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アリスの記憶  作者: ariya
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4 女王陛下に出会う


「え?………え??」


 アリスが素っ頓狂な声をあげるが誰も気にせず兵士たちはじろりとレイモンドを見つめた。


「全員動くな」


 一斉に剣をアリスとレイモンドに向ける。


「白の魔女のスパイめ。情報通り、やはりこの森をアジトにしていたのだな!」

「なおれ! 女王陛下のおなりだぞ」


 兵士たちが言うと兵の行列の中道が開かれそこに赤いドレスの女王が毅然と現れた。

 傍らには白ウサギのぬいぐるみが従っている。


「あ」


 白ウサギはアリスをみるや否やぴょんぴょんと跳ねた。


「見つけたぞ、不埒者!! 陛下、あの娘です」


 白ウサギのブランはアリスを指差し女王に言う。

 ハートの女王はじっとアリスを見つめた。紅い唇が動き名を紡ぐ。


「アリス」


 その声にアリスは何とも懐かしい響きに感じられ首を傾げた。


「あれがハートの女王?」


 アリスがレイモンドにそう尋ねようとするとぐいっと腕を掴まれ椅子から立ち上がらされた。


 自分を引っ張るのは誰かと見ると薄茶髪の青年であった。

 レイモンドと同じ年の頃のように感じられる。


「何をするのっ!」


 アリスの質問に薄茶髪の青年は応えず楽し気に笑った。全くアリスを離す気配がない。


「そうか。アリスか。女王が言うんだから間違いないな」


「遅刻だぞ。マリオン。というか女王をここにおびき寄せたのはお前か」


 呆れるレイモンドの声にマリオンと呼ばれる男はにやりと応えた。

 アリスはちらりと自分を押さえつける男を見つけた。

 レイモンドとは対照的な薄茶髪に蒼の瞳の少年だった。


「それよりどうやってこの女を連れ込んだんだ? 調度良い駒になるぜ。なんせ女王陛下が長年捜していた女なんだから」

「え、私?」

「女王をおびき寄せて捕まえてアマリアのとこへ贈る計画だったけど、こいつさえいれば女王はアマリアの元へ来る」


 マリオンの計画はレイモンドは知らなかったようだ。

 レイモンドは勝手なことをするなとあきれ顔であった。

 ハートの女王はじっと険しい表情を浮かべこちらを睨んでいる。

 アリスではなくマリオンを睨んでいると言った方がいい。


「マリオン、アリスを放せ」

「さぁ、どうしようかな?折角良い餌が手に入ったんだから」

「餌? 何を言ってるの。というか放してよ」


 アリスはばたばたと暴れるが自分より年上の男に抑えつけられ逃げることができない。

 うるさいなとマリオンは気だるげにレイモンドのティーポットを手に取りそれを直接口に入れた。

 豪快なお茶の飲み方にレイモンドはあきれ果てる。


 アリスはぐいっと顎を捕えられ、マリオンの方へ顔を向けさせられる。

 随分間近で見るマリオンは美しい顔立ちだなとアリスは思ってしまった。


 それにしては随分近い、ような?


 そう考えているとすぐ眼の前にマリオンの蒼の瞳のみが映る。

 え、と口にしようとしても遅く、アリスの唇はマリオンの唇と重なっていた。


 え、え、え、ええええええええええっ!!


