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第六話:さらなる絶望、新たな力

再開!何話か連続で投稿します。

 わけがわからない、あの追放劇から少しの時間が流れて。


 ピチョン、ピチョン……


 俺とエルマはたった一人の兵に腕を縛られ、とある場所を歩かされていた。


 水滴が落ちる、湿っぽく薄暗いダンジョンの中。

 馬車に乗せられ、王都から遠く離れたこの場所にまで俺たちは送り込まれていたのだ。


「なんで、こんな所に……」


 俺は当然の疑問を口にする。

 突然の玉座での追放劇。

 それからの、まるで最初から決められていたかのようなダンジョンへの連行。

 わけがわからないことばかりだった。


「それに、何なんだこれ……?」


 俺は自分のスキルを発動出来ないでいた。

 俺を拘束する手枷が何らかの力を封じ込めているようで、一切「獣化」する事ができない。


 しかも俺たちが歩いているこのダンジョンには、モンスターが一匹も出てこない。

 入り口には王国軍の兵士が警備に立っており、他人がこの場所へと入るのを拒んでいた。


 ダンジョンにはそこに巣食うモンスターがひしめいている筈なんだが、まさかここは王国が管理しているダンジョンなのか?

 何の為に、そんな事を……。


「ぼちぼち始めるか」


 俺はそんな考えを巡らせていたが、そこで突然俺達を連行していた粗暴な顔の兵士が呟きを始める。


「……?」


 俺に連なる者として連行されただけのエルマが、疑問を浮かべた顔でそいつを見た。


 だが、それに兵士は薄ら笑いを浮かべる。


「そんな顔で見るなよな、妹ちゃんよ。……りぃけどなお前の兄貴にはここで死んで貰うつもりなんだよな。ヘヘッ!」


「!!!」


 俺はその言葉に、戦慄せんりつを覚えた。


 死んで貰う? つまり、それは反逆者として処刑されるという事なのか?

 ただ勇者の仲間として依頼をこなしていただけの俺を、まさか本当に殺すつもりなのか!?


「何を言ってるんだ!? そんなのおかしいじゃないか!?」

「そうよ、優しい兄さんは貴方達を守る為に戦って来たのよ! それをこんな所で処刑するなんて、ありえない! 後ろめたい事があるから、こんな所に連れてきたんでしょう!?」


 そんな俺達の抗議の声にも、兵士は苛立った顔で暴力を振るって来る。


「うるせぇんだよ!」

「ぐあっ!?」

「兄さんっ!」


 拳が俺の顔面に飛んで来て、俺は尻餅を着く。


「教えといてやろう。俺は今こそ一般兵の立場だが、本当の所陛下や勇者とも特別懇意こんいにさせてもらっててな。」


 粗暴な顔の兵士は、聞いてもないのにベラベラと自分語りを開始する。


「今はクソつまんねぇ一般兵に甘んじてるけどな、じきにあのアーシア騎士団長も追い抜いてドルベ騎士団長としての地位に成り上がる予定なんだよ!」


 名前をドルベと言うらしい兵士は、そのまま内心の薄汚さをさらけ出すような顔で笑みを浮かべ始めた。


「そしたらあんなじゃじゃ馬娘、俺様のベッドでヒイヒイ鳴かせてやるってもんだぜ」

「この、ゲス野郎……!」


 俺は怒りに震えていた。

 自分が今正に処刑されようとしているからではない。

 この男が、あの俺達を救おうと必死に庇ってくれたアーシアに対して下衆の極みな妄想を繰り広げている事に我慢がならなかったからだ。


「へへっ、いいなぁ負け犬の遠吠えってのは! 気持ちがスカッとするぜ!」

「最低……! 貴方も、あの国王も、あの勇者も、皆が皆兄さんを罠にかけようとしていたんだわ! 恥を知って!」


 エルマは普段の穏やかで可愛らしい表情を一変させて、怒りの顔で兵士を(なじ)った。


「おっと。妹ちゃんは処刑しないんだぜ。……実はフリオさんがお前を気にかけてるらしくてな」

「な、何だって……!?」


 あの勇者という肩書をした豚野郎は、エルマをそんな目で見ていたのか!?


