8 また誘拐されてしまいました
アリスがなかなかときめきを落ち着かせられない中、アベルはじっとアリスを見つめる。
そしてアリスの目の前に近づき、アリスを両腕で包み込んだ。
「え? な、どうしたの?」
「アリス………ありがとう。一度助けてくれたのに君はまた僕を助けようとしてくれる」
アベルのひとつひとつの声にアリスは心を鼓動させる。
アベルの声は確かに女性のものなのに、少し自分と近い歳の男性の声と重なって聞こえてくる。
アベルの男性の姿など一度も見たこともないのに。頭に、心に響いてくるのだ。
それに脈が速く打つ。
「ちょ、………苦しい」
アリスがそう言うとアベルはごめんと言って放した。
アリスは身じろぎながらもアベルに他の部屋行こうと薦めた。そしてすたすたと早歩きで前を進む。
「アリス、あまり一人で先に行っては」
アベルが最後まで言いかけようとするがその時遅かった。
アリスは目の前に突然現れた黒い影に覆われる。
「きゃっ、な、なに?」
「アリス!!」
「おっと動かないで」
アベルの目の前にマリオンが現れ、アベルの行く先を阻む。
アベルは瞬時で細剣をマリオンに向け、鋭い眼光で睨みつける。
「マリオン!そこをどけ!!」
「命令かい?」
「そうだ」
余程おかしいのかマリオンは笑い出した。
「ここは白の魔女の城だよ。ここではあんたは偉くない。一番偉いのはアマリア様だ」
悪いねとマリオンはアベルの要求を跳ねのけた。
それにぴょんぴょんと跳ねながらブランが怒り出す。
「魔女の従者風情が陛下になんてことを言うんや!!」
そう言うブランに向って、セラが飛び出す。
セラはがじがじとブランの腹にかぶりついた。
「ぎゃー、何をするこの鼠風情!!」
ブランがじたばたするとセラはぱっと離れまずいと呟く。
「っぺっぺ、綿が口の中に………うぅ。とりあえずぬいぐるみ風情は静かにして」
セラは口から綿や糸くずを吐きながらブランに言う。
ブランはセラに齧られ破けた腹から綿がまた飛び出てわたわたと慌てた。
「ぎゃー、また俺の腹が!!」
わたがせいだいに零れ落ちていきブランはふらっと倒れた。
「あはは。滑稽だな、ハートの女王」
「あんなに必死に立て直した国なのに自分についてきているのはあの役立たずのぬいぐるみのみっ………わっと」
嘲笑うマリオンにアベルは細剣で切りかかった。それを間一髪のところでマリオンは交わす。
「危ない危ない」
「ブランは確かに間抜けだ。だが、お前よりは役に立つ」
「そうだねぇ。ずっと大事にしていたんだよね、アリスが自分にくれた唯一自分で選んだ臣下なんだから」
マリオンはくすくす笑った。しかし、目は据わってて全く笑ってない。
「でもさ、都合良いよね。あんなに癇癪起こしては八つ当たりの対象にしていたくせに」
「黙れ!」
「でも、本当に良かったよ。ブランの無様な姿を見て、自分はお前に仕えずに白の魔女に仕えて正解だったと思っている」
「あんなただのヘタれた役立たずのまま女王様の我儘を聞くなんて溜まったもんじゃない」
まるで自分もアベルに仕えるはずだったような言いぶりである。
それにアリスは首を傾げた。
「さっきから何の話をしているの。というより放してちょうだい。レイモンド」
アリスを捕えていた黒い影は紳士服を纏ったレイモンドだった。
「それはできない。俺は白の魔女の従者でお前の従者じゃないんだ。お前が思いだせれば話は別なんだがな」
「? どういうこと?」
「わからないのならそれでいい。お前をハートの女王から離すのが今の俺の任務だからな」
金属の重なる音がする。マリオンは近くにあった飾られているナイフを取りアベルの細剣を交わしていった。
「ごちゃごちゃと、どうでも良いから早くアリスを放せ!!」
アベルの攻撃をかわしながらマリオンは彼を翻弄していく。その間にレイモンドはアリスを連れ、影の中へと消えていった。
「くそっ…………アリスをどこへやった!!」
苛立ったアベルは残ったマリオンを睨みつけた。マリオンはそんなアベルの様子を見て楽しげに笑っている。
「そういきりたちなさんな。アリスは大事な主役なんだ。別に怪我をさせたりとかそんなのは絶対しないよ」
「アリスはどこだ」
「白の聖堂だよ。場所はわかっているよね」
マリオンはぴっと白い封筒をアベルに投げつける。
マリオンに言われた場所を確認して、アベルは嫌な顔をした。
「白の聖堂だと」
「白には色んな意味が含まれているのを知っているよね。善事の白・無実の白、吉事の白とか。白の聖堂は吉事の白を象徴したもの。つまり結婚式の場としてこれ以上にない場所だ」
マリオンは嬉しそうに懐から手紙を差し出した。
「ハートの女王を御招待するよ。白の魔女主催のアリスの結婚式だ」
「ふざけたこと………」
白の聖堂と聞いてから予想したいたとはいえ、本当にそれをするとはとアベルは呆れた。しかし、ここは慌てなければならない。
マリオンの言う通り白の聖堂は男女の契りを交わす場。
そこで交わした約束事は絶対なのだ。
二人は何があろうとずっと結ばれたままである。
新婦はアリス、では新郎は誰か。
「じゃじゃーん。新郎はこのマリオンでーす」
マリオンは明るく言う。それにアベルはぶちっと切れた。
冗談にしては笑えない。
「ふざけるな!」
「ふざけてなんかいないよ」
唇を尖らせマリオンは不満そうに切り返す。
「お前はアリスを愛してなんかいないだろ!そんな男にアリスを渡せるか!!」
「まるでアリスを待っていたのは、想い続けているのは自分だけという感じだね」
アベルの怒りにマリオンは呆れたと肩を揺らした。
「俺もアリスがこの世界に戻ってくるのをずっと待っていたよ」
「それは僕を苦しめる為の手段として利用しようとしていたんだろ」
アベルのその言葉にマリオンとセラはくすくすと笑った。
「うーん、確かに半分はそのつもりだったけど」
「もうひとつはお前にアリスを渡したくもなかったのもある」
マリオンは首を傾げて、すっと襟を広げた。
そこにみえるのは引き裂かれたような傷の痕、それを縫い合わせ傷を塞いだ痕であった。
その傷をみてアベルは口を閉ざした。
「おっと、ここでお喋りをしている暇はなかった。俺も新郎として準備しないとね。じゃぁね、女王陛下。お祝いの品は別にいいよ。君が苦しむ様を見れるだけで十分さ」
セラに頼み移動の魔法で姿を消す。
マリオンは手をひらひらさせ、セラと共に消えた。




