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第四話:王都と勇者パーティー加入、そして

 連れられて入った王都の町並みは、俺達が今まで見てきた町などとは比べ物にならない程の景色だった。


「……この世界には、こんなに人がいるのか……!」

「わぁ……凄い、凄い!」


 城下町を往来する人の数々。

 道端では様々な種類の人間がそれぞれの目的地に向かって歩いていた。

 大人や子供、若い男から老齢のお婆さんまで、その年齢や性別はバラバラだ。


 そして何より、遠くに見える巨大な城。

 城下町を見下ろすアレが、この国を治める国王陛下とか言う人がいる場所か。

 大きすぎて距離感が狂いっぱなしだな……。


「ふふっ、驚いたか? これが大陸最大の王国、人類の最も繁栄する国の姿だ」


 前を歩くアーシア騎士団長が誇らしげな声で俺たちに言葉をかける。 

 

「アーシア騎士団長さん。……この人達を、魔王軍は苦しめているんだよな」

「……私、聞いたことがあります。王都に荷物を運ぶ商人さんの馬車が、モンスターに襲われて帰らなかった事があるって」


 俺の言葉に、エルマも村に来る商人から聞いた話を伝える。

 エルマと繋がったままの手に小さな力が入った。


「気軽にアーシアと呼んでくれていい。そして、そのとおりだ。魔王軍とやらは長きに渡って人間を滅ぼそうとしている」


 アーシアは綺麗な顔をほんの少し厳しい物にして、俺のまだ見たことの無い魔王軍への怒りを見せた。


「……俺、頑張って勇者達の仲間に入れてもらいます。そして、必ず魔王を討伐して見せます」

「私も! 兄さんと一緒に、何とか人々の助けになれるように頑張ります!」

「ああ。期待してるよ」


 アーシアは、優しい声で俺たちに笑みを見せてくれた。




「……ここが?」

「ああ。冒険者ギルドと王国が共同で管理する、勇者達の専用拠点だ」


 俺たちはそのまま、町の中心部から少し外れた場所にある建物の前に来た。

 周りは少しだけ人気がまばらで、とても英雄達が魔王討伐の為に使うような場所には見えない。


「なんだか、怖い……」


 エルマも建物の雰囲気に、不安を覚えているようだ。


「もう少し前は、まだ活気が溢れていたのだがな。……今となっては、こんなものだ」


 何故か少し苦々(にがにが)しい顔になって、アーシアは言葉を漏らす。


「まぁ、とにかく入ろう。この中に勇者達がいるのは間違いない」

「?」


 そういえば、と俺は思った。

 勇者達が話に聞くような英雄なのなら、こんな所に拠点があっても不便なだけじゃないのか?

 もっと外壁沿いに作らないと、冒険に出たりするのに都合が悪そうに見えるんだが……


「どうしたの、兄さん? 早く入りましょうよ」


 疑問を頭の中に浮かべながらも、俺はエルマに急かされ建物へと入った。




「久しぶりだな、勇者フリオ。今日も酒びたりか?」


 勇者の拠点。

 俺たちがそんな言葉を聞いて想像していた建物の中は、ハッキリ言って小汚かった。

 

 散乱する酒瓶からはキツい酒の匂いがする。

 それなのに家具なんかは明らかに高級そうな物が並んでいて、なんだかおかしな雰囲気がただよっていた。


「……んん? おー、騎士団長のアーシア様か!」


 そしてその中心地にあるソファにだらしなく座り込んでいた、俺よりも一つ二つだけ年上に見える男。

 下着同然の格好をした女をはべらせてる、軽そうなこの男が、まさか今勇者フリオと呼ばれた男なのか?


「嘘だろ……」

「この人が、勇者様……?」


 俺とエルマは、揃って唖然あぜんとした。


 これが、人間の希望の光?

 魔王軍と戦う、王国の英雄の姿なのか?


