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アリスの記憶  作者: ariya
13/20

11 赤い魔女にかけられた裁判

 アリスは記憶の片隅にしまい続けたものを開いた。

 それは昔の記憶、アベルに必死に呼ばれる中、兵士たちに裁判所へ連れていかれた後のことだ。


 そこは白の聖堂と似た建物だった。

 中央の神の前を誓い合う場所と、裁判官を前に弁護する席と違いがあるが、天井と柱の構造、壁、椅子の作りは同じであった。


 周囲には多くの人々がアリスを憐れんでいる。

 アリスの目の前にはアベルに似た美しい女性が鬼の形相で怒っていた。


 彼女がこの国でもっとも恐れられている女王、ハートの女王である。


「もう一度言うわ。私に跪きなさい。そして許しを請い、一生私の奴隷となることを誓うのです。そうすれば許してあげなくもないわ」


「お断りだわ!!」


 幼いアリスははっきりと否定した。

 そしてハートの女王が誰なのか理解した。

 先ほどアリスと一緒にいた少年の母親だ。


「あなたを見てよくわかったわ。アベルが部屋に閉じこもる理由が。あなたのような母親だとアベルは外へ出るのを怖がっちゃうわ。だいたい何? 私の罪状はあなたとアベルの暗殺?? 笑わせちゃうわ。本当に私が暗殺者だったらあなたは私に詰り寄るよりも先にアベルの方へ行くはずよ。アベルの安否を確かめアベルを抱きしめないのはどうして? あなたは女王以前に母親として最低だわ」


