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敵意と弱点

 出発はまたこの場所に来てくれ、と学園長に言われ、次の日まで時間が空いた。


 とりあえず俺は生徒会室に向かった。

 元々、向かう予定だったし、俺の師物も少しだけおいてあるからだ。回収しなければ邪魔になるかもしれない。


「……すくな」


 それだけが感想だった。


 俺自身の荷物は本当に少しだった。主に時間つぶしの書籍などだ。


 それが置かれていた部屋の棚はほとんどが空になっていた。

 誰かが掃除でもしたのかと思うほど、まるで新しい教室になったかのように、彼女たちがいた痕跡はなかった。


 俺がその部屋を出る時、胸が痛んだ。

 一度振り返り、再び歩き始めた。


 明日、俺は初めてこの国から外に出る。


「修行しかねぇよな」


 寮に荷物を置いた俺は学園にある修練場に向かった。


 普段、生徒が学園内で魔術を自由に使うことは許されていない。

 唯一許されているのがこの場所だ。

 騎士団のスカウトが来るほど注目され、この学園で力が強い生徒が集まっているイメージがある。


 今日もいつも通り、上級生から下級生まで、自分の力を高めようとする生徒が戦いあっていたり、一人で魔術を行使している風景が広がっている。

 ここを利用するのはいつもオリビア会長に連れられてだった。


 俺はほとんどの系統に適性がない。ここにいる生徒を見ていると羨ましくてつらい。


「お前は、ルイン・へリッドじゃないか」

「先輩、はじめまして」

「ああ。ラグ・シャーナルドだ。好きに呼んでくれ」


 ラグ・シャーナルドといえば、結構有名な武闘派の先輩だ。オリビア会長のことが苦手で、生徒会への加入をかたくなに断られたと会長が言っていた。


「お前はなぜのんきに歩いている? オリビアとカイナを殺したのはお前なんだろ!!」


 目の前にあった先輩の身体が遠くなる。


 風というにはあまりにも威力が穏やかじゃない。

 まるで壁にぶつかったかのような衝撃だ。


 何よりも魔術の発生が早い。

 ラグ先輩の言っていることに心あたりはないが、ラグ先輩はすでに次の攻撃の準備に移っている。


「吹き飛べ!!」

「『魔術吸収』!」


 吹き飛ぶだけじゃすまない威力が込められた術式が展開されると、可視化された風の刃で構成された剛速球が発射された。

 しかし、いくら威力を込めようとも放出系の魔術は俺の魔力に変換されるだけだ。


「会長を返せっ!!」


 右から声が聞こえ、フルスイングの木刀が視界に映る。


 顔面をつぶす軌道を腕で阻止し、精一杯後ろに飛び、追撃を避ける。

 しかし、俺の右腕は肘の少し先で折れ曲がっている。感覚が今はなくなり、動かすこともできないが、少し経てば重い痛みが襲ってくるだろう。


 状況は理解した。

 この場にいる生徒の何人かは俺を殺そうとし、他の生徒は恐怖と怒りの感情を俺に向けている。

 どうやらオリビアとカイナを殺したのは俺ということになっているらしい。


 そんなことになっているなら学園長も言ってくれればよかったのに。

 その解決もかねての国外修行なんだろうか。


 しかし、このままでは殺されるのも時間の問題かもしれない。

 サリバンほどの近接戦闘能力はなく、遠距離戦闘能力もない。

 だが、肉弾戦に持ち込まれた場合、相手が身体強化の魔術を使ってくれなければ対抗手段は自力のみとなる。


 ここでも俺の弱点は変わらない。

 戦争ではこの穴をだれかが埋めてくれるのかもしれない。

 だが、俺一人では、誰にも勝てない。


「どうした殺人鬼! カイナの方が強かったぞ、オリビアの方が強かったぞっ!!」


 風の魔術によって加速した女生徒が切りかかってくる。


 こんな風による援助を打ち消すことも俺にはできない。


 何ができる?

 今の俺は何ができる? 


『今のお前には何もできない。だが、ここからは違う運命を勝ち取ってもらうぞ』


 心から声が聞こえた。

 授業に見た夢で聞いた声だ。

 内容を思い出すことはできないが、この声帯が痛んだかすれた声は覚えている。


『復唱しろ。ここに示すは神への反逆』


「ここに示すは神への反逆。っ!」


 無様に、女生徒の攻撃を泥臭い動きで何とか避ける。


『世界の理を還す者よ』

「世界の理を還す者よ」


 舌打ちをした女生徒は再びラグ先輩の援護を受け、加速する。

 女生徒と逆方向に逃げようとした俺の行く手に土の壁が現れ、逃げ場を防ぐ。

 女生徒が何かを叫びながら、切りかかってくる。


 だが、俺は、内から作り変えられるような痛みで、その声を聞き取る余裕はなかった。


『孵れ、5つ目の宝術』

「孵れ、5つ目の宝術」


『「創・希望ブラフマー」』


 真実をしらないこの人たちを傷つけず、俺の話を聞いてもらうための力。


 襲い掛かる木刀は瞼の裏に引き込まれた。そんな感覚が気持ち悪くて、思わず眼を瞑った。


 現実が瞳の奥から脳に広がり、押し出されるように修練場に入る寸前の記憶が引っ張られる。

 師匠と初めて会った場所から出たときと少し感覚が似ているかもしれない。


 頭の中が外とつながったような感覚が収まり、目を開けた。


「ここ、は」


 記憶通り、俺は修練場の前に立っていた。


『まだ時は満ちていない、気を付けろ』


 そして心の声もいなくなった。


 今何が起こったのか理解することもできず、相談できる相手もいない。

 だが、この場に居続けると、厄介なことになるのだろう。


 寮の部屋に戻りながら考える。


 あれが現実だったのか、だれか知らない人が俺に予知夢を見せたのか。

 それとも俺の中にもう一つ人格があるのか。


 寮についた。

 ここにつくまでできるだけ人目を避けてきたこともあって、襲い掛かられることはなかった。


 俺は思い出しながら声に出す。


「ここに示すは神への反逆、世界の理を還す者よ、孵れ、5つ目の宝術。創・希望ブラフマー……」


 何かが起こる気配もなく、さっきの感覚の欠片も感じられない。

 つまり、今の俺では使えない隠された力的なものなのか、誰かほかの人の術式だったのだろう。


 俺は諦めて、自分の術式の構築速度と制度をあげる訓練を始めた。








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