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現実と心の中と覚悟の1歩

 約二日。体感時間ではもっと長かったように思う。

 気絶させられた俺は光の入らない部屋で監禁されていた。


 飲食は一日に二回。その時だけ扉が開かれ、口に栄養素を突っ込まれた。

 その時間以外に生きていると感じられる時間がなく、縛られた手足の感覚がなくなるまでそう時間はかからなった。


 しかし、変化があった。

 おそらく、俺は寝ていたのだろう。

 縛られたままだが、どこか書斎のような場所で女性と向き合って座っていた。

 そこにいる俺はけがの一つもなく、清潔な服を着て、健康体だった。


 その場の雰囲気に体が慣れてきたとき、目の前の女性が口を開いた。


「ルイン・へリッド。お前は傲慢で、怠慢だ」


 この女性にも、そんなことを言われる理由にも心当たりはない。


「お前のせいでオリビア・ランドマークは死んだ」


 そんなことはない。

 あれは……どうしようもなかった。


「お前のせいでこれからさらに多くの人が死ぬ」


 ここに捕まっている俺が外で起こるかもしれない惨劇の原因になるわけがない。


 ーーそもそもあんたは誰だ?


「お前は力を持つものでありながら、その責任から逃げ、戦うことを捨ててきた」


 ……お前が、俺の何を知ってる?


「知っているぞ。その力の可能性に気付いていることを。そして、臆病風に吹かれ、逃げたことも」


 可能性なんてない。

 俺の特有魔術は、『第三永久機関ザ・サード』は魔術を吸収するだけの魔術だ。


「お前の幼少期は輝いていただろう? 特別に与えられた力だと勘違いし、家族のため、友のため、国のため……努力を惜しまなかった。そんなお前に多くの者が感心し、弟も羨望のまなざしを向けていただろう?」


「誰か知らないけど黙れよ」


 過去は過去だ。

 俺は、過ちを繰り返さない。

 人の未来を奪うようなことは、二度としない。


「ようやく声が出せるようになったか。愚鈍。お前はその力を手放して、ここで死にたいか? 力を持ちつつ責任を放棄し、嫌な事が言えない場所でぬくぬく生きていくなど許されると思っているのか? そんなわけないだろう? 世界をなめるなよ」


「この魔術は呪われている。二度と人の未来を奪わないために、不必要な詠唱を条件にしか発動しないように抑え込んだ。二度と弟のような人を生まないための努力をした! ……おの何が悪い? 魔族相手に戦うのが俺の役目だって言うのか? 魔族の実態も知られていないような国で? 馬鹿らしいじゃないか」


 戦争になるかもしれない。

 魔王という伝説のような存在を前にはちっぽけな努力など無駄だろう。

 俺は、国が亡ぶなら、死んでもいい。


「お前は怖がっているだけだろうが。覚悟もなく戦場に立てない、そういうのなら覚悟を作ってやろう」


 何を、と思った。そして、この女性の目的にも気が付いた。

 この人は俺を殺そうとか、力を奪おうとか全く考えていない。

 俺を戦場に立たせようとしているのだ。


 人の頭を難なくつぶして殺すような相手と戦えというのだ。


「お前の弟、優希・へリッドは今も生きて戦っているぞ。お前のために、戦いが嫌いなお前の代わりになると言ってな」

「そんなわけない、だろ。優希は俺のせいで、その一生を病院で過ごし、死んだ。治療のすべなく、死んだ!!」


 女の言葉に頭の中で何かが切れた。

 その先に続く言葉がどんなものだったか覚えていないが、胸にある思いの丈だ¥の分だけ言葉をぶつけた。



 五年前、弟を殺した。

 弟は無邪気に兄であるおれの後ろをついて歩く、お兄ちゃんっ子だったと思う。

 俺のような特有魔術は持っていなかったが、高い魔術適正と、その向上心で同年代では頭一つ抜けていた。

 弟の夢は近衛騎士団に入団することだった。


 あの頃の俺は近所に住んでいた魔術師のおじちゃんと、魔術を使う練習をしていた。

 あの日は、その練習に弟も連れて行った。

 お兄ちゃんが戦っているところを見たいといった弟を断れなかった。

 練習を積んでいく中で術式への理解を深めていた俺はおじちゃんにも言っていなかった魔術を使った。

 見栄を張った。弟にかっこいいところを見せたかった。

 その結果、術式が暴走した。

 今まで陰で練習し、失敗したことがなかった魔術を試したはずだった。

 けれど、房総の結果、術式が弟を襲った。


 弟は魔術が使えない体質になった。

 けれど、それだけではなかったのだろう。

 術式を受けた弟はその場で気絶し、そのまま意識を取り戻すことなく……半年後に息を引き取った。


 そんな術式を、俺は二度と使わない。

 人を傷つけない魔術師になると覚悟を決めたのだ。


「だから、優希が生きているなんてありえないんだよ」


 そんな過去をおそらく、目の前の女は知っている。


「嘘ではない。しかし、今証明する方法はないな。ここを出て、自分の足で会いに行きたくはないか?」


 怒りに身を任せているうちに、俺は立ち上がり、手足の縛りも破って女に詰め寄っていた。


 眼下で、女はニヤリと笑う。

 挑戦的な、向上心に満ちた、光に満ちた瞳で。


「……お前の口車にのってやる」


 弟のことは、ほとんど信じていない。

 この女が俺を戦わせるための詭弁だと頭ではわかっている。


 けれど、心はそれを理解しない。

 目の前に現れた希望にすがりたいと想ってしまっている。


「では、まずは魔族を倒さないとなぁ? 外で待っているぞ、ルイン・へリッド」


 そう言い残し、女は陽炎のように揺れ、消えた。


 女がいなくなっても、景色が変化することはなかった。


「……自分で進めってことか」


 巨大な術式が俺を中心に部屋の壁を越え、広がった。


 ーー戦う覚悟は決まった




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