 アリスの周囲にてレイモンド以外目を驚いた表情を浮かべる。

 女王といえばひどい顔だ。

 折角の美しい顔が台無しだが今のアリスにそれを見る余裕もない。


「ちょっと何………す、る………」


 唇を放してもらった瞬間にマリオンを詰ろうとしたアリスは急に意識がふわりと遠のいて身を崩した。

 そのアリスをしっかりとマリオンは抱きとめた。


「マリオン」

「良いだろ、別に。お前はこの茶の中に入れた眠り薬をアリスに飲ませることも考えたんだろう。何故か薬を入れてない方のティーポットのお茶をアリスにあげていたけど」


 レイモンドは無言で黙ったままだった。


「おやおや、女王様。ひどいお顔ですね。母君と同じ美しい顔が台無しですよ?」


 マリオンの声に女王の中でぷちっと切れる音がした。


「ふ、ざけるなぁぁぁぁっ!!」


 ハートの女王は怒りの叫び声を上げ、兵士たちに命じる。


「今すぐマリオンを射殺せ!! ただしアリスを傷つけるな。アリスを傷つけたらお前らくすぐりの刑だ」


 何とも無茶な命令である。それに兵隊たちは困惑する。


「相変わらずの無茶ぶりだね、ハートの女王。まぁ、先代女王に比べれば可愛いもんだけど」


「もっと女王としての自覚を持てば? アベルちゃん」


 マリオンの含みのある笑いにハートの女王はぎろりと睨みつける。


「僕が女王なのはお前らの主の責任だろ! さっさとアリスを返せ!!」

「それはできないよ。俺たちはこれでも白の魔女の騎士だよ。主を裏切る真似なんてとてもとても」


 マリオンはふるふると首を横に振る。


「そうか、とりあえずアリスを返せ。そして今すぐ死ね」

「言ってることが無茶苦茶だよ。お願いは一気に言うモノじゃないでしょ」

「願いじゃない。命令だ」


 いつになく苛立ちを露にする女王にマリオンはにやにやと笑うのみだった。


「さて、どうしようかな」


 マリオンは勿体ぶって考える動作を見せる。


「このままアリスをハートの女王に引き渡すと怒られそうだからやめとくよ」


 んべっと舌をみせるマリオンにふざけるなとハートの女王は叫ぶ。

 その剣幕にブランや兵士たちはびくびくしているが、マリオンは別に気にしない。


 ずっと黙りっぱなしだったレイモンドはテーブルクロスをめくり中から何かを引きずりだす。


 動物―――鼠のような丸い耳をつけた地味な服を着た少女である。


「なんだそんなとこでまた寝てたのか。寝汚い奴だ」


 マリオンは呆れて少女の方へと近づいた。


「おい、セラ。起きろ」


 マリオンは無遠慮に鼠耳の少女を蹴った。


「んー?」


 少女はむにゃむにゃと言いながら目を開ける。

 周囲を見て兵隊に囲まれているのに驚いて耳とスカートからはみ出てる尻尾をピンとさせた。


「ええ? な、なんでハートの国の兵隊に囲まれてるの?」

「とにかく逃げるんだよ。早くしろ」


 マリオンはまたセラを蹴って、セラは蹴らないでよと抗議する。

 セラは首にかけてる鍵の首飾りを翳し、叫ぶ。


「開け、白の門、広がれ白の道!」


 すると


「逃がすな!逃がしたら承知しないぞ」


 さぁっと白い光が鍵から広がっていく。


 ハートの女王は兵隊に命じ、兵隊たちは一斉にマリオンたちに襲いかかる。あ、と思いだしたように女王は叫ぶ。


「ただしアリスを傷つけたら極刑だ」


 それを聞き無茶ぶりな、と内心叫ぶ兵士たちは駈けだした勢いを止められずアリス含めたマリオンたちに襲いかかろうとした


 その接触するか否かの時にマリオンたちは白い光に包まれ消えてしまう。

 それに兵士たちはぶつかりあってその場に積み重なって倒れこんだ。


「のろま!」


 女王は腹を立て兵士たちに暴言を吐く。

 くるりと後ろを向いて考え事をした。


「あの、陛下?」


 ブランはおそるおそるハートの女王に声をかけるが女王はぎろりと睨みつける。


 それにブランはっひと悲鳴をあげ身構えるが、待っても女王が何もしないのにおそるおそる目を開ける。


 女王はすでにブランから離れ、馬車の中に乗ろうとした。手には鞄を持っている。


「待ってくださいよ。陛下ぁ」


 ブランはぴょんぴょんと跳ね、馬車に乗り込む。

 その瞬間、馬車は走り出した。

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