「……いい加減酒はやめたらどうだ、フリオ。貴様はまだ飲酒を許されるような年でもないだろう」


 アーシアが呆れた声を出した。


 この国で酒を飲めるのは二十才からだ。

 ということは少なくとも、勇者フリオは俺と同年代か。

 だが、だからと言って親近感が湧くような事は無かった。


「へへっ、いいじゃんか……。最近は魔王様とやらもぜーんぜん動いてこねぇし、アンタも飲もうぜ? それとも、やっぱり年がどうとか言うのかよ」

「当たり前だ。私はまだ十九だぞ」


「えっ?」

「ええーっ!?」


 俺は少しだけ驚いてしまったが、それよりも大きな声で驚いたのはエルマの方だった。

 

「アーシアさん、まだ兄さんより一つしか違わないんですか!?」

「あ、ああ……。この年で騎士団長などをやっていると、上に見られがちなのだが」


 アーシアは自分に詰め寄るエルマに、少し気圧されながらも言葉を返す。

 エルマは何を慌ててるんだ。


「で、そっちの二人は何なんだよ、騎士団長様? まさか田舎から出てきて、道に迷ったのかよ。ヘヘッ」


 フリオはだらけた態度のまま、俺達の方をジロジロ見る。

 それをさえぎるように立ちはだかったアーシアは、侮蔑ぶべつの色を隠さない声で一方的に言葉を吐き捨てていった。


「この二人は勇者の仲間に入れて欲しいという、スキル持ちの兄妹だ」

「あー? 今どきそんな奴がいるのかよ……」

「お前とは大違いの、希望を持った若者達だ。今日はお前に、勇者パーティの一員になったという事を伝えに来た」

「あーはいはい、好きにしてくれ……」


「ええっ!? どういう事なんだ!?」

「アーシアさん、どういう事ですか……?」


 俺達二人は話について行けなくなっていた。


 アーシアは俺達の方に振り返って、「安心しろ」と優しい顔を見せる。


「実は、「スキル持ちの」「誠実な若者」というのは本当に珍しいんだ。ハッキリ言って、私はもう外壁で話を聞いた所で加入を許していた」

「加入はこの人が認めるんじゃないんですか?」


 エルマは至極しごく当たり前の事を言う。


「この男に人選など任せていられるか。こいつは只、強力なスキルと王家の末席にある血によって勇者に選ばれただけの、ただのクズだ。悪い噂も次々騎士団に届く」

「ひでぇなぁ、俺はただ世界を救おうと必死にやってるだけなのによ。そりゃあちょっとりぃ事もしたけどよ、それもこれもぜーんぶ魔王軍が悪いんだろうが」


 フリオは悪びれる様子も無く、ただヘラヘラとアーシアに笑うばかりだった。


「……」


 それで俺は、自分の中にあった「英雄たる勇者」のイメージがガラガラ崩れ落ちていくのを実感する。

 エルマも同じ気持ちのようで、エリオを汚物のような目で見ていた。

 「世界の為に役に立つ」という志が強かったエルマにとっては、なおさら失望が強かっただろうな。


「とにかく、これで話は済んだ。フリオは決してこの兄妹の邪魔をするんじゃないぞ。世界を救おうと人間を妨害するような事は、この私が許しはしない」

「はいはいっと……」


 要件を済ませたアーシアは俺たちを連れ、すぐに建物の外へ出てしまった。

 空気が美味しくなったのを感じた俺たち二人は開放感を感じるが、そこで「あれ?」と思い立った。


「そういえばアーシア、他の勇者パーティの仲間は?」

「いたさ。フリオの隣に、娼婦みたいな格好をした女が。あれも仲間の一人だ」

「えぇっ!?」


 さっきから驚く事の連続だ。


「あの、エッチな格好をした女の人が兄さんの仲間に……!?」


 エルマも驚いていた。

 出来れば二人共、二度と妹には会わせたくないな……。


「大丈夫だ。これで奴らと会う機会は最後の筈だ」

「……じゃあ、俺たちこれからどうすればいいんですか?」


 勇者達の一員になったらしいのはいいのだが、なんだか先の事がわからない。


「大丈夫だ。これで君たちは勇者の一員になったし、私も正式な書類で報告をする。君たちは王国から提供された家に住めるし、魔王討伐の任務は冒険者ギルドを通して受けてもらう」

「は、はい……」


 エルマは空いた口が塞がらないらしい。


「ともかく、これで君たちは英雄への道のりを歩き始めたのだ。私も微力ながら力を貸す」

「……!」

「一緒に世界の為に、力を尽くそう」

「はい! 喜んで、アーシア様!」


 様付けで呼んで来る、希望を持ったエルマの言葉にアーシアは満足げな顔をしていた。







 しかし、俺達はその一ヶ月後に勇者パーティからの追放を受けたのだった。

 それは俺たち兄妹にとって最悪の、しかし王国にとっても最悪の自体を引き起こす事になる。



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