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アリスの記憶  作者: ariya
11/20

9 魔女に暗示をかけられました

 残されたアベルの元へとことことブランがやってくる。

 いつもの調子良い彼とはかけ離れしょぼんと落ち込んでいた。


「うぅ………陛下、申し訳ありませぬ。陛下のお役に立つことができず」


 ぺたと尻もちをつき、零れ落ちる綿を押さえつけていた。

 先ほどマリオンに言われた役立たずという言葉をかなり気にしているようである。それにアベルは首を振る。


「お前に戦闘という面は期待していない」


 しょんぼりと落ち込むブランの腹を見つめる。

 セラに齧られた痕は大きくそこから綿がぽろぽろ落ちようとしている。


 アベルは床に落ちてるアリスの学生鞄を拾い中から裁縫道具を取り出した。

 そしてブランに手招きするがブランは首を傾げた。


「来い。僕でよければ直してやる。だが、アリス以上にひどい出来になってもいいならな」

「へ、陛下自ら……っ」

「嫌ならいい」


 アベルはつんと拗ねたようにそっぽ向き、ブランは涙ながら感動してアベルに修理を願い出た。


「いて………あわわ、陛下がこんなに上手とは、全く全然痛くありませぬ」


 いざ針を通されてみたらアリスに縫われた以上の痛みである。

 それにブランは耐える。


「痛いんだろ。別にいい。アリスより下手なのは自覚しているから」

「しかし、陛下がこのように裁縫ができるとは思いもよりませんでした」

「昔、アリスの真似をしたくて何度か挑戦してみたんだ。アリス程うまくなれなかったけど」


 アベルは目を細め昔のことを思い出した。


「アリスはすごかったよ。僕が壊したぬいぐるみ・人形を直して、余った布を見つけてはシルクハットや小物を作っていったよ」


 まるで魔法のようだった。


 アリスが縫うと、縫われたぬいぐるみ・人形たちは以前の生き生きとした表情を取り戻していったのだ。

 アベルはその様子に深く魅入られた。


「アリスに出会うまで僕は外の世界が怖かった。大人になるのも怖かった。だけど、アリスを見て………アリスと同じものが見たいと思った」


 だからアベルはこの通り王となれたのだ。今は女王の姿をしているが。


「端から見れば些細なつまらないことだったかもしれない。でも、僕にとってアリスは世界のはじまりのような存在だったんだ」


 だから――――。


「絶対に許せない。アリスをそんな形で奪おうとする奴らは」


 アベルは急いでアリスの元へ向かおうとした。


「そういえば、陛下」


 ブランは先ほどアリスが見つけた絵本について尋ねた。


「あの絵本に登場した少女はアマリアとありました。何だか、王子様の運命の人みたいな描かれ方でしたね」

「そうなれという呪いだろう」


 先ほどの絵本の内容はアベルの過去を絵本のように描いたものだ。だが、内容は途中で捏造に変えられている。

 アベルの目の前に現れた少女はアリスでアマリアではなかった。


「悪趣味なことだ。僕がアリスじゃなくてアマリアを好きになるように」


 幸い自分の魔力は月日が経つごとに強くなってくれたためアマリアにある程度対抗できるようになった。

 魔力が弱ければアマリアの思い描く絵本のように記憶が混濁してしまっただろう。


「そうだ」


 アベルは立ち止まった。今の絵本をもう一度確認してみる。時間はないが、この絵本を魔力で修正してみたらどうなるだろうか。

 少女アマリアが現れた部分から、それがアリスだったと修正させれば何か変わらないか。

 ほんの少し魔力を注ぐが、鐘の音が鳴りだし時間がないとアベルは本の修正を途中であきらめた。


   ◇◆◇


 アベルがまだブランの修復をしている間、誘拐されたアリスはメイドたちに預けられることになった。


「ちょっと離してよ!」


 アリスはメイドたちからようやく解放された。

 見に纏っているのは純白のウェディングドレスである。


 あの後アリスはこの部屋に押し込まれ、メイドたちに服を脱がされメイクアップされたのだった。


「突然私を誘拐したと思えばこんなドレス着せて!」

「あら、お気に召しませんでしたか?」


 扉が開かれると真っ白なドレスを着た少女がにこりと微笑みかけて来た。

 メイドたちは少女に礼を示す。

