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アリスの記憶  作者: ariya
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6 ハートの女王の事情を聞きました

 ようやく消えたと思った頃にアリスはようやく解放された。


「もうっ、何なのよ! あなた………」


 アリスはきっと自分を押さえつけていた存在を睨み、一瞬怯んだ。


「なんであなたがここにいるのよ!」


 すぐに毅然と質問するアリスの目の前にいたのは赤いドレスを纏った女性・ハートの女王がたっていた。

 ささっとアリスは後ずさる。

 それを止める為に女王はアリスの手を握った。


「アリス、何もされていないか?」

「されたわよ。あなたも見たでしょう。キスを」


 思い出しただけで腹が立つ。マリオンというわけのわからない男にファーストキスを奪われたのだった。


 できることならばあの場で一発ぶん殴ってやりたかった。

 しかし、突然の猛烈な眠気に勝てずアリスはあのまま眠ってしまったのだった。


「そうだったな」


 女王としては捕らえられた後に何もなかったか聞きたかったのだが、それ以上の大事なことは起きていないようだと確認できた。

 女王はアリスの両頬をとらえる。


「え、何?」


 美しい碧色の瞳が近づきアリスはどきりとする。

 アリスと違い気品を備えた美しい女王の顔に何故かときめいてしまう。

 同じ女性だとわかっていても。


「んっ」


 気づけばアリスはまた唇を塞がれていた。

 先ほどマリオンにされたキスを目の前の女王にされてしまったのだ。


 え?何で。だって私たち女同士………え?


 混乱しながらもアリスはばしっと女王をつきはなす。

 女王はあっさりとアリスを放し、放されたアリスはソファーの物影へと隠れた。

 ちょこんと顔を出して女王を睨みつける。


「何をするのっ!」

「何て決まっている。消毒だ」

「それだったらうがいで十分よ。もうっ」


 一度目は突然現れた男に奪われ、二度目は女に奪われるなんて。


 なんて節操のないキス経験なのだ。

 無理やりされたといえアリスは情けなくなる。


「私、お嫁に行けない」


 顔を手で覆いアリスは嘆いた。


「なんだ、だったら僕の元へ来ればいい」

「あなたは女性でしょ!!」


 アリスはびしっと女王に指差した。それに女王は苦々しい顔をする。


「女性、か。確かに今の僕は女だ」

「な、何よ。当たり前のことを言って」


 自分は何か変なことを言ってしまったのだろうか。


「女王陛下の今の姿は白の魔女の呪いの仮の姿なんや!」


 突然現れたけったいな言葉遣いにアリスはあっと叫んだ。


「あ、あんたはあの時のぬいぐるみ!」

「ブラン様や! この無礼娘」


 白うさぎのぬいぐるみ・ブランはきぃっと怒ってみせる。


「何が無礼よ。私をこんな変な世界に連れ込んで、おかげでひどい目に遭ったわ!」

「こ、このブラン様に無礼を働いておきながらよくもいけしゃあしゃあと!!お前など俺と陛下に会うことすら叶わん平民の分際で!!」


 むきぃっとレベルの低い喧嘩が始まりそうになる。


「いい、ブラン。アリスは僕にとって大事な女性だ。多少のことは大目に見ろ」


 女王はブランにそう言い、ブランは怒りを解く。


「ふむ、ならば仕方ありません。しかし嘆かわしいわ……陛下があんなに必死で捜した相手がこんな無礼娘とは」


 ぶつぶつと文句を呟くブランに女王は命じた。


「僕の代わりにアリスに説明してやれ。十分で、アリスが理解できないようだったらぐりぐりの刑だ」


 ブランはぴしっと背筋をただし説明紳士モードに入った。


「よう聞くが良いわ。無礼娘」


 ブランの説明によればこうである。


 目の前にいるハートの女王の名はアベル。

 名前の通り実は男で、先代ハートの女王の一人息子だったとのこと。


 アベルは多少我儘すぎる面があったのだが、王の子として聡明に育った。

 誰もが次代のハートの王として期待した。

 そしてハートの女王はそのハートの王の妻がなるという習わしがあった。


 アベルは言った。

 自分の妻にはアリス以外嫌だと。

 もし駄目ならば自分はハートの王にはならない。


 それを聞いた臣下たちは慌ててアリスを捜すことにした。

 しかし、アリスはなかなか見つからない。


 そうこうしているうちに白の魔女がアベルの元へ現れた。

 白の魔女・アマリアは先代ハートの女王の姪、すなわちアベルにとっては従妹である。


 彼女はアベルにずっと想いをよせており、アベルに何度もアプローチをかけていた。


 アリスのことなんか忘れて自分を見ろと。


 しかし、アベルは首を横に振った。

 自分が好きなのはアリスなのだと。

 好きでもない女性と結婚できない。

 はっきりと振ったアベルにアマリアは怒り出した。


 だったらアリスを見つけてもアリスと結ばれない姿にしてやると。


 そうしてかけた呪いがアベルが女性に、ハートの女王となる呪いだった。

 驚いたアベルはアマリアに元に戻すように命じた。

 しかし、アマリアは頑として聞かず、どうしても戻りたかったら私に求愛して私をハートの女王にするようにというのだ。

 アベルは首を振った。


 それじゃあ、ずっと女王のままでいいじゃない。


 アマリアは呆れて姿を消したのだった。


 こうしてアベルは白の魔女の呪いをかけられ、本来はハートの王であるのだがハートの女王として国を支えなければならなくなったのだ。


「うぅん」


 その説明を聞いたアリスは難色を示す。

 ブランの言いたいことはつまりはハートの女王は実は男で、何故か自分に懸想しているという。


「ということくらいはわかったのだけど」


 突拍子のない話すぎて理解が追い付かなかった。


「どうやらアリスは全く信じていないようだ。ブラン、ぐりぐりの刑だ」

「そ、そんなっ。この小娘が柔軟な適応力がないだけで………」

「アリスのせいだと言いたいのか!」


 ハートの女王はヒールでブランを踏んづけた。

 ぐりぐりと抉られるブランはわたわたともがく。


「ちょ、やめて」


 アリスは物影から飛び出して女王を止める。

 いくらなんでも目の前で喋るぬいぐるみが苦しそうにしてて、それを痛めつける美女の図は見てて面白いものではない。

 アリスは女王にそう言うと女王はすんなりとヒールをどかした。解放されたブランを見ると腹から綿がまた出ていた。


「ああ、もう………折角縫ったのに」


「お前のせいだ。早く直せ!」

「はいはい」


 とはいったものの今のアリスは裁縫道具を持っていない。

 持っていた鞄はどこに置いたのか。

 確か先の茶会の時にテーブルの脇に置いてきてそれっきりだった。


「これだろ」


 ハートの女王はアリスに示す。それはアリスの通学鞄だった。


「アリスのだと思ったから」


 ここに来る前に拾ったのだと言う。

 アリスはにこりと女王に笑いかけた。


「ありがとう」


 それを見て女王は少し照れたように俯く。一瞬、見たことがあるように思えたがそれはないだろう。

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