦に振り頷いた。それが一番良いと判断した為だ。そして王の証である杖を妃に、いや、女王に渡した。


 その日から悪夢がはじまったのだ。


 優しい王が愛した美しく気高い妃は女王としての実権を握った途端豹変してしまったのだ。姿は美しくとも心の醜い非道な女性へと。


 彼女は毎日高い税を民に強制し、納めることができなかった者を次々と処刑していった。兵役を出したかと思えば他国へと進行を命じ、戦争をしかけた。


 馬車で街を闊歩しては美しい娘を見て嫉妬し、彼女を裁判にかけた。ありもしない罪を着せて。


 さすがに非道すぎるこの行いに大臣たちは女王を諌めた。しかし、女王を諌めていない大臣たちはすでに女王の虜になってしまっていた。

 女王を怒らせた罪として諌めた大臣は次々と処刑されていった。


 あとからわかったことだが、女王は魔女だったのだ。赤い衣を纏った恐ろしい魔女。


 部屋に閉じこもり大人になることを拒んだ王子は実は女王によって暗示をかけられていたのだ。大人になるのを嫌がるように。


 この王子にかけられた暗示をとくべく城の魔術師がなんとか試みようと思ったが恐ろしい魔女の暗示を解くことは不可能である。

 人々は絶望した。


 そんな日々が過ぎていく中城に突然現れた少女がいる。この少女がこの悪夢を終わらせることになろうと誰が予想できたであろうか。


 その少女はアマリア―――


 そこでインクで大量に汚されて先がうまく読めなかった。


「次の文章から全く読めないわね」


 アベルはじっと絵本の内容を見つめた。そして表紙を見る。


「これだ」


 よく見つけたとアベルはアリスを褒めた。

 本には『ハートの王子様』と描かれていて、著者の名前にはアマリアと書かれていた。


「これはアマリアが呪いの為に作った本だ」

「それじゃあ、あなたの呪いが解けるの?」

「わからない。城に戻って調べてみないことには」


 とにかく目標はひとつ達成できたとアベルは笑った。


「アリスがいなかったら見つけることはできなかったよ」


 ありがとうとお礼を言う女王にアリスは少しときめいてしまった。

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