「じきに女にしてやるとよ。良かったなぁ、王国で二番目に偉い奴の女になるんだ」


 ドルベは見るに耐えない顔で笑い、エルマの顎を持って顔を見つめた。


「ま、その前にバレねぇように味見するんだけどな」

「や、やめ、て……!」


 エルマは必死に顔を背けて、劣情に塗れた男の視線から目を反らす。


「これが、大陸を支配する国のやることなのか……!? 魔王軍から人間を守る立場の人間が、する事なのか!?」


 俺は自分に降り掛かった全てに対して、怒りを爆発させる。


「うるせぇなぁ……。お前は、もうとっとと死ねよな」

「っ!やめてっ!」


 不機嫌な顔で俺を見たドルベは、スラリと腰に差した剣を抜く。

 それを見たエルマが飛び跳ねて俺の前に出ると、次に信じられない事が起こった。


「あ、ああぁっ……!」


 エルマの、俺の妹の悲鳴が聞こえた。

 俺を刺し殺そうと剣を突き出したドルベの前に、エルマが割り込んだ。

 すると剣先はエルマの胸の真ん中へと吸い込まれるように刺されて行って、背中まで串刺しにしたのだ。


 目の前の光景が、嘘のように現実味が無かった。


「チッ……! あぁクソ、邪魔すんじゃねぇ!」


 ドルベはしまった、という顔をしてエルマから剣を抜こうと試みる。

 しかしエルマは、


「兄、さん……。逃げ、て……」


 と最後の気力で、剣を血まみれの手で掴んでいた。


「……だったら、仲良く死にな!」


 すると突然、ドルベはエルマを貫いたままの剣を握って俺の方へと突進し始めた。


「……ぐあぁぁぁっ!」


 そしてエルマを貫いている切っ先が、俺の胸にも届いてしまう。

 焼けるような痛み。

 ズブズブと埋め込まれる剣は俺とエルマ二人を串刺しにして、動きを止める。


「あっ、あ……っ!」


 そのまま俺たち二人は地面に倒れてしまった。

 

「……ケッ! 田舎もんがよ! 神から与えられたスキルなんか持って、調子に乗るからだぜ!」


 ぼやけた視界の中で、ドルベの罵声が聞こえて来る。

 コツコツと音がしたから、そのまま去ってしまったのだろうか。


「兄、さん……」


 俺の上に倒れ込んで、俺と一緒に胸を貫かれたエルマが声を出す。


「ごめん、なさい……。私、何の役も、立てなかったね……ごめんなさい……」

「エル、マ……!」


 涙を流した、俺の最愛の妹の命が消えて行く。

 冷たくなって行くエルマは、最後に俺の顔へと手を当ててきた。


「……私も癒やしの力が、使えないから……。だからせめて、この力を兄さんにあげる……」

「……よせ、エル、マ……!」


 だが、俺の頬に当たった手からは温かい何かが流れ込んで来た。

 それはエルマのスキル、「癒やし」の力。

 エルマの命そのもの。

 それが俺の中に溶け込んで消えて行った時、エルマは。


「大、好き……兄さん……」


 俺の目の前で、その命の灯火ともしびが消えてしまった。


「……う、うわぁぁぁぁぁ!!!!」


 俺のたった一人の肉親。

 最愛の妹。

 それが、目の前で命を落としてしまった。





「……」


 それから俺は、動かなくなったエルマを上に載せたままで妹と同じ死を待つしか無かった。

 しかし、いつまで経ってもその時間は来ない。


「……?」


 ふと気がつけば、胸に刺さった剣の痛みが無くなっている。

 不思議な事だった。一体何が?

 もう痛みすら感じないのか……。


「……ぐっ、うっ……!」


 俺は拘束された腕を回して、震えながら剣をエルマの背中側から引き抜いて放り投げた。

 血塗れのそれはカラン、カランと床に転がる。


「……何だ、これ……!?」


 そして俺は自分の胸を見て、驚愕に目を見開いてしまった。

 血塗れで裂けた服の下に、傷が無い。

 いや、たった今まで、確かにそれはあった。

 だが瞬く間に塞がってしまい、元の素肌に戻っていたのだ。

 俺の胸に大きな傷跡を残したまま。


「……エルマ……」

 

 俺は胸の上で息絶えたエルマを見ながら、確信していた。

 これはエルマの力だ。

 嵌められた手錠の力を凌駕する程の、巨大な力が俺の中に渦巻いている。

 それは血を分けた兄妹の、俺とエルマのスキルが混ざり合った能力の効果。


「獣化」と「癒やし」の力が合わさった、全く別の何かの力だった。


「……」


 まるで何ごともなかったかのように、俺はその場に立ち上がる。

 そしてエルマの亡骸なきがらを腕に抱えて、その冷たくなってしまった顔を見ていた。


「エル、マ……」


 やがて俺は自分の中に生まれた新しい力を感じながら、ダンジョン中に響き渡る雄叫びを上げた。


「……」


 そして、体から溢れ出る力を使って手錠をパキンと壊す。


ズズズ……


 体が新たなスキル、いや力によって黒く変貌していく。

 それは大切な妹、エルマを奪われてしまった事による憎しみと復讐の力だった。

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