11 白い魔女のたくらみ
アリスを連れ出し、森の中に逃げ込んだおもちゃたちはようやく足を止めて一息ついた。
「ふぅ………ここまでくれば安心だな」
野うさぎのぬいぐるみはやれやれとため息をついた。
「あ、あの………ありがとう」
ずっと混乱状態だったアリスはとりあえずこのおもちゃたちに助けられたのだと考えが至りお礼を言う。
それに野うさぎのぬいぐるみはけけと笑って言う。
「いいってことよ! それに礼を言うのはこっちだしな」
「え?」
ぬいぐるみたちにお礼を言われる覚えはなかった。
「あのね、さっきアベル王子の部屋で壊れたおもちゃがあったでしょう。あれ、私たち」
山鼠のぬいぐるみの説明にアリスは目をぱちくりさせる。
裁判所に連れて行かれる前にアリスがいたのはアベルの部屋。
そこにはたくさんの壊れたぬいぐるみ、人形が散乱していた。
アリスは仕方なくそれをひとつひとつ拾い裁縫道具で出来る限りの修理をしたのだ。
つまり彼らはそのアリスが修理したおもちゃということになる。
「え、えええええええ」
「ほんまありがとな。おかげで助かった」
「それにしてもすごいね。命のなかった私たちに命を吹き込むなんて………長い眠りも一発で覚めちゃうよ」
ぬいぐるみたちが明るい声で話している。その中に異質な声が紛れ込んだ。
「本当に興味深いわ」
突然森の中から現れた少女にアリスは身構える。
白い少女、アマリアである。
「そんな怯えなくてもいいよ。私はアマリア。人は私を白の魔女と呼ぶ」
「アマリア?」
名前を呼ばれてアマリアはにこりと笑った。
「あなたには感謝するわ。アベルにかけられた暗示を解いてくれて。あれは赤の魔女の暗示で白の魔女の私でも解くのは一苦労だったの。その上壊れたおもちゃを直すことでおもちゃに命を吹き込むなんてどんな魔法を」
アマリアはじっとアリスを見つめる。
「あなた………アベルに」
「え?」
困惑するアリスにアマリアはにこりとほほ笑む。
「なんでもないわ。そうね、あなたを元の世界へ戻してあげるわ」
「本当!」
突然の提案にアリスは身を乗り出した。
この世界に迷い込んで、彼女はずっと元の世界に戻ることに必死だった。
「ええ、ちょっと苦労するけど、おもしろいものを見せてくれたお礼よ」
「お願いしてもいいかしら」
アリスの足にぎゅっと白いうさぎのぬいぐるみが抱き着く。
「駄目や! アリス!! この白の魔女は赤の魔女同様とんでもないやっちゃ」
「あら、ひどい。白うさぎさん。私はアリスを助けてあげたくて言ってるのよ」
「アリス!! 逃げるで!!」
そう言い白うさぎのぬいぐるみはアリスの手をとり逃げ出した。
「あらあらひどいわね」
アマリアはくすくす笑ってアリスを追いかけようとするが、残された三つのおもちゃたちがそれを阻む。
「アリスは俺たちの恩人だ!! お前の好きにはさせないぞ」
そう言い、アマリアに襲いかかった。
アマリアが楽しげに笑って呪文を唱える。
瞬時に三つのおもちゃたちは白い檻の中に捕まってしまった。
「失礼な子たちね。あとでちゃんと躾けてあげるわ………あ、あとあれをこうすれば」
アマリアは面白いことを思いついてはくすくす笑った。
「さて、白うさぎさんを回収してアリスの記憶を消してこの世界から追い出しちゃいましょう」
アマリアは白い光で自らを包み込みぶつぶつという。
「人形に命を吹き込むアリスのあの能力は非常に興味深いわ。あの力にあてられてアベルも赤の魔女の暗示を解くことができた」
自分にはできなかった赤の魔女の魔法を解いたことをおおいに喜ぶべきだろう。
「でも………アベルはあの小娘に懸想しているわ。邪魔なのよ………」
アマリアは強くアリスの逃げる姿を睨みつけた。その表情は嫉妬に歪んでいた。
「あの女もな、赤の魔女………さっき裁判所でお前を処刑しようとした女王と同じ穴の狢なんや。確か、女王の姪にあたるはずや………あいつはな人の心を弄んだり、自分の都合のいいように事が進まないと嫌がるショウもない女なんや」
「ひどい、言い方ね」
目の前に光の粒が集まり扉が開かれたと思えば中からアマリアが現れた。
「ぎゃー」
アマリアは指をくねらせると白いうさぎはくるんとひっくり返り地べたにたたきつけられた。
アマリアは呪文を唱え先と同じように白うさぎのぬいぐるみを白の檻の中へ閉じ込めてしまった。
「ちょっと大人しくしててね。その悪いお口もきちんと直してあげるから」
白うさぎのぬいぐるみを捕獲しおえたアマリアは満足げに笑い、くるりとアリスの方へ向く。アリスはびくりと身を震わせた。
「そんなに怯えなくてもいいわ。あなたをお家へ返してあげるから」
「………あ」
「さぁ私の目を見てアリス。あなたは今からお家に帰るの。でも、ここであったのは全部忘れるのよ。全部夢だったの」
アマリアの瞳を見てアリスはぼんやりと意識が遠くなるのを感じた。
「全部、夢」
「そうよ。怖い恐ろしい夢だったの。怖い夢は忘れるのが一番だわ」
アマリアの言葉にアリスはこくりと頷く。それにアマリアは満足してアリスの頭を撫でる。
「良い子良い子………さぁ、お家へお帰り」
アマリアがそう言うとアリスは光に包まれ消えてしまった。




