12 記憶を取り戻しました
「思い出したわ。アベル!」
アリスは急いでアベルの方へ走った。
アリスの言葉にアマリアは驚く。
「そんな………私がかけた暗示がとけた。しかも、忘れさせてた記憶も取り戻すなんて」
取り残されたマリオンは何もせずアリスの後ろ姿を眺めている。
それにアマリアは怒りをぶつけた。
「何をしているの!!どうして取り押さえないのよ」
それにマリオンはくすりと笑った。
「お言葉ですが、アマリア様。アリスは自力であなたの暗示を解いた」
それが何だというのだとアマリアはマリオンを睨みつける。
「アベルを苦しめる作戦だったけど、アリスがアベルを思い出すきっかけになっちゃった。俺たちの負けだよ。アベルをぎゃふんと言わせる作戦は台無しで癪だけど、やっぱりアリスはすごいしおもしろいや」
「何を! 折角野うさぎから人間の姿にしてやったのにこの恩知らず!!」
アマリアの言葉にマリオンはやれやれと耳を軽く塞いだ。
「アマリア様、契約の内容を覚えていますよね?」
決してありえないだろうとマリオンたちが持ち掛けた内容にアマリアは乗った。自分がかけたアリスの記憶操作が解かれない限り、マリオン、レイモンド、セラはアマリアのしもべである。
「アベル!!」
「アリス!!」
アリスの方へ注意が向いたアベルに隙が生じた。それにレイモンドが杖をつきつけようとする。
「やめて、レイモンド!! あなたのこと嫌いになるし、新しい帽子を作ってあげないわ!」
そう言われるとレイモンドはぴたりと止まった。
アリスの言葉に驚いて、同時に安堵しているようであった。
「セラ、あなたもよ。ブランに謝りなさい。元は同じおもちゃ箱の馴染みでしょ」
アリスはブランのお腹をみて、可哀そうにと呟いた。
「ああ、こんなに腹をひきさいて、また縫わないと、というかこれは新しい生地が必要ね」
アリスの言葉にアベルは確信した。
「お前、記憶が戻ったのか?」
「ええ、丁度ここってあの時の裁判所に似ていたの」
しかもアベルが自分を必死に呼ぶ場面も似ていて思い出すことができた。
「そうか。確かにあの裁判所はここを似せて作った」
アベルは建物内の構造をみて確かに先代の女王の裁判と同じだと改めて感じた。
「アリス?」
セラはじぃっとアリスを見つめた。
「あの森で勝手に帰ってごめんなさいね。お礼もちゃんとできなかったし」
そう言うとセラはぽろぽろと泣きだした。
「な、なに? 私ひどいこと言ったの?」
「ちがう。アリスが私たちを思い出してくれて嬉しいの。あの癇癪坊主のことも思い出しちゃったのは癪だけど」
「誰が癇癪坊主だ」
セラの言葉にアベルはこつんと頭を叩く。
「じゃぁ、癇癪男の娘」
一瞬でアベルの顔は鬼の形相に変わる。
彼、彼女としては未だに女の姿であることを気にしているのだ。
セラの言葉にアベルは殴りかかろうとするがセラは瞬時にアリスの背に隠れる。
「こら、卑怯者!!」
「こら、アベル。こんな小さな子をどなっちゃ可哀想でしょ」
アリスにぺしと軽く頬を叩かれアベルはむくれる。
それにアリスはくすりと笑った。
大人になっても子供っぽいところは変わらずである。
アリスはしょうがないなぁとアベルの頬にキスをした。
お礼のつもりのキスであったが、気づけばアベルの姿が変わっていた。
「アベル?」
先ほどのハートの女王の姿ではなく、自分より少し年上の青年の姿だった。
アベルも自分に起きたことに驚きを隠せないようだ。
まさか、こんなにあっさりと呪いが解けるとは思わなかった。
「童話好きの白の魔女らしい定番の解き方だったようだ」
懐に持っていた例の絵本を取り出して納得した。
あの後、破れた一部を回収できたようである。修復も終えている。
絵本の内容はアベルの過去についてを絵本風にまとめられていた。
途中で事実と異なる風に描かれてていたとアベルは語る。