「黙って聞いていれば言いたいことを………誰か、この娘を断頭台に連れて行きなさい」


 アベルに似た女性は兵士の腰から剣を取り出す。


「この生意気な小娘はこの女王自ら裁いてやるわ」


 断頭台に固定されたアリスは目の前にきらめく剣にぞっとした。

 それに女性はにやりと笑う。


「泣いて請う?もう遅いわ。あなたをここで殺す。さあ、聞かせてちょうだい。惨めに泣き叫ぶ姿を」


 そこに慌てて兵士がアベルに似た女性に走り寄ってくる。

 彼女を女王と呼び、火急の報せを届けにきたのだ。


「大変です!!女王陛下」


 とても良いところだったのにとハートの女王は忌々し気に兵士を睨んだ。

 つまらない内容であったらこいつの首も斬ってしまおう。


「なんだ?」


「この裁判所は軍に取り囲まれています」


 それを聞き、ハートの女王はどういうことだと質問した。


「アベル王子が………やってきたのです!!」


 話によれば部屋にずっと閉じこもっていたアベルが外へ出て軍に働きかけ悪女である女王討伐を命じたと言う。

 軍を率いるのはアベル自身。


「アベル、あんなに幼いのに………」


 それを聞いたアリスはアベルの勇ましい話に耳を疑った。

 しかし、アベルはここへ向っているのだ。


「ええぃっ!! 今まで暗示で、大人になるのも外に出るのも拒んでいた分際で。この母に刃向うなど!!」


 何故アベルはこんなに性急に女王討伐を命じたのか。

 急いで女王を包囲する必要がどこにあったのか。

 女王はちらりと断頭台のアリスを見つめた。

 そしてにやりと笑った。それにアリスはびくりと身を震わす。


「そうか、この娘か。この娘を助ける為に外へ出て来たのか、アベルよ!!」


 女王はアリスを断頭台から離し、兵士二人に逃がさないように命じた。


「ちょっと離して!!」


「逃がすんじゃないよ。大事な人質なんだ。この娘がいればアベルは何もできない」

「静粛に、判決をくだす」


 突然今までずっと黙っていた裁判長が口を開いた。

 それに女王は唖然として、すぐにははと笑う。


「突然何を言い出すと思えば。判決はもう下ってる。この娘の有罪、ただちに処刑だが今は特別措置で永らえているにすぎない」

「少女アリスは無罪。ただちに釈放せよ!」


 裁判長の言葉に女王は驚く。

 そして今まで黙っていた傍聴席の民衆が立ちあがった。


「そうだ。無実の娘をありもしない罪で処刑なんて馬鹿げてる」

「早くその勇気のある子を放しなさい!!」


 今まで女王の絶対政治に口出しできなかった裁判官たちと傍聴席の者たちが一斉に女王を詰りだした。


 それに女王は頭に血を上らせかんかんに怒ってしまう。

 もうアベルの交渉など考えていない。早くこの不愉快な者たちを一掃してしまいたかった。


「ええぃっ。仕方ない。アリスはここで殺して、お前たちも血祭りにあげてやろう」


 そう言い、女王は兵士に命じ、アリスの首を前に出させる。

 それに周りが止めようとするが多くの兵士たちに取り押さえられてしまった。


「アリス!! アリス!!」


 ようやく外の兵士を取り押さえ、裁判所の扉までやってきたアベルは固く閉ざされている扉を叩いた。

 うんともすんとも言えない扉に苛立ちを覚え、アベルはただちに壊すように命じる。


「アベル様、お早く!!」


 アリスが殺されそうな状況を傍聴席の男が必死で外に訴えかける。


「アベル! ………あぅっ」


 女王に髪を引っ張られアリスは呻く。それに女王は楽しげに笑った。


「馬鹿なアベル。その扉を開ければあるのは少女の首と体が離れたところだというのに」


 その時の絶望したアベルの様子を考え女王はくすくすと笑った。

 アリスを守れず目の前でアリスが殺されるのを見たアベルはおそらく立ち直れなくなるだろう。

 その時に暗示をかけ、永遠に地下牢に閉じ込めてしまおうと女王は考えていた。

 実の息子であるというのに、女王にとって息子はただの邪魔者にすぎなかった。


 重い音とともに扉が開かれた。


「アベル!!」


「アリス!!」


 ようやく開いた扉から現れたアベルにアリスは叫ぶ。

 アベルもそれに呼応した。

 先会った十歳程の幼いアベルの姿とは違う青年の姿がそこにあった。

 自分より小さいのに今は自分よりも年上の青年である。

 だが、アリスはそれがアベルだと確信した。


 その瞬間女王は剣を振り下ろした。ちょうどアリスの首に。

 剣は振り下ろされた。血がぼとぼとと零れ、その音にアベルは絶望した。

 しかし、そこにはアリスの姿はない。


「え?」


 女王は自分の手を見つめた。その瞳は今までにないほどの驚きで満ちていた。


 剣を持っていた手がぼとりと落ちて、切り離された腕からぼとぼと血が流れているのだ。


「ぎゃああああああああああああ!!」


 女王は自分の身に起きたことに絶叫した。それに嘲笑う声が響いた。


「はははは!」


 野うさぎのぬいぐるみが楽しげに笑っている。

 彼の手には斧を持っており、それに赤い血がついている。

 傍にいた山鼠のぬいぐるみもくすくすと笑う。

 彼女の頭には女の白い手が帽子のように被せられていた。


「セラ、それは汚い」


 笑ってない紳士の人形はぺしっと山鼠の頭に被っている手の平を叩いて振り落とした。ころんと白い手は床に転がる。それは女王の手にあったものだ。


「いつも首を切り落とすハートの女王の手が切り落とされちゃった」


 野うさぎのぬいぐるみは愉快に笑い続ける。


「あはははは!眠りも覚めちゃうよ!!」


 山鼠のぬいぐるみも楽しそうだ。


「なんや、とっても痛そうや」


 白うさぎのぬいぐるみは少し悲し気にその様子を眺めていた。

 四つのおもちゃの傍でアリスが茫然と自分に起きたこと、女王に起きたことを眺めていた。


「アリス!!」


 アベルが叫ぶがアリスは自分の身に何が起きたかまだ理解できていない。


「お前ら何者だ!! アベルの手下か」


 それを聞いたおもちゃたちは不服そうに唸った。


「はぁ? なんで俺たちがその癇癪坊主の手下なのよ」

「まぁ、そいつの部屋出身だけどな」


 にやにやと笑うぬいぐるみたちの言葉にアベルは彼らが何者かすぐに気づいた。


「お前たち、まさか………、そんな。おもちゃに命が宿る魔法なんてありえない」


 アベルはもしかするととアリスをみる。ぬいぐるみを修理したのはアリスである。アリスの手によってぬいぐるみたちは動くようになったのか。


「ええぃ、何をごちゃごちゃと。その私に刃向った小娘をこちらに渡せ!!」


 女王は忌々し気に叫んだ。


「やだね」


 野うさぎのぬいぐるみはあっかんべぇという仕草を見せる。

 山鼠のぬいぐるみもそれに合わせてみせた。


「俺たちはここでお暇します。じゃ、あとは勝手に母子喧嘩を続けてちょうだい」


 そう言い、おもちゃたちはアリスの手を引き裁判所から消えてしまった。


「ちょっと待て!!」


 アベルが追おうとしたのだが、臣下たちにここは女王との決着をつけるのが先と諌められた。


「アリス」


 アリスを連れたおもちゃたちの消えた先を見つめながらアベルはアリスの名を呼んだ。

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