 少女はゆったりとした口調で外へ出るように命じ、メイドたちはそそくさと出て行った。


「あなたは?」

「はじめまして、アリス。私はアマリア、人は私のことを白の魔女と呼ぶわ」


 それを聞きアリスは身構える。アリスをこの城へ誘拐した張本人なのだから。

 そしてアベルに女になる呪いをかけた少女。


 少女は育ちの良いお嬢様といった風でゆったりとした仕草はとてもアリスに真似のできるものではない。


「まぁ、アリス。とてもかわいらしいわ。本当はそれは私のウェディングドレスのつもりで作らせたの。でも、あなたにあげるわ」

「ウェディングドレスって、こんな豪華な物を貰っても困ります」

「あら遠慮しなくていいのよ。私はもっと良い物を作ってもらうから」


 アマリアは鈴のようにころころと笑う。


「そうじゃないわ。私は結婚する予定ないもの。こんな物貰っても困るだけよ」


 それにアマリアはくすくすと笑ったままだった。


「何を言っているの? 今からあなたの結婚式があるのよ」

「えっ」


 突然告げられた予定にアリスは困った。


「相手はあなたのはじめてのキスの相手、マリオン。ごめんなさいね、彼手癖が悪いから。でも、根はとても良い子なの。ちゃんと責任は取らせるわ」

「マリオン!………ちょっと待って困ります」


 はじめてのキスを奪われたのはショックであるが、アリスは決してそんなことを求めてはいない。


「私はまだ学生、結婚する年齢でもありません。だから」


「大丈夫よ。この世界は十五になれば結婚ができるのだから」

「そうじゃなくて」


 アリスは必死で言う。

 自分は結婚する気などないと。そして今望むのはアリスが元の世界に戻れること。アベルにかけられた呪いを解くこと。


「アベルの呪いは解くわ。あなたがマリオンと結婚したら………元の世界はそれから戻してあげるわ」


 つまり二つの願いはアリスがマリオンと結婚したら叶えるということ。


「どうしてそんなことをするの。勝手よ」

「あなたが邪魔だからよ」


 アマリアははっきりと言う。

 その時一瞬だけ彼女の目に怒りのようなものが感じとられた。


「私はアベルと結婚したいの。でも、彼ってばあなた以外と結婚したくないと言ったの」


「このままあなたを元の世界に戻ってもアベルはあなたを迎えに行くでしょう。でも、アベルとあなたが決して結ばれなくすれば………」


 それは白の聖堂でアリスと他の男が結ばれればということ。


 そうすればアリスはアベルと結ばれない。

 白の聖堂で誓ったことは絶対なのだから。


「そう。でも、私はそのマリオンと結婚したいとは思わない。悪いけど、誓いは交わせないわ」


 結婚というのは両者の同意がなければできないのだ。

 違う場合もあるかもしれない。

 でも、アリスの中では結婚はお互い愛し合い、認め合わなければできないものなのだ。


「そうね。だから、あなたには暗示をかけさせてもらうわ。マリオンと誓いをたてられるように」


「え?」


 その言葉にアリスはぎょっとした。そして後ずさるが、すぐにレイモンドに取り押さえられた。


「ちょ、離してっ」

「大丈夫。全て終われば元の世界へ戻してあげるわ」


 アマリアは首飾りを取り出す。それは暗示に使う道具だとアリスは悟る。


「や、やめて」


 アリスは首を振って拒絶するが、レイモンドに取り押さえられ逃げることもできない。

 アマリアはくすくす笑いながらアリスの首に首飾りをつけた。


 付けられてアリスは体をびくりと震わせる。

 そして何もなかったように茫然とした。

 瞳は虚ろで何も映していない。

 アマリアの言うことにこくりこくりと頷く人形のようであった。


「ふふ、暗示は成功したわ。後は盛大にお祝いをするだけ」


 レイモンドはじっとアリスの姿を見つめた。


「あら、レイモンド。どうしたの? ひょっとして新郎役をやりたかったの」


 アリスがアベル以外と結ばれるのであれば誰でもいい。今からでもマリオンに掛け合いましょうかとアマリアは笑った。


「いえ」


 レイモンドはそんなことは望んでいなかった。

 彼の望みは他にあるが、それは叶わない。

 今はアマリアの命令にのみ従う人形でしかないのだから。

 アリスに望んでもないことをしてしまう己の身を受け入れるしかなかった。

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