アリスの登場するところだけ、アリスではなくアマリアの姿で描かれていた。
アベルが女性になった呪いについても描かれていた。
アベルがアマリアを好きになって、アマリアからキスを貰えれば呪いは解けるという流れになっていたという。
アリスが攫われた後、アベルは絵本の内容に魔力を注ぎ込み、描き直させたという。
アマリアが捏造した部分は、アベルが見た通りのことに置き換えた。
そうすることでアリスからのキスを貰えれば呪いは解けるという流れになった。
「まさか、ここで絵本の通りにアリスがキスをしてくれるとは思わなかった」
少し嬉し気にアベルはアリスを抱き寄せる。呪いを解いてくれたことにお礼を言う。
アリスとしては呪いを解くつもりでキスを贈った訳ではないので少し複雑であった。
「あーあ、結局馬鹿女王の望みのままになっちゃったな」
残念そうにマリオンはアリスたちの元へと近づいた。
「というか、アリスって何かの魔女なのかな。俺らの命を吹き込むわ、アベルの呪いを二回も解いちゃうし」
一回目は先代ハートの女王の暗示を解いた。
二回目は白の魔女がアベルにかけた呪いを解く手助けをした。
マリオンはじっとアリスの方を興味深げに見つめた。
そんなことを言われてもアリスは知らないと呟いた。
「マリオン、アマリア様は?」
レイモンドの問いにマリオンは肩を揺らした。
「拗ねてどっか行っちゃったよ。アリスに負けたのはよっぽど悔しかったんじゃないかな。おまけに手塩にかけて育てた従者が三人いなくなっちゃうんだし」
「え?どういうこと?」
「アリスが以前この世界にやってきたことを思い出したでしょ。あの後アマリア様に捕まった俺たちは白の魔女の従者として教育を受けた。そして契約を交わした。でも、俺たちは契約に条件を出したんだ。もし、アリスが俺たちのことを思い出せたら忠誠の契約は無効となるって」
横からセラが続きの経緯を説明する。
「アマリア様は面白がって条件を呑んだよ。自分がアリスにかけた暗示がとけるわけがないってたかを括っていたんだ」
こくりとマリオンは今の状況に繋げた。
「そしてアリスは思い出した。俺たちのことを………おかげで俺たちはいまや自由の身、おまけに人間の体まで手に入れたままさ」
「そ、そうなの………でも、ブランはどうして私のこと忘れていたのかしら」
「以前アリスが元の世界戻る際にアマリア様がアリスに暗示をかけた時、一番そばにいたからその影響を受けたんだろう」
アリスの疑問にレイモンドが答えてくれた。ちらりとブランをみて続けていった。
「おもちゃの中で一番影響受けやすい体質だからな、単純ともいう」
「単純だと無礼な!!」
ブランはむきーっと怒った。だが、すぐにこほんと咳払いしてにこやかにわらう。
「しかし、まぁ………おめでたいわ。陛下が念願のアリスと結ばれるとは」
その言葉にセラはむすっと頬を膨らませた。
「なんか納得いかないけど、一応祝福するわ。でもアリスだけにだからね」
マリオンはにやにやと笑い、アリスに声をかける。
先ほどまでアリスと結婚しようとしていたのが嘘のようである。
「まぁ、これからは俺はあんたにつくよ。新しいハートの女王」
何だかアリスがこのままアベルと結ばれるような話に進んでいるようで慌てだす。
「ちょ………ちょっと待って。何でそういう話になるのよ」
「アリス。白の聖堂でキスは、愛の証明なの。こんなたくさんの人の前でアベルにキスをしたというのはそういうこと」
そんなしきたりは聞いたことがない。異世界の人間だから、今のはなしにならないだろうか。そんな期待はむなしくならないと周りの人間たちは口にした。
彼らとしてはハートの女王、もといハートの王様の妃になる少女が先代よりましであれば何でもいいやと歓迎ムードに入っていた。
「ちょ、ちょっとぉぉぉぉぉっ!!」




