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第八話:アルスの脅威

 ドルベがアルスからみっともなく逃げ出した時から、少しだけ時間が過ぎた街の一角にある場所。


「グッ、グッ……くはぁーっ!」


 アルスが以前荒くれ相手に大立ち回りを繰り広げた、王国からは遠く離れた街で、勇者フリオは表向き認められていない酒をこれ見よがしに飲み干していた。


「うっとおしい奴がいなくなって、せいせいしたぜ!」

「よろしゅうございますなぁ、グフフ!」


 勇者としての肩書や名誉を陰謀によって守り、上機嫌なフリオは街の長である小太りのスーツ姿の男にスリスリと揉み手をされている。


 アルスが旅の途中に不快感を覚えた街は、フリオを始めとする王国の悪人達が王都を離れて悪事を働くのにうってつけの立地だったのだ。


 そこに通りがかったアルスが街の荒くれを数人殺傷した事はすぐに長から王都に伝わり、結果フリオは「強力なスキルを持った若者が王都に向かっている」という情報を事前に仕入れていた。


 スキル持ちの青年が王都に向かうとなれば、予想される目的は勇者パーティーへの参加希望がまず第一に挙げられる。

 それを事前に止める事は街を抜けられた時点で対外的に難しい事だったが、来るとわかっているのならやりようは枚挙に暇がない。


 国王に対し、先だって「街で大暴れをした、勇者パーティー志願の乱暴な兄弟がいる」と入れ知恵すれば、兄妹の印象は最悪の形で植え付けられる。


 そもそも国王自体も街にお忍びで訪れては、街の空気を知って売春で身を立てようとする女を買い漁っていたのだ。


 アルスを追放する為の準備自体には何の苦労もなかった。


「ったく、やんなるよなぁ。人類はこの勇者フリオ様が守ってやってるのにさぁ、時たまああいう馬鹿が『世界を救うんだー!』って顔して来やがる」

「勇者フリオ様には、私も大変お世話になっておりますから。迅速な報告は役に立ちましたでしょうか? ウヒヒ……」


 更に揉み手を擦る、街の長が媚びへつらった表情でフリオにご機嫌取りを行う。


「あー、アレな! 役に立ったぜ、ありがとな! これで、これからもこの街を治めるのはアンタで決まり! 俺からも色々口を利いてやるからな!」

「ありがとうございますぅ!」


 「勇者」という王国の重要人物であるフリオは、商人や国の重鎮とも面会を求める事ができる権力を握っている。


 それを悪用する男にとって、自分が気に入った者を街のリーダーとして推薦する事など造作も無いことだった。


 現にこの揉み手を擦る小太りの男は、それによってこの街の支配権を手にすることができたのだ。


「また綺麗な女がここに来たら、まず俺に味見させてくれよな! この間の奴は最高だったぜ」

「ああ、旅の女冒険者の寝込みを襲って娼婦に仕立てた時の話ですな。かしこまりました、もしもそういう獲物がこの街に現れた時には優先的にご報告致します。……これからも、どうぞよしなに。グッフッフ!」

「そうこなくちゃな、ヘッヘッヘ!」


 まるで善性の欠片も存在しない笑みを浮かべるフリオ。

 人類を守る為に魔王軍と戦うつもりなど毛頭無いこの男は、手下と化した者との愉快な時間を過ごしていた。


 だが、そこには思わぬ来客があった。


「フリオ様ぁぁぁぁ! 助けてっ、助けてくれぇぇぇ!」


 現れたのは、一人の粗暴な声の男。


「なっ、なんだ、ドルベか!?」

「ひぃぃぃ!!」


 フリオは見知った顔の男の様子に驚きながら声を荒げて、同じく街の長もまた悲鳴を上げる。


「たす、けて……」


 ドルベの体はボロボロだった。

 王国兵の標準装備である鎧はベコベコに凹んでおり、薄汚い泥に塗れている。

 何度も激しく転倒した証だ。

 そして、何よりその右腕。

 応急処理だけが施された胴体の右側には、生えているべきものが存在しなかった。

 代わりにそれの生え際である肩口に包帯が乱暴に巻かれており、血がほんの少しだけ染み出している。

 

 明らかに異常事態だった。


「お前、アルスを始末して妹を連れてくる筈だったろ!? 何があったんだよ!」

「ひっ、ひぃー!」


 ドルベの惨状を目の当たりにした街の長は悲鳴を上げて、部屋から出ていってしまった。

 それは自分が厄介事に巻き込まれたくないとする気持ちと、単純な恐怖からの行動。


「あいつが、あいつが……!」


 二人きりになったドルベは膝を付いて地面を見下ろし、まるで恐ろしい物でも見たかのように震えながらつぶやき始めた。


 自分がアルスの指示通り兄妹をダンジョンに連れて行った事。

 そして兄を始末して妹を大人しくさせようとした瞬間、抵抗にあってしまった事。

 結局二人を串刺しにして帰ろうとした矢先、黒い狼型の化け物に襲われた事など。


「……」


 それを聞いていたフリオは酒が入っていながらも険しい顔でドルベを見下ろし、そして口を開いた。


「首や頭に拳を貫通させたのに、死ななかったって言ったのか?」

「あ、あぁ、ああ! そうなんです!」

「で、妹も殺しちまってスキルだか何だかわかんねーアルスの力でボコボコにされて帰ってきたのか?」

「……はっ、はい……」

「……この、役立たずが……!」


 フリオは乱暴に立ち上がって、足元の重傷を負ったドルベを足蹴あしげにし始めた。


「てめぇ、珍しいスキル持ちでしかも自由の利く一兵士だからって使ってやってたのによぉ! 何の役にも立たねぇじゃねぇか! 何が騎士団への口利き希望だ! テメェなんか一生雑兵ぞうひょうやってりゃいいんだよ!」

「ぎっ、あぁぁっ!」


 傷ついた肩口を重点的に狙われ、倒れ伏したドルベは痛みに悲鳴を上げる。


「はーっ、はーっ……! チッ、じゃあ今夜の相手が死んじまったって訳かよ……!」


 ひとしきりドルベに暴力を奮って憂さ晴らしを終えたフリオは、気にかけていたエルマがいなくなった事を思って舌打ちをしていた。



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