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最終話 復讐の果てに


「アーシアか……」


 俺は自分を隠し通路の出口で待ち構えていた女騎士団長に、何をしに来たのか何となく理解をして小さく名前を呼んだ。


「王国の女騎士団長様。お前の仕えるあるじは、この先で黒焦げになってるぞ」

「っ……」


 続けて言った事実を、アーシアは顔を伏せて受け止めていた。

 そして苦渋の面持ちを保ったまま、アーシアは俺に対して口を開く。


「……ああ、わかっている。声は聞こえていたよ」

「どうするんだ? 俺はもう、復讐を果たした」

「……まず、言っておこう。私はもう、この王国の騎士団長では無い。剥奪はくだつされてしまったからな」


「……」


 絞り出すような声に、俺はアーシアに降り掛かった事に察しを付けた。

 恐らく俺が王国を追放された時のように、王に向かって何か苦言を呈したのだろう。

 いつの間にアーシアが王国に来たのかはわからなかったが、騎士団長の座を剥奪されたと言うそれだけで何が起こったのかは明白だった。


「だからもう、私は王国に仕える身では無くなっている」

「……国民の避難はしていたようだが」

「騎士団の皆は、私の意思に賛同してくれた。最早指揮する権力など存在しない、私などの考えにな」

「……」


 騎士団長の任を解かれて尚命令を遂行する騎士団は、本当にアーシアをしたっていたのだろう。

 俺は玉座の間で必死に俺を庇ってくれた姿を思い出して、「なるほど」と小さく納得せざるを得ない。


 だが、アーシアにとって俺が王国の脅威である事には変わりがない筈なのだ。


「それで、どうするんだ」


 俺は密かに腕を回し、背中で魔力を集中させる。

 アーシアが今すぐ斬りかかってきても、別段不思議な事では無いからだ。

 国王を殺した俺の首は、さぞかしほまれとなるだろう。

 それを手土産にすれば、アーシアが騎士団長に復帰する事も全く問題無いに違いなかった。


「勘違いするな、アルス。……私にはもう、王国に対する忠誠心などは残っていないのかも知れない」


 しかしアーシアは再び下を向き、心の底から吐き出し辛そうな声で心情を打ち明けてくる。


「お前がこの国に対して恨みを持つのは、当然の事だと思う。エルマの事は、本当にすまないと思っている……」

「……」


 俺はそんな言葉を紡ぐアーシアを、不思議な気持ちで眺めていた。

 復讐が終わって、全てがどうでも良くなったからだろうか?


「お前達兄妹を、勇者フリオの元へ案内などしなければ良かった。そうすれば…」

「……過ぎた事だ」


 アーシアは自らの行為が最悪の結末の一端を担ってしまった事に、どこまでも無力感に苛まれていたようだ。

 だが、玉座で俺の為に庇い立てをしてくれたアーシアに対して恨みを持つ気持ちは不思議と湧いてこなかったのだ。


 だが、そんな俺に対してアーシアは思わぬ行動を取ろうとしていた。


パチン、パチン……

 

 アーシアは突然籠手を外し、現れた白い指で一つ一つ鎧の留め具を手早く外し始めていた。


「……」


 俺はそれをただ眺める。

 そして俺の目の前でアーシアは。


ファサ……


 鎧の下に着ていた肌着すら脱ぎ捨て、大事な場所だけを手で隠した状態で俺に向き合って来た。


「王国を護る責務を放棄した私に、事の発端である私に、お前を打ち倒す道理など有りはしない。だが、国民達には……罪も無い一般人達には、どうか危害を加えないで欲しい……」


