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第10話 ありがとう

 その日の帰り道、夕姫(ゆうき)はまだ耳を気にしていた。少しだけじんじん痛むのと、耳たぶの異物感にまだ慣れなかった。ずっとつけっぱなしでいいのかな、とか、お風呂入るときはどうしたらいいんだろう、とか、そんなことを考えていると、


「大丈夫か?」


 と、夕姫が耳を気にする素振りを見かねてか、隣を歩く奏雅(そうが)が話しかけてきた。


「うん……。意外と」

「服とか引っ掛けないように気をつけて。あとあんまり触るなよ」

「うん……」


 答えながら、夕姫は、まだ奏雅にしっかりお礼を言えていないことを申し訳なく思っていた。


(……キモがられるかな、って思ったけど、私の無理なお願いを、嫌な顔ひとつせず聞いてくれて……。そのあとも、親切に、気づかってくれて……。私なんかのために……。だから、ちゃんと言わないと……。ありがとう、って……。でも……。)


 喉から出かかってはいたが、気恥ずかしくて、どうしても言い出すことができなかった。それでもなんとか伝えようと、


「………あ、あの」


 勇気を出して言い出そうとしたそのとき、


「ああそうだ。これやるよ」


 奏雅はそう言って鞄から小さな箱のようなものを取り出して夕姫に差し出した。薄いピンク色の、大きめのボタンのついた小物入れであった。夕姫はそれを受け取りながら、奏雅のイメージとかけ離れたその可愛らしい小物入れに、少し可笑しさを感じた。そして、その中身にまったく見当のつかなかった夕姫は奏雅の顔をちらっと見たが、奏雅は少し恥ずかしそうに目をそらしただけだった。


「開けてみろよ」


 奏雅が目線を外したままそう言ったので、夕姫はおそるおそるその小物入れを開けてみた。


(…………!)


 そこには、大小いくつものピアスが入っていた。夕姫はそれを見て、あのとき海で見た奏雅のピアスを思い出した。その小物入れの中のピアスも、同じように夕陽を浴びてきらきら輝いていた。まるで宝石箱のようだった。


 夕姫は奏雅の顔を見て、聞いた。


「……いいの?」

「使ってねーのばっかだから。ちゃんときれいに洗ってあるから、大丈夫」


 とたんに夕姫の心に嬉しさが湧いてきた。嬉しくて嬉しくて、言わずにはいられなかった。


「ありがとう」


 そして、夕姫は奏雅を見て笑った。


 奏雅は少し驚いたように言った。


「安藤が笑ったとこ、初めて見た」


 夕姫は、それを聞いて、自分が笑ったことに自分で驚いた。そして、また嬉しくなった。自分が笑えたのは、そして、こんな気持ちになれたのは、きっとこの人のおかげなんだろう、と思った。



 ピアスを開けた耳はまだ少しだけ痛かったけれど、いじめられたときの痛みなんかよりも、ずっと心地良い痛みだった。


(つづく)

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