表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アリスの記憶  作者: ariya
19/20

おまけ 赤眼の紳士の帽子

 大人になるのを拒む癇癪持ちの王子の部屋にはおもちゃが散乱していた。

 誰も片付けることもしない。

 その部屋の中で王子の八つ当たりでぼろぼろになったおもちゃたち。

 彼らは毎日自分の境遇を嘆いていた。


 そんな中、紳士の人形は何を考えていたのだろうか。


 紳士はぼんやりと考え事をしていた。

 場所はおもちゃ箱から離れた場所。

 おもちゃ箱に帰ってゆっくりしたいが、それは叶わない。


 紳士は癇癪持ちの王子のおもちゃ箱のおもちゃのひとつ。

 おもちゃは意志を以て動くことができないのだ。


 可能だったとしてもこの足では無理だ。

 紳士はじっと自分のもげた右足を見つめた。


 例の癇癪持ちの王子の暴力を受け、気づけば右足がもげてしまった。


 右足はどこに落ちていただろうか。


 もはや痛みも忘れてしまったのでどうでもよく感じた。

 あの王子が自分の為にわざわざ右足を繋げてくれるはずもない。

 紳士ははぁっとため息をついた。


 紳士の服はぼろぼろでところどころ破けており、埃もついている。

 髪もぼさぼさである。

 身だしなみを大事にする紳士としては許しまじき姿である。


 だがどうすることもできない。


 自分はいつかこの姿のままゴミ箱に捨てられてしまうのだろう。


 せめて、その前にこの服を新調して欲しいものだ。


 無駄な願いを考えてしまう。

 願う余裕がまだあるのに紳士は皮肉気に笑った。


「まぁ、この子、足がもげているわ」


 少女の声が聞こえてくる。


「うぅんと、足はどこにあるのかしら」


 少女はあちこちをあさりながら捜す動作をする。

 紳士は王子以外の人間の声を久々に聞き、興味を持つようになった。


 誰だ?


 目を開くとそこには空色の瞳に金髪の少女がいた。

 少女は紳士を見てにこりと笑った。


「良かった。足はこれであってるようね」


 紳士はふと右足を見る。

 そこにはもげてなくなったはずの右足があった。

 少女が見つけ出してつけてくれたのだろう。


 よく見ると服も綺麗に直されている。

 びりびりに破けた部分も他の同じ布をあてて繕ってくれたようである。


「足と服はまぁこんな感じね。あとは、この髪ずいぶんぼさぼさだわ」


 少女は紳士のぼさぼさ髪をどうしたものかと裁縫箱を探る。

 紳士の髪の代わりになるものがその中にあるはずもないのに。


 少女は裁縫箱の中から黒い厚手の布を見つけ、思いついた表情を浮かべる。


「これをね」


 作業をしている少女・アリスに少年が近づき言う。


「アリス、つまんない。何か物語をしろ」


 少年の声に紳士は身構えた。

 彼は紳士の持ち主の王子なのだ。

 いつも紳士たちおもちゃに八つ当たりして暴力を振るう暴君の声である。


「何言ってるの、アベル。私、さっきあなたにいろいろ話しかけたのにあなたは無視したじゃない」

「無視していない」


 アベルはむくれて言う。そしてアリスの方に擦り寄った。


「全く、気まぐれで猫みたい」

「猫じゃない。僕は王子だ」

「はいはい、物語ね。じゃぁ『人魚姫』でもしましょうか」


 そう言いアリスは作業をしながらアベルに物語を聞かせる。

 紳士もそれに耳を傾けていた。

 久々に穏やかな時間が流れていった。


 物語を語りながら、アリスはようやく何かできあがったようでそれを紳士の頭に被せた。


 紳士は頭にのせられたものにきょとんとする。

 そしてアリスを見るとアリスは微笑んだ。


「これで少しはぼさぼさ髪でも見栄えがするでしょう」


 紳士の頭に被されたもの、それは黒のシルクハットだった。


   ◇◆◇


 アリスによって命を吹き込まれたおもちゃたちは、今では白の魔女のしのべとなっていた。


「ただいまぁ。いやぁ、アマリア様のご機嫌伺いも楽じゃないよ。て、誰もいないのか」


 マリオンは森のアジトに戻ってきょろきょろと周りを見渡した。


「もうすぐお茶の時間だし、すぐに戻ってくるか」


 そう判断したマリオンはふとテーブルの上に置かれているシルクハットに興味を示した。


「これはレイモンドが大事にしている帽子じゃないか。珍しいな、あいつがこれを置いたままにするなんて」


 マリオンはそのシルクハットを手にとって、頭に被る。

 そしてポーズをとってくるくると回って見せた。


「何をやってる」

「て、うぉっ。レイモンド、いつの間に戻っていたんだ」

「もうすぐお茶の時間だからな」


 お茶の時間を何よりも大事にするレイモンドらしい説明である。

 レイモンドは無表情ながらもじっとマリオンを見る。


「あ、これ? 結構似合うだろ?」

「今すぐ返せ」


 レイモンドは静かに言う。


「えー、ちょっとくらいいだろう?」


 じぃっとレイモンドはマリオンを睨んだ。

 マリオンは彼の不機嫌さを察してすぐにシルクハットを返してやった。


「そんなに大事なら置いていくなよ」

「今行っていたところが丁度砂ほこりでひどい場所だったからな。汚したくなかった」


 レイモンドのその言葉にマリオンは苦笑いしながら椅子に座った。

 そして頬杖をつきながらじっとシルクハットを被っている姿を見つめた。


「いいなぁ、レイモンドは。俺もアリスに何か作って欲しかったな」


 ぼやくマリオンを尻目にレイモンドはお茶の準備をする。


「で、アベル女王様はどんな具合? 俺がアマリア様に報告している間に何かあったか」


「別に………相変わらず政治とアリス捜しだ」


 アベルは臣下であるブランを異世界へ派遣してアリスの行方を追っているそうだ。異世界大臣という全く役に立つかわからない地位を与えて、彼には特別な魔法道具を与えていた。異世界とこの世界を行き来する魔法の時計である。


「アマリア様の求愛を無視して二年間ずっとアリス捜しか。そりゃ、アマリア様もいらいらしてくるよな」


 先ほどアマリアの城へ行って来たマリオンは先ほどのことを思い出した。

 アベルの様子を報告する際全くこちらを振り向く気配のないことに内心いらいらしている風だった。


「俺もアリスに会いたいな」


 マリオンの呟きに興味を示してレイモンドは質問する。


「会ってどうする?」

「レイモンドやセラのように何か作ってもらう」


 セラの尻尾についているリボンもアリスが作ってつけたものであった。

 おそらくずっと羨ましく思っていたのだろう。

 だからマリオンはアリスに会ったらまず何を作ってもらおうかと考えている。

 子供っぽい願いだ。

 レイモンドはマリオンの言葉に内心呆れ、紅茶を口にした。


「おやぁ? ではサー・レイモンドはアリスに会ったら何をお願いするのかい?」

「紳士が淑女に物をねだるなんてことはしない」


 レイモンドはティーカップの中身を見つめる。自分の姿がゆらゆら揺れているのを見てそっと目を細めた。


「そうだな、この帽子の礼がまだ言っていなかったな」


 白の魔女の使い魔にされて色々思うところはあるが、こうして自由にお茶を満喫できるようになったのは嬉しい。

 自分に命を吹き込み、帽子をくれたアリスに一言お礼を言いたいと願った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