 顔を恥じらいの色に染めながらも、アーシアは確かな要求を俺に突き付けて来る。


「お前さえ、それを約束してくれるのなら。……私の、このような飾り気の無い体で良いのなら。好きにしてくれて、良い……」


 俺はそれをどんな気持ちで眺めていたのか、自分でもわからないでいた。

 アーシアを好きにする代わりに、国民には手を出さない。

 元々そんなつもりは無かった俺だが、アーシアも目は恥じらいに染まりながらも決然とした意思を向けて来ていた。


「……」


――――何という不器用な奴なんだろう。

 俺は直感的に、アーシアという人間の善性がどんな物であるかを知ったような気がした。


「……待て、アーシア……!」


 そしてそんなアーシアに対し俺が口を開こうとした瞬間。




「おいおい、アーシア様! こんな所で素っ裸になって、どうしたんですかぁ!?」

「見ろよ、王国のえある女騎士団長様が反逆者の前でストリップしてるぜ!」




 後ろから、正確には俺が降りてきた大穴の辺りから、下卑た声が聞こえてきたのだった。


「な、何っ……!?」


 アーシアは驚きの声を上げてから、同時に振り返った俺の後ろに寄り添って声の持ち主達から姿を隠す。


「俺達も混ぜて下さいよぉ」

「何を反逆者に隠れてんですか? ひょっとして、グルなんですかねぇ?」

「ヒヒヒ、あの騎士団長が全裸になってやがるぜ!」


 現れた男たちは、王国軍の一般兵達。


 恐らく俺が開けた大穴から、何が起こっているのかと恐る恐る降りて来たのだろう。

 流石にそんな訳は無いと思うが、俺が「反逆者アルス」だとすら気付いていないのか?


「……俺に遭遇しなかった奴らが、まだ結構居たらしいな」

「……アルス……」

「アーシア、もうわかってるだろう。この国は、一度滅びるべきだ。うなずかなくてもいい、ただ邪魔をしないでくれ」

「……」


ズズズ……


 俺は体を変化させる。

 その腕を、大きなつるぎのような物に。


「へへ、へ……!?」


 それを見た兵士達は、ニヤニヤと笑い声を上げるのをやめて驚いていた。


「この城には、もう一般人は居そうになかったな」

「……ああ。避難していた者達には、私が城で世話になった者達もいた」

「なら、遠慮はいらないな」


「おい、何をボソボソ言ってやがる! さっさとアーシアを置いて、テメェはおっ死ね……!?」


 声を出した男を、まずは一閃。

 狭い通路の壁ごと切り裂かれた兵士は、何が起こったのかわからないまま胴体が真っ二つになってその場で倒れた。


「あ……? あ、あぁ……!?」

「……ま、待てよ……! 別に俺達、お前を殺そうって気はぇんだ……!」


 今更命乞いをする兵士達。

 だが、俺はもう今から何を行うかを決めていたのだ。


「……アーシア。少しだけ、外で待っていてくれ」

「……」


 ほんの少しだけ、俺にギリギリわかるだけの動きで頷いたアーシアはそのまま外へと走り去って行った。

 王国に対して、一度決別をつけるかのように。


「ま、待て、待ってくれ! 本当に俺たちは、戦うつもりなんか……!」

「うるさいな」


 更にもう一閃、今度は三人程の首をねる。 


「ひっ、ひぃぃぃぃ!!!」


 まだ奥の方に残っている兵士達はへたりこみ、小便を漏らして逃げ始めるが。

 出口とは反対方向に逃げた先は仲間の死体が幾つも転がっている城の中だ。


 俺はこの城自体を、王国から消滅させる決意を固めて後を追ったのだった。













 時間が少しだけ流れて、朝日が登った頃。


 城から聞こえていた反逆者との戦いが終わったのを知った国民達は一人、また一人と王国に戻って来た。


 そして瓦礫と化した城の外で呆然と立ち尽くしていたアーシアの姿を見つける。


 必死に自分達を助けようと奔走してくれた、王国の騎士団長アーシア。

 いつの間にか姿を消したアルスの脅威から解放された国民達は、やがて自分たちが次の指導者を決める必要がある事に気が付いた。


 アーシアは憔悴しょうすいした面持ちで国民達に「もう大丈夫だ」と告げ、そのままその国の英雄として祭り上げられていったのだった。

 少し経ってからノコノコ戻ってきた貴族たちを、全て追い払ってしまって。


 国民達は一定数が国へと戻っては来なかったが、それが今の王国にとっては好都合だった。








 一方、その頃。


 全てを終わらせた俺は翼を生やし、ひとっ飛びに故郷へと帰っていた。

 そして俺の姿を見て何かを察したらしい、親友のエリックは何も俺に言わないままに「その場所」へと案内して来たのだ。


「エルマ……」


 俺は晴れ渡った青空の下、妹の墓前で小さく声を漏らす。


「終わったぞ……。お前を死なせた奴は、もう一人もこの世に残ってない。だから……」


 膝を付く。

 枯れてしまったと思っていた涙が、今更のように溢れて止まらなくなっていた。


「だから、安らかに眠ってくれ……」


 周りの家々から、村の皆が恐る恐る俺を覗き込んでいるのを感じる。

 皆、俺の事を信じてくれていたのだ。


 親友のエリックは、正気を失ったかのように見せかけていた俺の演技をまんまと見破り皆に「アルスを待ってやろう」と呼びかけていた。


 それによって俺達兄妹の家も反逆者となっていた時でさえ誰かしらが訪れ、俺がいつ帰って来ても良いように手入れをしてくれていたのだ。


「うぅっ、うっ……」


 人間の姿での帰郷を果たした俺は、平穏な時間を過ごしていた「只のアルス」に戻っていた。

 涙が溢れるのを止められ無かったのは、きっとそのせいなのだろう。


 だが、そんな俺に起こったのは予想もしていないような不思議な出来事だった。


「……!?」

 

 ひざまずいていた俺の体が、突然光を放ち始める。

 それは温かい、今まで俺が纏っていたような物とは全く違う力の波動。

 白く、優しい気持ちがそのまま溢れてきたような慈愛の光だった。

 

――――兄さん……


 そして確かに、俺はその声を聞いた。

 それはどこまでも暖かい声。

 聞き間違えようの無い、最愛の妹の声だったのだ。


「エルマ……!?」


 俺がその声に驚くと同時に、体を包み込んでいた光は妹の墓に吸い込まれるように消えていった。

 そして自分の中に、あの禍々しい「力」が消えてしまったのを確かに感じたのだ。


「……あぁ、そうか……」


 それで俺は直感的に理解をする。

 これで俺の復讐は、やっと本当の終わりを告げたのだ。

 あの暴走した「力」は怒りに震える、俺のエルマを思う意思の現れ。

 絶望と憎しみを持った、俺自身が生み出した力だったのだ。

 だからエルマは、復讐を果たした俺から離れて天にかえったのだ。


「うっ……うあぁぁ…っ!」


 俺はその事を知って、再び妹の墓で涙を流した。

 それは復讐を果たしても尚、妹を失ったという事実に震える悲しみの涙だった。

  






 そして、更に一月の時間が流れた後。


「……また、ここに戻ってきたのか……」


 アルスは再び、支配者の居なくなった王国の前に立ち尽くしていた。


 その体は既に「癒やし」の力が消え、もはや不死身のような能力は失われている。

 だが勇者フリオやアーシアから吸収した力、そしてスキル「獣化」はそのまま残っており、個人としては強大な力を保持したままではある。


「……」


 崩壊したままになっている防壁を見つめ、王国に向かって歩を進めるアルス。


――――アーシア様、万歳! アーシア様、万歳! 


 防壁の向こうからは、かつてアルスを庇った美しい女騎士団長を称える声が聞こえる。


ゴソ……ポリ、ポリ……


 アルスはその声を聞きながら、手に持った疲労回復効果のある木の実を食べた。

 それは以前、アルスが妹と共に希望の旅に出た時持たされた物と全く同じ物だった。

 

――――大丈夫だ、エルマ。俺たちなら、きっと世界を救えるさ。この世界は俺たちが知らないだけで、多くの人が魔王軍に苦しめられてる。それを一緒に打ち倒してやろう……


 その胸中には、あの日最愛の妹と夢見た「魔王討伐」の夢と希望が蘇っていたのだった。


「そうだよな、エルマ……。俺たちは、人間を助ける為に旅に出たんだよな……」


 アルスは王国に向かって、三度目の歩みを始めた。


 今度は自分こそが「人間を魔王から救う勇者」として、名乗りを上げる為に。


「見ていてくれ、エルマ……」


 それが墓前で伝えようとしてくれた、亡きエルマの願いだと信じて。

 





ーーー「最愛の妹を殺され、怒り狂った追放者は全てを破壊する〜全力で防衛戦を行う王国を蹴散らして〜 」完ーーー

完結!

ちょっとだけ六月から過ぎてしまいました。



個人的には反省点の多い物語でしたが、読んで下さった方々にはいかがでしたでしょうか。


是非とも忌憚の無いご感想を頂けたら、作者としては喜びの至りであります。

辛口でも全く構いません、勉強させて頂きます!

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― 新着の感想 ―
[一言] アルスが王国にまた来たのは、アーシアとの約束を守るため。そして本人が言っていた通り魔王討伐の旅を一からやり直すためだろうなと勝手に思ってる。 その旅にアーシアも今度こそ付いてきそうな感じが…
[一言] 完結お疲れ様でした。楽しく読ませていただきました。 次回作も楽しみに待っています。
[良い点] 長過ぎず一気に読めました。 引き込まれる文章も素晴らしいです。 [一言] 次の作品も楽しみにしています。 お疲れ様でした。
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